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2010年4月25日 (日)

伊坂幸太郎『オー! ファーザー』 (新潮社) を読む

伊坂幸太郎『オー! ファーザー』 (新潮社)伊坂幸太郎さんの新刊『オー! ファーザー』 (新潮社) を読みました。もっとも、新刊といっても、2006-07年にかけて河北新報などの地方紙に連載されていたものを単行本化したらしく、作者自身のあとがきの表現を借りれば、『ゴールデンスランバー』から始まる第2期の前の第1期を締めくくる作品、ということになるのかもしれません。しかしながら、この第2期の最近の2作、すなわち、『あるキング』と『SOS の猿』については、意欲的な作品だと思うものの、一部に評価が定まらなかったりもしますし、この『オー! ファーザー』は私や我が家のおにいちゃんを含めて多くの読書子がカギカッコ付きの「伊坂幸太郎の作品」に求めている軽快感やエンタテインメントなどの要素をギッシリ詰め込んでいるような気がします。新潮社のサイトから引用している左上の写真にチラリと見えるかもしれませんが、この『オー! ファーザー』の英語タイトルは a family となっています。ついでながら、私は日本語タイトルを無理やり複数形にして『オー! ファーザー』にすればいいんではないかと思ったりしています。なお、この先はいつもの通りネタバレがあるかもしれませんから、未読の方が読み進む場合はご注意ください。
物語は1人の母親と4人の父親といっしょに6人家族で暮らす高校生の由紀夫を主人公に進みます。4人の父親に育てられた由紀夫は勉強の出来もよければ、バスケ部のレギュラーで格闘技にも覚えがあるというスーパー高校生です。4人の父親は、ギャンブル好きながら妙に言葉に説得力ある鷹、容姿端麗で女好きの葵、格闘技好きの体育会系中学教師の勲、冷静沈着で知性豊かな大学教授の悟の4人です。誰が誰とはいいませんが、明らかにビートルズの4人を意識したキャラと私には見受けられます。その意味で『ゴールデンスランバー』との連続性を見出す読者も少なくないと思います。なお、母親の知代は残業や出張のため最後の最後まで姿を見せません。その昔に我が家の子供達が熱心に見ていた「パワーパフガールズ」に出て来るダウンズヴィル市長秘書のミズ・ベラムを思い浮かべてしまいました。見事なプロポーションながら、首から下しか現れず顔は画面からはみ出ている女性です。
この由紀夫が1学期の中間試験の時期に県知事選挙に絡む事件に巻き込まれてしまうんですが、悟がテレビのクイズ番組に出場して「明日、予定通りに、朝10時半に迎えに行くから、窓空けて待ってろよ」と宣言して、実際に、4人の父親が連携して由紀夫を救い出すというものです。由紀夫と4人の父親以外にも、由紀夫の同じクラスの多恵子や殿様、小学校からの幼馴染みの鱒二、あるいは、富田林などの個性的な脇役についても人間がキチンと描き分けられています。事件が起こるまでにバラまかれたいろんな伏線、すなわち、電線を使った脱出、手旗信号、順番で英単語を覚える殿様方式、富田林が熱狂的なファンだったプロ野球の天才投手、E.T.の着メロ、などが事件解決の際に見事に収束します。伊坂作品の真骨頂といったところかもしれません。

最後に、やや不謹慎な仮定かもしれませんが、母親の知代がすでに死んでいたらと考えたところ、それでもこの作品は成り立っているような気がします。あるいは、知代の存在感が希薄なのかもしれません。でも、最後に、由紀夫の脳裏によぎる父親の葬式と残された3人の父親の連想から、やっぱり、母親の知代もこの作品に欠かせない存在であることを作者は主張したいのであろうと私は解釈しています。

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» 伊坂幸太郎さんの小説が好き [ノゾミンのボチボチな毎日]
小説はもちろん、原作の映画もハマってます [続きを読む]

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