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2010年1月11日 (月)

東野圭吾「ガリレオシリーズ」短編集を読む

この冬休みにおいて、いろいろと本は読みましたが、最も印象深かったのは東野圭吾さんの「ガリレオシリーズ」でした。短編5編ずつを収めた短編集と『容疑者Xの献身』、さらに、『聖女の救済』という2本の長編が刊行されています。このうち、直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』はすでに4年も前の2006年1月31日付けのエントリーで取り上げましたので、今夜は短編集3冊に注目します。なお、恥ずかしながら、『聖女の救済』はまだ読んでいません。短編の3冊は出版順に以下の通り、『探偵ガリレオ』、『予知夢』、『ガリレオの苦悩』で、最初の2冊は文庫本になっています。

「ガリレオシリーズ」短編集

まず、手抜きで東野圭吾ガリレオシリーズ特設サイト『倶楽部ガリレオ』から引用したあらすじ集です。出版している文藝春秋のサイトですから、ネタバレはないと思います。

『探偵ガリレオ』
「第一章 燃える」
街路にたむろしていた少年たちが火災に見舞われ、一人が死亡する事件が起きた。目撃者証言によれば、焼死した少年の後頭部が突然発火し始めたという。特別な熱源のない場所で、なぜそのような現象が起きたのか。一部で囁かれる、プラズマによる自然発火説の実現の可能性を確認するため、警視庁捜査一課の草薙俊平は母校・帝都大学工学部物理学科で教鞭をとる、かつての学友・湯川助教授を訪ねた。彼の提示する驚くべき仮説とは?
「第二章 転写る」
中学生がひょうたん池から引き上げた物体は、失踪した柿本進一の顔を写し取ったアルミニウム製のデスマスクだった。池を捜索した警察は柿本の他殺体を発見するが、わざわざ死に顔から型を取った犯人の動機を量りかね、捜査は混乱する。そのころ草薙刑事は、柿本と多額の金のやりとりをしていた人物に疑いの眼差しを向けていた。しかし鉄壁のアリバイが容疑者を護っているのだ。謎を解く鍵は、湯川 学の行う驚異の物理実験にある。
「第三章 壊死る」
女は、ある男に殺意を抱いていた。彼女を思慕するもう一人の男が女の前に現れ、絶対に露見しない殺人方法があると伝えた……。今回取り上げられるのは、スーパーマーケットを経営する高崎邦夫という男が、自宅の浴室内で奇妙な死に方をしたという謎だ。死因は心臓麻痺だが、高崎の死体は右胸の一部の細胞だけが完全に壊死した状態だったのだ。事件の関係者を観察した湯川は一目でその職業を見抜き、草薙刑事に捜査の糸口を与える。
「第四章 爆ぜる」
海岸で謎の爆発が起き、ビーチマット上で休憩していた女性が命を奪われた。帝都大学工学部出身のエンジニアが撲殺死体として発見された。一見なんの関係もない二つの事件が、一点で結びつく。エンジニア殺人事件を捜査中の草薙刑事から情報を得た湯川は、自ら事件の現場を巡り謎解きのための手がかりを集めるが……。珍しく湯川 学が草薙刑事に先行して単独行動をとり、現場を飛び回る。研究者の矜持に触れた幕切れも鮮やかな一篇だ。
「第五章 離脱る」
二十七歳の長塚多恵子が自室で他殺体として発見されたとき、捜査陣の面々は誰もが痴情絡みの犯行を疑った。予想通り、ある保険会社員が容疑者として身柄を拘束される。だが意外な人物が現れて、彼が殺人現場から離れた場所にいたという証言を行った。驚いたことにその証人は子供で、高熱に浮かされて幽体離脱をし、その場面を目撃したというのだ。幽体離脱なるものが本当にあるのか確かめろと草薙刑事に迫られ、湯川 学しぶしぶ出陣。
『予知夢』
「第一章 夢想る」
十六歳の森崎礼美の寝室に忍び込んだ坂木信彦は、礼美の母親に見咎められて逃走し、轢き逃げ事故を起こした。奇妙なことに坂木信彦は、十七年前から自分はいつかモリサキレミという名前の女性と結ばれるのだという夢想を口にしていたという。坂木の弁護士が精神異常を申し立てる可能性があるため、草薙刑事は湯川 学に出馬を要請した。坂木が予知夢を見たというのは本当なのか。だが湯川の推理は、予想外の方向へ進んでいってしまう。
「第二章 霊視る」
長井清美が小杉浩一によって殺害されたほぼ同時刻、現場から離れた場所で彼女の姿を目撃した者がいた。いわゆる霊視の可能性はないかと、草薙刑事から相談を持ちかけられた湯川は、単なる錯覚だと笑い飛ばした。だが草薙の漏らした一言が湯川の顔色を変え、現場へと誘うことになる。湯川によれば、この一件は小杉が自供した通りの単純な衝動殺人ではなく、さらに裏があるというのだ。長井清美のライフスタイルに隠された秘密とは?
「第三章 騒霊ぐ」
草薙刑事は、姉の友人の神崎弥生から相談を持ちかけられた。彼女の夫が五日前から行方不明になっていたのだ。その足取りは、高野ヒデという老婦人の家で途絶えていた。草薙が高野家を訪ねると、そこにはヒデの親類と称する男女がいた。数日前に老婦人は亡くなったのだという。彼らの挙動に不審な点を感じた草薙は高野家を張り込む。やがて、家全体を揺るがす、強烈な振動が……。ポルターガイスト騒動の謎を解き明かす湯川 学の活躍。
「第四章 絞殺る」
町工場を経営する矢島忠昭は、旧い借金を返してくれる人が現れたと言い残して外出し、そのまま帰らなかった。忠昭の娘・秋穂は、前夜火の玉を見たと語り、不安に震える。翌日、忠昭はホテルの一室で絞死体として発見された。奇妙なことに、現場の床にはそれまで無かった焼け焦げの痕があったのだ。草薙をはじめとした捜査陣は忠昭の妻・貴子のアリバイが不完全であることに着目する。だが湯川のみは、事件の違った側面を見ていた。
「第五章 予知る」
菅原直樹は眼前の光景に凍りついた。愛人の瀬戸富由子が、向かいのマンションの部屋で、彼に見せつけるように首を吊って死んだのだ。警察が現場検証のためにやってきたが、事件当時の直樹には完璧なアリバイがあり、状況はすべて自殺の方向を示していた。ただ一点、菅原家の隣室に住む少女が事件の三日前に、富由子の部屋で女性が首を吊っている姿を見たと証言していることを除いては。草薙刑事の要請で、再び予知の謎に挑む湯川 学。
『ガリレオの苦悩』
「第一章 落下る」
一人住まいの女性がマンションから転落して死亡した。自殺ではない。何者かが彼女を殴って昏倒させ、突き落としたのだ。警視庁捜査一課の刑事・内海 薫は、被害者の恋人が犯人であると直観する。犯人は時限装置を用いて犯行時間を偽装し、アリバイ工作を行ったのだ。物理トリックを暴くため、薫は草薙から湯川 学への紹介状をとりつける。事件捜査から身を引いた湯川を、再び現場へ向かわせることができるのか。薫の手腕が問われる。
「第二章 操縦る」
帝都大学理工学部に助教授として在籍中、「メタルの魔術師」の異名をとっていた友永幸正は、脳梗塞の後遺症のため現在は車椅子に頼って生活をしている。かつての教え子が彼の自宅に集うことになっていた日に惨劇は起きた。離れが火事になり、長男の邦宏の他殺体が発見されたのだ。かけつけた捜査陣の前に、招待客の一人であった湯川 学が姿を現す。湯川は、友永の言動に不審を感じ取っていた。彼は何かを隠しているようなのだ。果たして事件との関連は……?
「第三章 密室る」
湯川 学の大学時代の友人・藤村は、ペンション経営者だ。その彼のペンションの泊り客が、部屋を抜け出して崖から転落死するという事件が起きた。藤村から事件の背景を解き明かすよう依頼された湯川は、現地で調査を開始する。死亡した泊り客の部屋は、施錠され、一種の密室になっていた。その点は確かに怪しかったが、湯川の嗅覚はほかにも不審なことを嗅ぎつけていた。当日の状況について調べるうちに、彼は意外な真相にたどり着く。
「第四章 指標す」
留守番中の老婦人が強盗殺人の犠牲者になった。現場からは、十キロもの金塊が消えていたという。捜査の過程で、被害者宅を覗き込む保険外交員の女性が目撃されていたことが判明した。その中学生の娘が、奇妙な行動をとり始める。水晶の飾りがついた“真実を教えてくれる振り子”を使って、被害者宅から消えた犬の死体を捜し当てたのだ。母親の無実を証明するために水晶の力を使ったと称する彼女の言葉に裏はないのか。科学的な根拠を検討するため湯川 学に出馬が求められる。
「第五章 撹乱す」
「悪魔の手」と名乗る者によって、警視庁に怪文書が送りつけられてきた。見えざる手によって人を葬ってみせるとする内容で、湯川 学に対して挑戦の意志を示していた。やがて送られてきた第二の挑戦状で、悪魔の手は実際に手を下したと宣言する。手紙に記されていた被害者は実在し、建築現場で転落死を遂げていた。だが、どう見ても事故死にしか思えない状況だ。現場に姿を現さず、指の一本も触れることなく人を死なせる手段とは一体何か。

