貿易における比較優位構造の変化
今週の授業シリーズは貿易について、特に、比較優位の理解とその構造の変化についてです。まず、私の使っている教科書の例について、2国2財モデルで以下のような単価が示してあります。
自動車 (台) | オレンジ (トン) | |
米国 | 1万ドル | 0.1万ドル |
日本 | 200万円 | 50万円 |
米国と日本における自動車1台とオレンジ1トンの相対価格は、オレンジ1トンを1として、米国で自動車1台が10、日本で4となります。相対的に米国ではオレンジが安くて、日本では自動車が安いことになります。そうすると、米国はオレンジに、日本は自動車に比較優位を持つことになります。関税はもちろんのこと、輸送費や保険料などのコストをゼロと仮定して、以下の通り、簡単に4つの貿易パターンを考えます。
- 日本で200万円持っている人は、自動車1台を買って米国に輸出し1万ドルを得て、オレンジを10トン買い日本に輸入すると500万円を得ます。200万円を元手に貿易をすると500万円に増えます。
- 米国で4000ドル持っている人は、オレンジを4トン買って日本に輸出し200万円を得て、自動車を1台買って米国に輸出すると1万ドルを得ます。4000ドルを元手に貿易すると1万ドルに増えます。
- 逆に、日本で500万円持っている人が、オレンジを10トン買って米国に輸出すると1万ドルを得られますが、これで自動車を買って日本に輸入しても200万円にしかなりません。500万円を元手に貿易しても200万円に減ってしまいます。
- 同様に、米国で1万ドル持っている人が、自動車を1台買って日本に輸入すると200万円を得られますが、これでオレンジ4トンを買って米国に輸出しても4000ドルにしかなりません。1万ドルを元手に貿易しても4000ドルに減ってしまいます。
上の2つの例は比較優位に従って貿易すると交易の利得が上げられるという例で、逆に、下の2つは比較優位に反して貿易しても交易の利得は得られないということを示しています。当然です。ここで注意しておきたいのは、為替レートを全く設定していないことです。すなわち、上の例は為替レートがどんな値を取っても成り立つことが明らかです。少し年輩で事情の分かっている人は、ミカンと塩鮭でこれをやって大もうけしたのが紀伊国屋文左衛門だと思いつくでしょう。でも、20歳前後の学生諸君は紀伊国屋文左衛門と聞かされてもピンと来なかったようです。ついでながら、就職活動のシーズンでもあり、本学の学生諸君は金融機関を目指す傾向が強いように私は感じていたので、貿易ももうかる業種だから商社も考えてはどうかと言ってみました。でも、反応のないのには慣れました。
しかし、ここで1点疑問が生じます。比較優位に基づく貿易は無限の富を生み出すものなのか、ということです。物理学が否定した無限機関を経済学は発見したのかというと、決して、そうではありません。貿易取引による希少性の変化に従って比較優位の構造、すなわち、国内相対価格が上下するからです。上の表の例に即して言うと、米国から日本にオレンジが輸出されることにより、米国内でオレンジが相対的な希少性を高めて価格が上昇し、逆に、日本ではオレンジが輸入されることにより希少性とともに価格も低下します。自動車はこの逆が起こります。そして、世界は一物一価に向かうと私は考えています。しかし、ここまで学部レベルの教科書で書いてくれているのは見当たりませんでしたから、私が適当に板書しながら補足します。 ヘクシャー・オリーン・サムエルソンの定理なんかも授業で取り上げましたが、今夜のブログでは割愛します。
前期もそろそろ中盤を過ぎて、学生諸君も期末試験を意識し始めていますので、少なくとも今週の授業ではかなり活発な参加意識が見られ、私もうれしく感じています。
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