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2009年7月16日 (木)

長崎の地域景気指標を推計する

すでに先週になってしまったんですが、新たなペーパー「長崎における確率的地域景気指標の推計: 長崎景気のけん引役は何か?」を書き上げてディスカッションペーパーとして取りまとめました。どうしてディスカッションペーパーかというと、基本的には、紀要をオーバーフローしてしまったからです。6月3日付けのエントリーで取り上げた「九州7県における人的資本の推計」が推計モノのペーパーで、7月2日付けのエントリーで紹介した「今次景気後退局面の特徴 - 猛烈なスピードによる調整後の景気展望とともに -」が推計ナシのエッセイとなりますので、この2本で9月号の紀要はおしまいにし、今回の長崎地域景気指標 (NRBI=Nagasaki Regional Business Indicator) のペーパーはディスカッションペーパーにしました。

長崎地域景気指標 (NRBI)

何を推計したかというと、要するに、長崎県域のデータを用いてストック・ワトソン指数を推計しました。上のグラフの通りです。これだけで理解できればお終いなんですが、ストック・ワトソン指数は知ってる人しか知りませんから簡単に解説しておきたいと思います。景気について、何らかの観測不能な単一の景気指標があると仮定し、この景気指標が観測可能なデータに表れていると考え、さらに、この観測不能な景気指標についてAR(2)の確率過程を仮定するとともに、観測不能な景気指標から観測可能な経済データを推計する際の誤差項についてもAR(1)の確率過程を仮定し、これらを状態空間表現してカルマン・フィルターで解きます。これでも、理解できない人が大部分なんだろうと思いますが、これ以上の説明には長い時間がかかります。今回のペーパーでは観測可能な経済データとして、生産の代理変数に産業向け大口電力、雇用の代理変数に有効求人倍率、所得の代理変数に実質賃金指数、消費の代理変数に百貨店販売額を消費者物価で実質化したデータを用いて、観測不能な単一の景気指標である NRBI を推計しています。この地域景気指標の動きは上のグラフに見る通り、全国レベルの景気動向指数 (CI) と比べてかなり大袈裟で、標準偏差は2倍以上に達するんですが、おおむね、景気の山と谷は捉えていると自負しています。
さらに、NRBI を使っていくつか分析を試みており、まず、推計期間である1985年1月から2009年4月までの線形のタイムトレンドに対して単純に回帰し、CI は時間に対してやや上向きのトレンドを有しているのに対して、NRBI は右肩下がりのトレンドであることが明らかになっています。長崎経済は時の流れとともに縮小傾向にあるのかもしれません。また、上のグラフに見る通り、2001年のいわゆる IT バブル後の景気後退が長崎では極めて軽微にしか観察されません。実は、これは日銀の長崎短観にも表れており、私には大きなパズルでしたが、要するに、2001年景気後退は長崎では軽微だったので、長崎短観に表れたマインドにも影響しているんだと解釈できます。次に、NRBI と CI に加えて、企業物価で実質化した造船の受注残高を加えてグレンジャー因果を計測しました。1%水準の統計的有意性で CI が NRBI に先行し、造船も NRBI に先行することが確認されました。逆のグレンジャー因果はありません。他方、CI と造船に関しては明確な関係はありません。グレンジャー因果は時間的な先行性を検定するものであって、科学としての経済学的な因果関係を見るものではありませんが、長崎経済は全国に遅行していることは確かで、しかも、造船業が長崎経済をけん引している可能性が強く示唆されています。長崎に詳しいエコノミストの間でいわば「常識」とされていることばかりなんですが、それを計量的に確認したことの意義は大きいと考えています。

データを取るのにお世話になった県庁やシンクタンクにお礼とともに配布しておきました。また、紀要は公刊論文と見なされますが、ディスカッションペーパーですから公刊論文ではなく、どこかのジャーナルに投稿しようかと考えなくもありません。

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