青山七恵『かけら』(新潮社) を読む
昨日、読書感想文の日記をアップした『神様のカルテ』ほどではありませんが、やや新しい文芸書で、青山七恵さんの『かけら』(新潮社) を読みました。青山さんは3年近く前に「ひとり日和」で第136回芥川賞を受賞していて、私のこのブログでも2007年2月14日付けで紹介しています。この単行本『かけら』には3編の短編が収められており、本のタイトルと同じ「かけら」のほか、「欅の部屋」と「山猫」が収録されています。やや旧聞に属する話題ですが、半年ほど前の5月に発表された第35回川端康成文学賞は表題作の「かけら」に授賞されています。広く知られた通り、川端賞は短編を対象とした文学賞で、青山さんは最年少の受賞者だそうです。一部のウワサですが、ハズレの少ない文学賞としても有名だそうです。私がチェックしたわけではありません。念のため。
昨日アップした『神様のカルテ』が純文学ではなかったから、というわけではありませんが、この『かけら』に収められた短編は純文学の香り豊かな作品ばかりです。青山さんは、「ひとり日和」と「かけら」の間に、『やさしいため息』という本を書いていて、私も本屋さんの店頭で見かけた記憶がありますが、買い求めませんでした。1999年の平野啓一郎さんの「日蝕」以降のほぼ10年間、私の見たところ、芥川賞受賞者では川上未映子さんが頭抜けた存在だったんですが、今年上期の津村記久子さんの「ポトスライムの舟」もまずまずの評価でしたし、青山さんも将来性豊かな作家だと改めて認識しました。私の書くような経済学のペーパーには人間がどこにも出て来ないんですが、文学では人間の心の動きというものが非常にデリケートなタッチで表現されていると、これまた、改めて認識させられました。「かけら」における父と娘、「欅の部屋」における結婚直前の男性の別れた女性、小麦への思い、「山猫」における新婚早々の女性の親戚の女子高校生に対する意識、短いページ数の中で過不足なく伝えたいことが十分に書けていると感じました。文体もしっかりしています。
川端賞受賞ということもあり、たいていの図書館には所蔵されていると思いますから、多くの方が手に取って読むことを願っています。
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