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2009年9月21日 (月)

世銀の「世界開発報告 2010」に見る気候変動・地球環境問題にエコノミストは貢献できるか?

今日は秋のシルバーウィーク5連休のちょうど中日に当たります。少し遅くなりましたが、9月15日に世銀から「世界開発報告 2010」World Development Report 2010 を公表しています。副題は "Development and Climate Change"、すなわち、「開発と気候変動」となっています。一応、10月下旬の正式公表に向けての暫定公表という位置づけで、図表の中にはまだ完成していないものもあります。もちろん、pdf ファイルのリポートも公表されています。まず、ついでながら、「世界開発報告」(WDR) の今世紀に入ってからの副題、というか、テーマを参考までに上げると以下の通りです。

  • WDR 2002: Building Institutions for Markets
  • WDR 2003: Sustainable Development in a Dynamic World
  • WDR 2004: Making Services Work for Poor People
  • WDR 2005: A Better Investment Climate for Everyone
  • WDR 2006: Equity and Development
  • WDR 2007: Development and the Next Generation
  • WDR 2008: Agriculture for Development
  • WDR 2009: Reshaping Economic Geography
  • WDR 2010: Development and Climate Change

上のリストを見ると、最近10年ほどの世界経済のポイントがよく分かるような気がします。今年の「世界開発報告 2010」はリーマン・ショック後の激しい景気後退もほぼ終了、もしくは終了の目途が立ち、少し余裕を持って中長期的な気候変動や地球環境保護の話題を取り上げているような雰囲気が漂っていると受け止めているのは私だけではないような気がします。それはそれとして、まず、リポートが指摘するのは資金不足です。下のグラフの通り、気候変動における2度の気温上昇に対して、現状準備されているのは100億ドルほどですから、2030年までに、適合するだけでも1000億ドル近く、緩和するためには4000億ドルほどの資金が不足します。世間的にはこの資金不足が最も注目されていたように私は感じています。

気候変動を緩和するに必要な資金ギャップ

続いて、私は気候変動や地球環境に関する技術的なリポートの分析はサッパリ分からないんですが、エコノミストとして、あるいは、行政官や研究者として考えるべきポイントがいくつかあるように感じました。第1に、成長や経済発展は環境保護とトレードオフ、すなわち、経済成長のためには環境汚染というコストが必要なのかどうか、第2に、直接間接に温暖化ガスの排出を抑制する以外に方法があるのかどうか、の2点です。最初に、下のグラフは縦軸に1人当たりの二酸化炭素排出量、横軸に1人当たりのGDPを取ったグラフです。

1人当たり二酸化炭素排出量

有名なクズネッツ曲線は縦軸に不平等度を取っており、成長は経済発展が進んで1人当たりGDPが増加すれば、初期の段階では不平等度が拡大するが、一定の値で反転し、1人当たりのGDPの拡大が続けば不平等度は減少して平等化が進む、というクズネッツの逆 U 字仮説が実証されています。どうでもいいことですが、この功績でクズネッツ教授はノーベル経済学賞を受賞しています。もしも、上のグラフは大雑把に右上に伸びて行っているように見え、すなわち、1人当たりGDPが増加すればするほど1人当たり二酸化炭素排出量が増えているということを表しているのかもしれません。もしもそうだとすれば、地球全体で二酸化炭素排出量を減少させるためには、人口を減らすか、1人当たりGDPを減少させる必要があるかもしれません。しかし、いくつかの先進国、典型的には英国、フランス、アイルランド、オーストラリアなどでは1人当たりGDPは増加を続けている一方で、1人当たり二酸化炭素排出量は減少に転じています。我が日本や米国にもその傾向がうかがえます。途上国ながらメキシコもそうです。これは環境クズネッツ曲線と呼ばれるもので、不平等度と同じで、1人当たりの二酸化炭素排出量は1人当たりのGDPの増加に従って増えるんですが、一定の値で反転し、さらに1人当たりのGDPが成長すれば1人当たりの二酸化炭素排出量は減少する可能性が示唆されています。成長と環境はトレードオフではなく、両立する可能性があるということです。きわめて興味深いことだと私は受け止めています。

ガバナンスの効率性と環境パフォーマンス

第2のポイントとして、エコノミストも行政官も二酸化炭素排出量を減少させようとすれば直接的に化石燃料などの使用を止めて原子力に切り替えるとか、あるいは、間接的に炭素税を賦課して価格メカニズムを応用して炭素を燃やすのを食い止めようとするか、いずれにせよ、炭素使用量に影響を与える方法に頼ろうとするんですが、まったく別の次元からサポートする方法もあり得ると私は考えており、上のグラフによく示されています。横軸がガバナンスの効率性で縦軸が環境パフォーマンスです。私が授業でくどいほど学生に力説している通り、y=f(x) であって、横軸の x が縦軸の y を決めます。関数をプロットしたグラフとはそういうものです。上のグラフの因果関係はガバナンスが効率的であることが原因となって、良好な環境パフォーマンスという結果がもたらされることを示す意図の下に書かれていると解釈すべきです。直接間接に炭素使用量に何らかの影響を与えるだけでなく、このグラフのガバナンスの例のように、側面から、あるいは、まったく別の次元の政策も考えられてしかるべきだということです。

私は役所で ODA などの援助政策を担当したことはありませんが、ジャカルタにいたころはもとより、途上国の開発政策や開発経済学には大いに興味があり、世銀や国際通貨基金 (IMF) も注目しています。ということで、世銀 IMF の秋の年次総会は10月6-7日にイスタンブールにて開催されます。IMF の「世界経済見通し」World Economic Outlook の経済見通し編は分析編の9月22日に続いて10月1日の公表だそうです。

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コメント

いつも楽しく拝見しています。
今回のエントリーの
ガバナンスと環境パフォーマンスの関係に関して興味を持ったのですが
このグラフにおけるガバナンスと環境パフォーマンスがそれぞれ具体的に何を指していて
どのような関係が考えられるのか
もしよろしければお答えいただければと思います。
よろしくお願いします。

投稿: 通りすがりの経済学部生 | 2009年9月22日 (火) 03時01分

出典は注を参照。両者の関係は明らかです。

投稿: 官庁エコノミスト | 2009年9月22日 (火) 09時34分

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