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2009年7月 1日 (水)

日銀短観から何を読み取るべきか?

本日、日銀から6月調査の短観が発表されました。ヘッドラインとして注目されている大企業製造業の業況判断DIは3月調査の▲58から▲48に上昇するとともに、先行きについても▲30とさらに改善する見通しとなっています。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインに関する記事を引用すると以下の通りです。

日銀が1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス48と、過去最悪だった3月の前回調査(マイナス58)から10ポイント上向いた。改善は2006年12月以来、2年半ぶり。3カ月先の見通しでも改善を見込んでおり、輸出などの持ち直しを背景に急速な悪化には歯止めがかかった。ただ設備や雇用の過剰感は払拭(ふっしょく)されておらず、09年度の設備投資計画は前年度比2割強の減少に下方修正された。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。大企業製造業のDIは最悪期は脱したものの、水準的には日本の金融システム不安が強まった1999年3月(マイナス47)と同程度にとどまる。
業種別でみると、製造業の15業種のうち鉄鋼と木材・木製品を除く13業種で、DIが前回から改善した。輸出環境の持ち直しと在庫調整が進んだ結果、自動車はマイナス79に13ポイント、電気機械はマイナス52に17ポイント、それぞれ改善した。

次に、いつもの日銀短観業況判断DIのグラフは以下の通りです。上のパネルは製造業、下は非製造業です。それぞれ、規模別に3本の折れ線グラフでプロットしてあります。影を付けた部分は景気後退期なんですが、このところのグラフの例の通り、暫定的に今年1-3月期を景気の谷としています。

日銀短観業況判断DIの推移

ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIについては、私は少なくとも▲40周辺まで、場合によっては▲30台まで大きく回復すると考えていたんですが、回復幅は小さなものにとどまりました。市場の事前コンセンサスも下回りました。ただし、その分という言い方はおかしいかもしれませんが、3か月先の先行き見通しは大きく改善しています。年央の2四半期をならしてみれば、こんなもんということかもしれません。足下の4-6月期GDP成長率は大きくジャンプする一方で、景況感の改善とは少し乖離がある可能性も残されています。何といっても日本では大企業製造業が景気回復をけん引しますから、中堅・中小の製造業と大企業非製造業に景気拡大の余波が及びつつある一方で、中小企業非製造業はまだまだ景気回復から遠い位置にあることが実感されます。

日銀短観設備・雇用判断DIの推移

次に、上のグラフは見ての通りの設備と雇用の判断DIなんですが、業況の回復を受けて、生産要素たる設備と雇用に対する過剰感も反転しつつあります。でも、まだまだ過剰感は根強く、設備投資の回復や雇用の本格的な増加に至るまでしばらくの間ラグがありそうです。しかし、バブル崩壊後の景気後退期から今世紀にかけて観察される通り、設備や雇用に対する過剰感は一気に高まる一方で、景気拡大初期の過剰感の低下はゆっくりとした動きとなるのが特徴だったんですが、上のグラフを見る限り、今回だけは過剰感の低下がかなりのスピードで進む可能性が示唆されていると私は受け止めています。

日銀短観設備投資計画の推移

とうことで、本年度の設備投資計画も下方修正されています。通常、各企業は3月時点で抑えめの設備投資計画を作成した後、6月には上方修正することが多く、日銀短観の統計としてのクセが出るんですが、今年のように6月調査時点で下方修正されるのは極めて異例のことだといえます。鉱工業生産指数の資本財出荷や機械受注統計などを併せて見ても、年内から年度内いっぱいくらいは設備投資が盛り上がりそうな気配すらありません。なお、上のグラフは大企業の全産業ベースの設備投資年度計画です。土地を含みソフトウェアを含んでいませんから、GDPベースの設備投資とは少し概念が異なるので単純な比較は出来ませんが、設備投資は年度を通して軽く2桁マイナスを覚悟する必要があるかもしれません。特に、同じ要素需要といいながら雇用とやや違う点として、設備投資のバックには企業収益があるんですが、今回の短観では企業収益見通しも悪化しています。

ハッキリ言って、今日の短観はやや物足りない印象を受けます。4-6月期GDP成長率が大幅プラスに回帰する実体経済に対して、企業マインドとの間に少し乖離が見られるような気がします。ウェイトを持って合計される付加価値生産額とウェイトなしに単純に合計される企業マインドの差かもしれません。

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