衆議院解散・総選挙から民主主義の成熟度を考える
本日、かねての予定通りに衆議院が解散され、8月末の総選挙となりました。ということで、これに触発されて、やや縁遠い話題ながら、今夜は民主主義の成熟度について途上国も含めて考えたいと思います。
私は日本以外の外国の在住経験は2か国あり、チリとインドネシアです。いずれも途上国で、私が赴任した時点で、それまで人によっては独裁政権と呼びかねない長期の大統領職にあった、チリのピノチェット元大統領、インドネシアのスハルト元大統領が退任し、いわば、民政移管されていましたが、偶然にも、今世紀に入って、両国の両元大統領とも自国で天寿を全うしました。私のブログでも、ピノチェット将軍の死は2006年12月11日付け、スカルノ元大統領の死は2008年1月27日付けのエントリーで取り上げています。他方、チリの隣国であるペルーのフジモリ元大統領に目を転じると、4月に1990年代の軍特殊部隊による民間人虐殺事件で禁固25年の有罪判決が出た後、腹心だった元国家情報部顧問に国庫の金を不正に渡したとして横領などの罪に問われ、昨日、禁固7年6か月の有罪判決が下りました。また、5月には我が日本の隣国である韓国で盧武鉉前大統領が自殺したのも記憶に新しいところです。こういった例も途上国にはいとまがありません。
田中角栄元総理のような特別の例外を別にすれば、日本や米国などの先進国で退任した総理大臣や大統領が罪に問われたり、国外への亡命を余儀なくされたり、ましてや、自殺に追い込まれたりするような事態は想像され難いんですが、民主主義の未成熟な途上国ではしばしば目に付きます。私が記憶しているくらいに有名なところでは、イランのパーレビ元国王、フィリピンのマルコス元大統領、それに、東欧の旧共産主義諸国の独裁者などもこれに含めるべきかも知れません。国王は別としても、大統領や総理大臣などについては、直接間接に国民が何らかの選挙で選出したんではないかと私は考えているんですが、別の大統領や総理大臣が選ばれると前職者は投獄されたり、亡命したりするケースは途上国では決して稀ではありません。
おそらく、途上国の大統領職とは余禄の多いお仕事で、極めて利益率の高い職種なんだろうと勝手に想像していますが、同時に大きな権力もあって、政敵に対する懲罰的・制裁的・報復的な措置を発動することが可能なのかもしれません。でも、何よりも、それを許す民主主義の成熟度が低いんではないかと私は考えています。"winner takes all" というのもひとつの民主主義の形なのかもしれませんが、逆に、"losers lose all" はエゲツないと感じる日本人がいても不思議ではありません。もっとも、私は長らく国家公務員をしていましたから、公務員バッシングの激しい政党が政権交代を果たした折には、標的にされる可能性がありますので、ポジショントークの面もあります。
1993年の内閣不信任案の可決とこれ伴う総選挙の時、私は在チリ大使館で外交官をしていました。総選挙も投票していません。帰国すると自民党と社会党の連立政権が成立していました。ですから、もしも本格的な政権交代があると仮定すれば、国内で接する初めての経験となります。昨年末からの猛烈な景気後退はエコノミストとして初めての体験でしたが、解散から総選挙、内閣総理大臣の指名と組閣へと、メディアの世論調査に示されているように、もしも政権交代があると仮定すれば、これまた、公務員・大学教授として貴重な体験になるかもしれません。
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