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2009年7月14日 (火)

『情報通信白書』を読む

今夜も先週金曜日7月10日に発表された積残し分で『情報通信白書』を取り上げたいと思います。そもそもナントカ白書というのは自省の政策や所管する産業分野を我田引水的に広報するのも重要な役目のひとつですが、この『情報通信白書』はその傾向がもっとも強いもののひとつです。昨年に続いて、今年も「ユビキタス」をキーワードに情報通信産業の重要性をしつこいくらいに指摘しています。地域振興も、世界経済の回復も、すべての中心は情報通信産業のようです。今年の白書でも第1部第1章第1節で、いきなり、「経済再生における情報通信の重要性」を論じたりしています。私が役所に就職した時なんか、かつての郵政省はx流官庁と呼ばれていましたが、今でもメンタリティはそんなに変化していないような気がします。
ですから、誠に心苦しいながら、私が着目するのは、昨年版の白書では第2章の「情報通信の現況」であったり、今年は第2部第4章の「情報通信の現況」だったりします。メディアも大雑把にこの傾向を示しており、日経新聞の記事のタイトルは「日本の情報通信、インフラ世界一 行政や医療は利用低迷、09年白書」だったり、読売新聞の記事のタイトルは「低所得者のネット利用率低下…情報通信白書」だったり、毎日新聞の記事のタイトルは「情報通信白書:先進7カ国中『安心度』の評価は最下位に」だったり、要するに、情報通信産業が世界経済や地域振興をどうかしてくれるという視点はまったくなく、客観的なデータに関する記事が中心のように私は見受けました。しかも、こういった宣伝型白書の場合、大きなジレンマがあります。何らかの予算や振興策を獲得しようとすれば、所管産業が立ち遅れている現状を提示する必要がありますし、そうなったら「何をやっているんだ」ということになり、逆に、所管産業をしっかりと伸ばすことが出来ていることを示せば「もはや振興策や予算は必要ない」と言われかねません。悩ましいところです。
前置きが長くなりましたが、今年4月16日付けのエントリーで「通信利用動向調査」を取り上げた際と同じグラフなんですが、下の図はインターネットの普及に関してのグラフです。水色の棒グラフが人口で左軸の単位は万人、赤の折れ線が普及率で右軸の単位はパーセントです。そろそろロジスティック曲線の傾きが緩やかになっている部分に達している気がします。

インターネット普及率

次に、ブロードバンドの年齢別及び所得階層別の普及状況です。いずれも水色の棒グラフが2007年末、赤が2008年末のパーセント表示です。上のパネルにある年齢別では中学生から50歳未満で高く、50歳に達すると年齢が高くなるにつれて利用率が大きく下がっているのが見て取れます。当然と言えば当然でしょう。下のパネルの所得階層別では、これまた当然ながら、大雑把に所得が高くなるにつれて普及率が上がっています。特に注目すべきは、ほとんどの所得階層で2007年末から2008年末にかけて普及率が上昇しているのに対して、200万円未満の階層は上がっていないことです。読売新聞が指摘するように、低所得者や高齢者のネット利用にはまだまだハードルが高いのかもしれません。

ブロードバンド利用状況

情報通信産業は世界経済や地域経済を救う救世主ではないかもしれませんが、それよりももっと重要なのは官庁の規制やいわゆる行政指導なんかとともに育成策をどこまで必要とするかを考えることです。多くのエコノミストには政府の育成策を必要とする産業には見えないような気がします。私もそうです。

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