新しいペーパー「Economate長崎モデルの長期外挿シミュレーション: 2030年における長崎経済」を書き上げる
私は地域経済については熱心ではないんですが、いろいろな世間の義理もあって、長崎経済のあり得るシナリオを探って、モデルのシミュレーション結果を「Economate長崎モデルの長期外挿シミュレーション: 2030年における長崎経済」と題して、ディスカッションペーパーに取りまとめました。私の方で2030年までの長崎経済のベースラインを引いて、実際のシミュレーションを実行してくれたのは共著者の方です。シミュレーション結果だけでは単なる図表集になってしまいますから、私の方で計量モデルの微分方程式体系や産業連関表の行列計算に関する解説をしています。
まず、私のいつもの主張ですが、長崎経済は人口減少と経済停滞が負のスパイラルを起こす瀬戸際にあります。この2つは「ニワトリとタマゴ」の関係にあります。これを見たのが下のグラフです。上のパネルは社会的な移動に伴う他府県からの純転入者数です。2008年の統計です。長崎県は北海道と青森県に次いで、社会的な転出者数が最も多い県のひとつです。いうまでもなく、日本は人口減少社会に入っており、人口は自然減を始めていますから、それに社会的な減少が加わるとダメージが大きくなります。その結果、下のパネルの通り、県民1人当たり所得はこれまた全国でもトップクラスに低くなっています。
この長崎経済について、将来シナリオを探り、2011年までは直近の情報を基に足元を設定し、2012年からは以下のような前提で定常状態に入ると考えて、計量モデルをシミュレーションしています。ただし、消費税率の変更などの不連続な与件の変更は含めていません。
- 日本の潜在成長率は+1%
- 長崎の潜在成長率は▲1%
- 名目利子率は全国一律に1.2%
- 物価上昇率も全国一律に+0.2%
- 長崎の人口と就業者数は▲1%で減少
これらの前提で計量モデルをシミュレーションし、県民所得などのマクロ経済の結果を産業連関表に従って部門分割したのが以下の結果です。実は、ディスカッションペーパー本体もそうなんですが、数字を並べた表は意図的に見にくいように小さいフォントで書いていたりします。
これらの結果を受けて、「ニワトリとタマゴ」の関係で人口減少と経済停滞が負のスパイラルを起こすのを防止するには、まず、雇用の確保であると結論しています。下のグラフは長崎県内の高校と大学の卒業生の県内と県外の就職比率です。上のパネルが高校生、下が大学生です。高校生の半分くらいしか職がないような長崎県の将来は非常に暗いことはいうまでもありません。
しかし、長崎県ではほぼ公共事業が飽和に近い状況になっていますから、公共投資の生産性が極めて低くなっています。「キツネしか通らない農道」という表現を聞いたことがありますが、そんな感じです。そんな道路を作っても生産性は上がりません。逆に、長崎県は民間企業投資の生産性が全国でも有数に高くなっており、雇用の増加を考える場合、決して、公共投資に頼るのではなく、積極的な民間投資を引き出す政策が求められています。
このディスカッションペーパーはサイドにある大学の研究室のホームページにアップしてあります。ご興味ある方はダウンロードして下さい。
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