環境クズネッツ曲線に関する新しいペーパーを書き上げる
環境クズネッツ曲線に関する新しいペーパー "Estimation of Environmental Kuznets Curve for Various Indicators: Evidence from Cross-Section Data Analysis" を書き上げました。すでに、昨年9月21日付けのエントリーで世銀の「世界開発報告2010」を紹介した際や、10月7日に国際エネルギー機関 (IEA) のリポートを取り上げた際など、環境クズネッツ曲線については興味を示していたんですが、今回、本格的にペーパーを書いてみました。3月に発行される本学の『東南アジア研究所年報』に収録される予定になっています。
上のグラフは「世界開発報告2010: 開発と気候変動」World Development Report 2010: Development and Climate Change の p.197 Figure 4.6 Where the world needs to go: Energy-related CO2 emissions per capita から引用しています。1人当たり二酸化炭素排出量が所得とともに反転して逆U字型をなし、ターニング・ポイントを過ぎれば、経済発展とともに二酸化炭素排出量が減少に転じる可能性を示唆しています。これが環境クズネッツ曲線と呼ばれるもので、オリジナルのクズネッツ曲線は所得と不平等の間に逆U字型の関係が見いだされるというものですが、これを援用して、所得と環境負荷の間に逆U字型の関係が観察されることを主張するのが環境クズネッツ曲線仮説です。この仮説が成り立てば、経済開発と環境保護は両立する可能性が生じます。
ただし、この環境クズネッツ曲線の仮説を計量的に検証するには、どういったデータで当たればいいのかの問題が生じます。「世界開発報告2010」から引用したグラフは国ごとに時系列的なグラフを書いているんですが、上に示したように、経済データは赤で囲ったタイム・シリーズと呼ばれる時系列と、紺で囲ったクロス・セクションがあります。私の今回のペーパーでは米国のイェール大学とコロンビア大学の共同研究の成果として発表された Environmental Performance Index (EPI) を用いて、2006年のクロス・セクション・データに基づいて推計しています。EPI が所得に応じて低下した後、ターニング・ポイントを過ぎて所得が上昇すれば EPI も向上するかどうかを確かめています。EPI にはいろんなコンポーネントがあり、統計的に有意に計測できたのは6つあるカテゴリーのうちエネルギー関係だけで、ターニング・ポイントは1人当たりGDPで2万ドル弱でした。水資源や大気汚染などもパラメータの符号は期待通りだったんですが、統計的に有意ではありませんでした。EPI 総合指数についてはまったく逆の符号で、所得の増加とともに環境パフォーマンスが改善し、一定点を過ぎると悪化するような推計結果になってしまいました。
今回のペーパーでは、推計対象にクロス・セクション・データを利用し、ペーパーのタイトル通りにさまざまな環境変数に対して所得を説明変数として推計を試みましたが、昨年12月のコペンハーゲン合意のように、世界の関心は二酸化炭素に大きくシフトしており、幅広い環境指標よりも二酸化炭素排出に特化して、クロス・セクション以外のデータを用いた分析にも手を伸ばしたいと考えています。
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