米国の金融規制改革法案をどう評価すべきか?
一昨日6月17日の発表から少しお時間をちょうだいしましたが、今夜は米国の金融規制改革法案について取り上げたいと思います。まず、米国の大統領府と財務省の記者発表へのリンクは以下の通りです。タイトルも中身もまったく同じだったりします。ある意味で当然かもしれません。
- President Obama to Announce Comprehensive Plan for Regulatory Reform
- President Obama to Announce Comprehensive Plan for Regulatory Reform
- White Paper: Financial Regulatory Reform
3番目のリンクはリポートの pdf ファイルです。表紙は以下の画像の通りです。
次に、これもまったく中身は同じなんですが、米国大統領府と財務省のプレスリリースによるポイントは以下の通りです。
- Require that all financial firms that pose a significant risk to the financial system at large are subjected to strong consolidated supervision and regulation
- Increase market discipline and transparency to make our markets strong enough to withstand system-wide stress and the potential failure of one or more large financial institutions
- Rebuild trust in our markets by creating the Consumer Financial Protection Agency to focus exclusively on protecting consumers in credit, savings, and payment markets.
- Provide the government with the tools needed to manage financial crises so it is not forced to choose between bailouts and financial collapse
- Raise international regulatory standards and improve international coordination
続いて、内外各紙の報道へのリンクは以下の通りです。読売新聞の記事は発表前のもので、一部に発表されたものと相違ある可能性も排除できませんが、一見したところ、大きな違いはないように見受けられます。なお、自分でリンクを張っておきながらナンですが、ハッキリ言って、朝日新聞の記事はとっても的外れだったりします。また、New York Times のサイトは中央銀行たる連邦準備制度理事会 (FED) も含めた規制機関の再編を巨大なグラフィックに取りまとめています。
- Wall Street Journal : Historic Overhaul of Finance Rules
- New York Times : Proposed Changes in Federal Regulation of the Financial Industry
- Financial Times : US groups face regulatory revamp
- 日経新聞: 米金融規制案、銀行以外も包括監視 FRBが資本規制を強化
- 読売新聞: 米、金融危機再発防止で規制強化…消費者保護など力点
- 朝日新聞: 金融機関に資本増強要請米、危機再発防止へ改革案
余りにも大雑把ながら、私の理解では、消費者金融監督庁 (Consumer Financial Protection Agency) といった機関を新設したりして、金融商品ごとの規制を強化しつつ、金融持ち株会社への規制や監督を含めて、システミック・リスクへの対応の権限と権能をほぼ FED に一元化しようとするもの、ということになります。加えて、各規制機関の連携を強化するために金融サービス監視協議会 (Financial Services Oversight Council) も新設されます。しかし、他方で、私が見落としているのかもしれませんが、格付け会社への規制はスッポリ抜け落ちているように見受けられますし、最後に、やや的外れながら朝日新聞が着目するように、国際的な観点から資本準備水準の引上げや規制の枠組みの改善の提案なども盛り込まれています。
事実関係に続いて評価なんですが、ハッキリ言って、現時点では評価は分かれるだろうと思います。例えば、慶応大学の小幡准教授が『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書) で指摘しているように、癌化した金融資本主義のネズミ算的な部分を効率的に規制出来ているようには私にはとても見えません。しかし、政府としてやるべきことは、投資家の損失を回避することではなく、回避すべきはシステミック・リスクですから、その点からは評価できる部分も多いにあるような気がします。例えば、昨年の今ごろ大いに読まれた白川日銀総裁の『現代の金融政策』(日経新聞) を引くまでもなく、バブルに関しては FED view と ECB view があり、後者の欧州的なアプローチは発生の時点からバブルを抑制しようとするのに対して、前者の米国的なアプローチはバブル崩壊がシステミック・リスクを引き起こさないように防止する点を重視します。必ずしも正確ではありませんが、バブルについての事前規制と事後規制とも言えます。今回のオバマ政権の法案は従来の FED view から少し踏み込んで ECB view に近づいた気はしますが、消費者保護という事後救済的な色彩も強く残っており、バブルをシステマティックに防止するのは容易でないことが見て取れます。もちろん、この先、議会との交渉によって法案の中身が変更される可能性も大いにあり得ます。
いずれにせよ、私のこのブログの一昨日のエントリーで、バブル崩壊後の重点として、銀行への公的資金の注入に続く政策は、バブルを発生・崩壊させた資産価格の分析ではなく不良債権処理であると指摘しましたが、さらにその先を見据えた政策を早くも打ち出している点はスゴイと感じてしまいました。日本なら5年はかかりそうな気がします。
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