村上春樹『1Q84 BOOK3』 (新潮社) を読む
村上春樹さんの『1Q84 BOOK3』を読みました。昨日、極めて大きな注目の下に発売されています。私は昨日午後の授業を終えて夕食の後に読み出して、徹夜して一気に読み切ってしまいそうな勢いだったんですが、新学年の授業が始まったばかりの時期に年齢的な体力的の衰えを考慮し、かなり強い決意を持って半分弱を読んだところで布団に入りました。当然ながら、今日のうちに読み切りました。さすがに、予想を裏切らないすばらしい作品です。なお、この先はネタバレ満載ですから未読の場合は自己責任でお願いします。
まず、BOOK1 と BOOK2 を読み終えた段階では、昨年6月5日付けのエントリーで書いた通り、私は『1Q84』はこれで完結と考えていました。理由はチェーホフ的に拳銃が発射されて、青豆が死んだからだったんですが、一応、コナン・ドイル卿の「シャーロック・ホームズ」の例も引いて、続編がある可能性を指摘しておきました。実にその通りで、拳銃は発射されず、青豆も死んでいないところから続編が始まります。BOOK1 と BOOK2 が青豆の章と天吾の章を交互に展開したのに対して、BOOK3 では牛河の章を含めた3人の主人公を中心に物語が展開します。すべて3人称で語られています。前半は青豆が潜伏し、天吾が父親の病院近くに滞在するという形で、牛河だけが動き回って、牛河自身の人となりを含めて、いろいろな事実関係を読者に提示し、割合と静かな展開なんですが、後半は大きくストーリーが動きます。青豆の妊娠という驚愕の事実が明らかにされ、最後に、青豆と天吾が再会し、カギカッコ付きの「1Q84年」の世界から月がひとつでカギカッコなしの1984年の世界に2人で文字通り手を取り合って戻って来ます。ただし、エッソのタイガーの顔の向きが違っていることから、第3の世界である可能性が示唆されます。BOOK3 はここまでです。
よく知られているように、一時の村上作品はかなり暴力的な要素を含んでいました。典型的には、『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』であり、『アフターダーク』にも当てはまります。しかし、『1Q84』では暴力的なシーンはかなり減り、青豆がミッションを遂行する際の描写も洗練されていますし、BOOK3 でも天吾の父が死ぬのは自然死で、牛河は殺されますが、リトルピープルを引き出すために必要な段階を踏んでいるとも考えられます。その点で、私は村上春樹さんの作風に一定の変化、すなわち、暴力的な要素の軽減という作風の変化が見られると感じています。
ところで、ふたたび続編について考えてみたいと思います。結論的には、私には何とも言えません。でも、直感的には続編がありそうな気がします。ひょっとしたら、一気に10-15年くらい時代をすっ飛ばした続編かもしれません。続編がある根拠は3点あり、チェーホフ的に拳銃が発射されていないこと、青豆が妊娠していて出産が期待されること、そして、かなり大きな唐突感を持ってタマルに17歳になる子供がいる可能性が言及されたことです。17歳というのは同年齢の深田絵里子 (ふかえり) との何らかの関係を強く示唆していると私は受け止めています。続編がない根拠はたったひとつであり、それはカギカッコ付きの「1Q84年」が終わったことです。青豆と天吾は月がひとつの1984年に戻りましたし、そうでなくても、「1Q84年」のままでも年末を迎えています。
何度も書きましたが、この『1Q84』は村上さんの最高傑作です。2-3年のうちにノーベル文学賞が授賞されることを期待しています。
| 固定リンク
コメント