IMF 「世界経済見通し」分析編を読む
次の週末4月24-25日に米国ワシントンで開催される国際通貨基金 (IMF) 世界銀行グループの Spring Meetings に先立って、IMF の「世界経済見通し」 World Economis Outlook の分析編、第3章と第4章が IMF のサイトで公表されています。このブログでも、先週金曜日のエントリーでチラリと触れておいた通りです。なお、今春のリポートの副題は Rebalancing Growth となっています。第4章に直結する副題ではないかと私は受け止めています。なお、日本語の要旨も pdf ファイルで発表されています。第3章と第4章の標題は以下の通りです。pdf ファイルの全文リポートにリンクしています。
- Chapter 3. Unemployment Dynamics during Recessions and Recoveries: Okun's Law and Beyond
- Chapter 4. Getting the Balance Right: Transitioning out of Sustained Current Account Surpluses
どうでもいいことですが、この「世界経済見通し」2010年4月版から「大規模景気後退」とでも訳すのか、大文字で始める Great Recession という言葉が使われ出しています。前回の2009年10月版リポートでは見かけなかった言葉だという気がします。もっとも、2段組みで200ページを超える英文のリポートですから、隅々まで目を通したわけではありません。ちなみに、1929年から始まる「大恐慌」のもともとの英語の表現は Great Depression であることはよく知られている通りです。
上のグラフはリポート第3章の Figure 3.1. から引用しています。この大規模景気後退期において、上のパネルは失業率が上昇したパーセンテージ・ポイント、下は産出が減少した絶対比率パーセントです。どう見るかというと、例えば、左から3番目の日本と右端のスペインを比較すると、日本の方が産出の減少割合が高いにもかかわらず、失業率の上昇は小さく抑えられています。すなわち、産出の減少と失業率の上昇の間にはそんなに相関はないということになります。この産出と失業率の間の相関を示したのが、この章の標題となっているオークンの法則 なんですが、少なくとも、クロスセクションで国別で見た産出と失業率の相関は明瞭ではありません。特に、右端のスペインや右から3番目の米国で、産出の減少が他の国との比較で相対的に小さかったにもかかわらず、失業率の上昇が大きかったのは、産出の減少に加えて、金融ストレスの影響や住宅価格の低下が大きかったからであると分析しています。逆に、日本なんかは雇用調整助成金などの短期の雇用維持制度が機能した結果、失業率の上昇は比較的小幅に抑えられたわけですが、景気の回復とともに段階的にこういった短期の雇用維持制度を撤廃し、産業・企業横断的に労働が移動しやすい環境を整えることが今後の課題とされています。
上のグラフは第4章の Figure 4.3. から引用しています。先週4月14日に取り上げたアジア開発銀行 (ADB) の「アジア開発見通し」 Asian Development Outlook 2010 の第2部と同じで、明示はしていませんが、中国の人民元の切上げを強く意識した分析となっています。経常収支黒字から転換する際に取られる政策を為替切上げとマクロ刺激策に分けつつ、いずれの政策でも、経常黒字からの転換の際に産出や雇用の悪化を伴うことはないと強調しています。まあ、中国に対して「成長や雇用へのダメージはないから、安心して人民元を切り上げていいですよ」と言っているようなもんです。でも、1985年のプラザ合意後の円切上げの後、日本のバブル景気で成長率が上昇した例は少し疑問が残りますが、これも、通貨切上げに伴う経済抑制効果を回避するためのマクロ刺激策の結果であったことは、確かに、その通りです。ただし、少しやり過ぎて、その後に、バブル崩壊で激しい景気後退を経験したことも忘れるべきではありません。いずれにせよ、人民元の切上げは目前に迫っていると私は受け止めています。
「世界経済見通し」の中心となる経済見通し編の第1章と第2章は今週水曜日の4月21日発表の予定となっています。
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