ご存じの方も多いと思いますが、『探偵ガリレオ』と『予知夢』の2冊に収められた計10話は2007年10-12月にフジテレビでドラマ化されています。実は、この2冊とついでに『容疑者Xの献身』には女性の内海刑事は出て来ないんですが、テレビドラマの中では湯川助教授とともに主人公だったりします。なお、内海刑事の初出は『ガリレオの苦悩』の第1話です。なお、昨年12月末にフジテレビで一挙に10話を3日に分けて再放送されました。私は再放送1日目の1-3話を撮り逃したんですが、残りの4-10話を我が家のおにいちゃんとともに楽しみました。
テレビドラマの方に関連する話題で、『探偵ガリレオ』文庫本のあとがきは俳優の佐野史郎さんが書いていて、その理由は原作者である東野圭吾さんのガリレオのイメージが佐野さんだったから、というものなんですが、フジテレビのドラマでは福山雅治さんがガリレオこと湯川助教授を演じていて、小説の方でも段々とそのイメージに変化して来ているような気がするのは私だけではないと思います。なお、ドラマにあったように、湯川助教授が事件に関して何かひらめいて、突然、数式を解き始めるシーンは小説にはありません

最後に、テレビドラマのタイトルバックに現れる時計台は間違えようもなく、我が母校の京都大学でした。天才物理学者 ⇒ 湯川 ⇒ 京都大学、というのは自然な連想かもしれません。

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