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2009年6月21日 (日)

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮文庫)を読む

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮文庫)この週末に伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』(新潮文庫)を読みました。先週か先々週から、大学の生協で文庫本・新書の15%オフのセールをやっていて買い求めました。昨日、下の子をカブ隊の訓練キャンプまで連れて行った往復の電車の中で読み切りました。私が伊坂さんの小説をこのブログの読書感想文で取り上げるのは昨年2008年9月15日付けのエントリーで『ゴールデンスランバー』について、世間から1年近く遅れて取り上げて以来です。『ゴールデンスランバー』には見られなかった、伊坂ワールドに特有のカギカッコ付きの「変人」が『重力ピエロ』には現れます。そういう意味で、伊坂作品らしい小説だと私は受け止めています。ご存じの方も多いと思いますが、加瀬亮さん、岡田将生さん、小日向文世さんなどの出演により同名のタイトルで映画化され、今年5月に全国で封切られています。もっとも、私は見ていません。なお、どうでもいいことですが、左上の表紙の画像は新潮文庫のサイトから引用しているんですが、これに見られる英文タイトルは、なぜか、"A PIERROT" になっています。日本語タイトルの「重力」が抜けている気がしないでもないですし、英語なら pierrot よりも clown ではないかと思わないでもありませんが、そこは作者と編集者の趣味の問題かもしれません。それから、ミステリの要素もある小説ですから極力避けていますが、読み進む場合はネタバレがあるかもしれません。ご注意ください。

さて、小説は2歳違いの2人の兄弟、ともに20代後半から30歳前後の泉水と春を主人公にして、泉水の1人称で語られます。「春が二階から落ちてきた」で始まって、「春が二階から落ちてきた」で終わる小説です。遺伝子、あるいは、DNAとグラフィティアートと放火に関する小説です。泉水は遺伝子関係の会社の営業をしています。そして、私がカギカッコ付きの「変人」と目しているのは弟の春です。グラフィティアートと呼ばれる落書きを効率的に消す方法でもって自営業をしています。1973年4月8日のピカソの命日に生まれ、美術にたぐいまれな才能を持ち、抜群のルックスで女性にもてるにもかかわらず、ゲイでもないのに女性や性的なるものを避け、今どきガンジーを尊敬してジンクスに頼る、かなりの変わりものです。なお、私が知る限り、春は伊坂さんの死神シリーズの中の『死神の精度』に登場して、死神こと千葉と会話を交わすシーンがあるんではないかと記憶しています。ついでながら、泉水が調査を依頼する黒澤という探偵は『ラッシュライフ』にも登場していたような気がします。この2点は少し記憶が不確かです。
この兄弟は、というか、家族は過去に悲しい記憶を抱えています。母親がレイプされて出来た子供が春であり、従って、兄弟は半分しか血がつながっていません。この2人の母親はすでに死に、父親もガンで入院中です。最後に亡くなります。ストーリーとしては、仙台市内で放火事件が相次ぎ、現場近くに残されたグラフィティアートと遺伝子情報がリンクしているようで、泉水と春の兄弟に入院中の父親も加えた推理が始まります。時折、泉水と春の幼いころや高校生のころ、あるいは、母親が生きていたころのエピソードが挿入されます。そして、想像を絶する結末を迎えます。このあたりは伏せておきます。なお、最後の北上次郎さんの解説にある通り、伊坂さんは単行本を文庫にするに当って手を入れることで有名な作家であり、この小説でも文庫化の際に新たな部分の挿入があります。
私が興味を持ったきっかけは、何といっても、我が家にも2歳違いの男の子の兄弟がいることです。15年か20年ほどしたら、この泉水と春の兄弟にように育っているかもしれません。もっとも、我が家の子供達はフルで血がつながっていると私は信じています。もちろん、血のつながりと育った環境の対比としては、日本でも昔から「生みの親より育ての親」という言葉がありますし、この『重力ピエロ』の家族像に私は全面的に共感を寄せます。もちろん、育ての親のもとを去って血のつながった実の親を探し出して再会を果たすというストーリーも感動的なのかもしれませんが、DNAの一致とか血のつながりは家族として過ごした時間の重みに圧倒的にかないません。その点では、『重力ピエロ』の3年後に出版され、直木賞を受賞した三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』に一定の影響を与えた作品かもしれないと感じています。最後に、春に対する泉水の判断は、言うまでもなく、コナン・ドイル卿のホームズ・シリーズの中の「アベ農園」を下敷きにしたものだと私は受け止めています。これにも共感を寄せています。

この小説に出てくる言葉を引用すると、我が家も「最強の家族」を目指して、また、「最強の兄弟」を育てるべく努力したいと思います。

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