鉱工業生産は先行きどうなるか?
本日、経済産業省から10月の鉱工業生産指数が発表されました。季節調整済みの月次系列で生産は前月比+0.5%増とかなりの鈍化を示しています。もちろん、原系列の前年同月比は相変わらず▲15.1%と減少を続けています。同時に発表された製造工業生産予測調査では、今月11月が+3.3%増、来月12月が+1.0%増となっています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は86.1となり、前月に比べて0.5%上昇した。8カ月連続で前月を上回ったものの、海外向けの自動車や液晶テレビ用部品などの生産減少が響き、前月比ベースの上昇率は大幅に縮小した。円高や世界的な景気低迷への懸念なども強く、生産の持続力には不透明感が出ている。
在庫調整の進展で生産指数は3月以降、プラスが続いてきたが、10月の上昇率は9月の2.1%を大幅に下回った。市場予測の平均(前月比2.5%上昇)と比べても伸び率の鈍化は鮮明だ。ただ、経産省は生産の改善が続いていると判断しており、基調判断を「持ち直しの動きで推移している」に据え置いている。
業種別の生産指数では、一般機械工業が前月比5.7%上昇。半導体製造装置や発電用の蒸気タービン部品などの生産が好調だった。携帯電話やノート型パソコンも堅調で、情報通信機械工業は2.7%上昇した。
続いて、いつもの鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。月次の季節調整済みの系列で、単位は2005年=100の指数です。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の景気の谷は今年3月と仮置きしています。
引用した記事にもある通り、市場の事前コンセンサスでは10月は+2.5%増と予想されていて、11月25日付けのエントリーで書いたように、10月は輸出が増勢を盛り返したことから私も生産はそこそこ行くんではないかと考えていましたので、+0.5%増は予想外の鈍化と受け止めています。輸出産業以外の鈍化や減産が大きい可能性もあります。もっとも、製造工業生産予測調査で今月11月が+3.3%の増産と見通されていますので、何らかの要因で10月から11月に流れた可能性は否定できません。でも、この予測指数でも12月には再び+1.0%と鈍化することが見込まれています。産業別に少し詳しく見ると、情報通信機械工業や輸送機械工業では12月は減産となっています。この結果、製造工業生産予測指数をそのまま当てはめると、10-12月期も四半期として前期比+5%ほどの増産が続きますが、その増勢は7-9月期の+7.4%増よりも落ちます。上のグラフを見ても、鉱工業生産指数としては今年2月の谷から元気よく回復して来たものの、現時点までは、1次微分は正だが2次微分は負のように見えることも確かです。生産回復のモメンタムはピークアウトしたと考えるべきです。
気になるのは生産の先行きです。特に、為替との関係で輸出の伸びがこの先鈍化することが当然に予想されますので、生産も12月までの製造工業生産予測調査が正しいとしても、来年に入ってからさらに増勢が鈍化すると私は受け止めています。直近、先週後半からの急激な円高ではなく、昨年10-12月期以降の円高が輸出からひいては生産にマイナスの影響を及ぼすと考えるからです。この円高はドバイ・ショックのような一過性のものではなく、リーマン・ショック以降ここ1年間における内外の金融政策運営の差に起因した円高ですから、かなり persistent だと考えるべきです。もっとも、為替がランダム・ウォークに従うと仮定すればショックは persistent どころか、permanent だったりするんですが、それは別のお話です。少なくとも、ドバイにはアブダビの支援があるということで、今日の市場ではかなり平静を取り戻しているように見受けられますが、円高はもう少し続くと考えるエコノミストが私も含めて多いように感じています。
11月16日に発表された7-9月期の1次QEの直後、11月20日くらいまでに、いくつかのシンクタンクや金融機関などから来年度やさ来年度の経済見通しが発表され、このブログでもそのうちに取り上げるつもりですが、私が見た範囲では、その時点では2番底は回避できるとの見通しが主流だったような気がします。でも、直近の円高は輸出や生産にはそれ相応の3-5四半期のラグをもって波及しますが、株価や企業マインドにはほぼ瞬時に反映されます。11月10日付けのエントリーで取り上げた景気ウォッチャー調査でも国民のマインドは景気の踊り場入りを示唆しているように考えられなくもありません。11月20日の時点から見れば現時点では2番底の確率は高まっていると受け止めるべきです。もっとも、2番底をいまだに想定している私でも、この年末年始ではなく、来年前半から半ばくらいに少し後ズレした姿を予想していることは確かです。
先行きを考える上で気になるのは政策対応です。明日にも政府と日銀の協議が行われるようですが、これ以上金融政策の無策を放置し財政政策にストレスをかけ続けて国債を発行すると、さすがに、私のように政府債務残高に能天気を自負しているエコノミストでも、幸田真音さんの『日本国債』の世界が待っている可能性もなしとしません。
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