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2010年2月12日 (金)

来週発表の2009年10-12月期GDP統計1次QEの予想

内閣府による来週2月15日の発表を前に、1次QEに必要な経済指標がほぼ出尽くし、各シンクタンクや金融機関などから昨年2009年10-12月期の1次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。詳細な情報にご興味ある方は左側の機関名にリンクを張ってあります。html 形式の日本経済研究センター以外、リンクが切れていなければ pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本経済研究センター+1.0%
(+4.0%)
輸出主導での景気持ち直し続くものの、内需への波及は未だ見えず
日本総研+1.1%
(+4.3%)
輸出の回復が続き、外需のプラス寄与が拡大
みずほ総研+0.8%
(+3.1%)
設備投資、在庫投資は成長率を押し上げた可能性が高いが、これらは、2次QE段階で大きく修正される可能性
ニッセイ基礎研+1.0%
(+4.1%)
日本経済は09年度入り後、3四半期にわたって潜在成長率を大きく上回る高成長を続けていたという姿が示される
三菱UFJ証券+1.1%
(+4.5%)
輸出、個人消費の増加に加え、設備投資も持ち直し。3期連続のプラス成長に
第一生命経済研+1.0%
(+3.9%)
予想外の数字となる可能性がある
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+1.2%
(+4.9%)
個人消費が政策効果で堅調に推移したほか、これまで減少が続いていた設備投資が底入れし、在庫調整の動きも一巡
三菱総研+1.2%
(+4.8%)
輸出の回復や景気対策の下支えによる消費の堅調維持を背景に、前期を上回る成長率となる見込み
新光総研+1.3%
(+5.2%)
海外経済の持ち直しを受けた輸出の増加に牽引されて、3四半期連続のプラス成長となる見通し

さて、今回のヘッドラインでやや異様なのは第一生命経済研の「予想外の数字となる可能性がある」ではないでしょうか。実は、先週2月3日に内閣府から「平成21年10-12月期四半期別GDP速報における季節調整法の設定変更について」と題するメモが発表されていて、名目と実質の財貨の輸出入について季節調整法の設定変更を行うとのアナウンスがなされています。リーマン・ショック後の2008年秋以降の輸出入の大きな変動に対して異常値・レベルシフト調整を行うとともに、それを踏まえたARIMAモデルの同定、すなわち、階差と次数の変更を行う、ということです。これで理解できる人は頭がいいんですが、これ以上の説明はブログのレベルでは私には無理です。なお、上に掲げた表のうち、このアナウンス以降に予想を改定したのが2機関あり、ニッセイ基礎研と第一生命経済研なんですが、いずれも下方改定しています。
一応、私は季節調整法についてはそれなりの見識を持っているつもりですので、直感的に、昨年年央以降の輸出の伸びが下方修正される可能性が高いのではないかと受け止めています。発表されたメモには、X-12-ARIMAに組み込まれているRamp変数を2008年10-12月期から2009年4-6月期まで設定変更した例が掲げられています。さらに、異常値の棄却検定についても私はそれなりの知識があり、一般的な統計学で教えるThompson検定、Smirnov-Grubbs検定、Smirnov-Masuyama検定、あるいは、私の使っている計量ソフトに組み込まれているHadi検定くらいについては、通りいっぺんながら私も一応の知識はあります。しかしながら、季節調整法についても、棄却検定についても、それなりの専門的知識を有する私でも、2008年10-12月期のGDP統計1次QEにどのようなバイアスがかかるのかはサッパリ分かりません。季節調整法の設定変更ですから、原系列は変更ないわけですが、景気の実感は季節調整済みの系列で見るのが適当でしょうから、GDP統計における季節調整方法の変更は、その結果次第ではそれなりに市場や国民のマインドに影響すると考えられます。でも、あわせて、月曜日のエントリーで指摘したように、メディアは2008年通年のGDPが大きくマイナス成長だったことを報道するのに大忙しになるような気がします。

季節調整法の設定変更について、長々と専門的な議論を披露してしまいましたが、最後に、大胆にもこれを無視して上の表を見る限り、昨年10-12月期は季節調整済み前期比で1%、前期比年率で4%くらいの順調な成長が示される、と多くのエコノミストが予想していることを指摘しておきたいと思います。

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コメント

土台となる2008年のQ4の変動が大きすぎて、前年同期比もあまり役に立たず、解釈が難しくなりそうですね。

ただ、改定による数字の方向性として、異常に低い数字が除去され全体的なトレンドが上にシフトする分だけ、外需の回復がある程度は相殺される分だけ、下方に改定されるというように、定性的には思えるのですが、他には、(変化の大きさは分からないにせよ)どういった相反する要素があって、「どのようなバイアスがかかるのかはサッパリ分かりません」ということになるのでしょうか・・・? 浅学につき、あまり他の要素が思い浮かびません。もしあれば、ご教示いただければ幸いです。

「所詮、財金課上がり」と思われそうですが、今、統計学の修士に在籍しているにも拘らず、恥ずかしながら、これらの異常値の検定のことは存じませんでした。経企庁から LSE の経済に留学された先輩方と同じ学位を取っても、それだけでは使い物になりませんね・・・。

投稿: TOMOHIKO SENGE | 2010年2月13日 (土) 01時04分

修正を適用するのが財貨の輸出入だけというのが、もっともバイアスを大きくするような気がします。それから、異常値の棄却検定については、決してテキストに掲載されることのない実用情報として、Thompson検定は棄却しない方向で、Smirnov-Grubbs検定は棄却する方向でバイアスがかかると言われています。棄却しない方が安全だと考える時はThompson検定を、逆に、安全に棄却したいときはSmirnov-Grubbs検定を使うということになります。

投稿: 官庁エコノミスト | 2010年2月13日 (土) 09時28分

ご教示いただきまして、ありがとうございました。異常値の検定については、本などで調べてみたいと思います。統計手法のクセをモノにすることができるかは、エコノミストとしてのアウトプットにもかなり影響しそうですね。検定のクセについては、Sample が有限の場合での ワルド・尤度比・ラグランジュ検定の教科書的な話くらいしか、知りませんでした・・・。

投稿: TOMOHIKO SENGE | 2010年2月13日 (土) 14時45分

棄却検定などはよく知られた方ですが、いろいろと秘伝・口伝のような言い伝えの類いはいっぱいあります。

投稿: 官庁エコノミスト | 2010年2月13日 (土) 18時59分

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