財政再建はいかにして可能か?
昨夕、経済財政諮問会議が開催され、「骨太方針2009」の素案と2020年代初頭までの財政試算が提示されました。まず、会議の概要について、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
政府の経済財政諮問会議は9日の会合で、経済財政運営の基本方針「骨太方針2009」の素案と20年代初頭までの財政試算を提示した。素案では新しい財政再建目標の一つを「今後10年以内の国・地方の基礎的財政収支の黒字化」と設定。目標達成には消費税率の12%への引き上げが必要と試算している。諮問会議は23日に「骨太09」を正式決定する方針だが、与党との調整が難航する可能性もある。
基礎的財政収支は新たな借金をせずにその年度の政策経費を賄えるかをみる指標。政府は06年に11年度までの黒字化目標を掲げたものの、急速な景気悪化で達成はほぼ不可能になった。
私が興味あるのは「骨太方針」もさることながら、有識者議員が参考資料として提出した「経済財政の中長期試算」と題する2020年代初頭までの財政試算です。この資料の pp.5 を丸ごと引用したのが以下の3枚のグラフです。世界経済が順調に回復するとの前提の下で、ピンクの折れ線が消費税率を据え置く場合、緑が消費税率を2011年度から毎年1%ポイントずつ計3%ポイント引き上げる場合、赤が同じく5%ポイント引き上げる場合、青が同じく7%ポイント引き上げる場合を示しています。3枚のグラフは上のパネルが国・地方の基礎的財政収支すなわちプライマリー・バランス、真ん中のパネルが同じく財政収支、下が同じく公債等残高のそれぞれの名目GDP比です。なお、黒い折れ線は1月に消費税率を5%ポイント引き上げるとの前提で試算した際のものです。それ以降、景気浮揚のための財政出動により財政状況は大きく悪化しています。その他の諸前提については引用元を参照下さい。
試算結果は見れば明らかなんですが、消費税率を10%まで引き上げると2021年度に、同じく12%まで引き上げると2018年度に基礎的財政収支、いわゆるプライマリー・バランスがプラスに転じる一方で、消費税率を据え置いたり、3%ポイントの引上げだったりしたら、試算期間中にはプライマリー・バランスは黒字化しませんが、着実に赤字幅は減少します。ややこじつけですが、今年2月4日付けのエントリーで紹介した「財政の持続可能性に関する考察」と題する3月号の大学の紀要に掲載した研究ノートでは、私の知る限りで、もっとも緩やかな財政サステイナビリティの検証として、UCSD のボーン教授の方法を紹介していて、この検定では直感的にプライマリー・バランスが赤字であっても赤字幅が縮小していれば財政はサステイナブルと判断されますから、消費税率を引き上げなくても日本の財政は緩やかに持ち直すように見えなくもありません。繰り返しますが、ボーン教授の検定を持ち出すのは、ほとんど知っている人がいないだけに、ややペダンティックなこじつけと言えるかもしれません。
いずれにせよ、5月11日付けのエントリーで強調した通り、政府債務残高の最適水準に関しては、控えめに言っても、エコノミストの間でコンセンサスはありません。ただし、先月からのちょっとした変化として、国債価格がジワジワと下落を始めており、逆に、長期金利が上昇して来ており、マクロ経済や金融市場の安定が損なわれる前兆と見なすエコノミストも中にはいるかもしれない可能性はあり得ます。しかしながら、これも5月11日付けのエントリーの繰返しになりますが、将来の増税にコミットしてリカード等価定理の成立を助長したり、あるいは、feed the government 政策を取ることは、私には賢明と思えません。
最後に、ついでながら、本日、内閣府から発表された4月の機械受注統計のグラフだけ取り上げておきます。コア機械受注と呼ばれる船舶・電力を除く民需は前月比▲5.4%となり、ほぼゼロ近傍であった市場コンセンサスを下回りました。これで、4-6月期は先月発表された見通しの▲5%減に近い数字が出るものと私は考えています。4月統計の特徴は、政策によって支えられた電気機械や自動車工業が発注元として3月に続いて大きく伸び、4月には前月比で2ケタ増となった例外を除いて、他のセクターからの発注が逆に落ち込んでいることと、コア機械受注からは外れますが、外需が引き続き大きく落ちていて、海外の輸出先における在庫調整が今回の景気後退局面で重要な役割を果たしたとの私の推測を裏付けている点です。いずれにせよ、早くてもコア機械受注の底打ちは年央以降で、GDPベースの設備投資が持ち直すのは今年年末から来年年初になる可能性が高いと私は考えています。ついでながら、長崎ローカルで注目度の高い船舶も依然高水準ながら、今年に入ってから受注残高も手持ち月数もジワジワと落ち始めています。
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