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2010年2月17日 (水)

湊かなえ『Nのために』(東京創元社)を読む

湊かなえ『Nのために』(東京創元社)

湊かなえさんの『Nのために』(東京創元社)を読みました。一応、念のために書いておきますと、このブログの読書感想文の日記では取り上げなかったんですが、同じ作者のデビュー作でベストセラーになって第6回本屋大賞も授賞された『告白』、それから、『少女』、『贖罪』も、この順で読んだ上で、4冊目の『Nのために』を読んでいます。すなわち、この作者の作品の流れは把握しているつもりです。なお、ミステリですのでネタバレはないように書き進めるつもりですが、『Nのために』だけではなく、『告白』、『少女』、『贖罪』も含めて、未読の方は十分ご注意ください。もっとも、「落石注意」の道路標識と同じで、何をどう注意するかは不明だったりします。
まず、この作者の共通の形式として、事件関係者のモノローグで物語は進みます。この点は『少女』が各パートごとに2人の女子高生のモノローグで進む以外は、すべての作品に共通して章ごとに1人が独白する形を取っています。このモノローグ形式は、見方によっては、表現の幅を狭めている恐れがあると私は考えています。さらに、これも『少女』を例外として、いわば歪んだ愛情表現というか、特に、この『Nのために』については、私のような親バカの凡人からすれば虐待に等しい親子関係や夫婦の愛情がモチーフとなっています。それは、『告白』における渡辺のマザコンや森口の復讐、あるいは、『贖罪』における麻子の死んだエミリへの愛情と同じ種類のものであると私は受け止めています。何といってもミステリですから、殺人がバンバン出て来るわけで、私のような凡人には理解不能な感情なのかもしれません。
この作者独特のモノローグについて考えると、語り手による書き分けが重要なんですが、この『Nのために』では『告白』ほどの明瞭さがないと私は感じました。東京創元社の特設サイトではキャッチコピーとして、「『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ」と謳っているんですが、やや疑問を覚えます。少なくとも、章を追うごとの新たな展開がないという以外は、「新たなるステージ」とは私には考えられません。特に、唯一の女性である杉下の章に物足りないものを感じました。この女性の性格を反映しているといわれれば、そうかなとも思いますし、『告白』が立場も違えば年齢も全く異なる人物のモノローグであるのに対して、『Nのために』では同じような立場で年齢も似通ったの人間のモノローグですから、仕方がない面もありますが、今度のさらなる進歩を望みます。さらに、モノローグの欠点として、被害者として物語の冒頭に死亡してしまった人はモノローグ出来ないわけで、私は野口奈央子のモノローグを聞きたかった気がします。それが出来ないのであれば、彼女のバックグラウンドを誰かに語って欲しかったと思います。

やや厳しいかもしれませんが、この『Nのために』は『告白』や『贖罪』のようなストーリーの展開もなく、モノローグの語り手による書き分けもやや不十分です。3ツ星半か4ツ星くらいの評価だという気がします。ですから、いまだにこの作者の最高作品はデビュー作の『告白』だと私は考えています。

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