連合総研の勤労者短観に見る生活苦を解消する経済政策とは?
景気は回復を続けているとはいうものの、まだまだ要素需要が出るまでに時間がかかり、雇用が改善しないんですが、雇用や所得について朝日新聞がいくつか特徴的な記事を掲載しています。今日の1面では「デフレ副業 夜に走る」と題した「ルポにっぽん」で、昼間の働きでは収入に不足が生じるため、副業で所得を補う運転代行、家庭教師、ネット店舗の成功例が紹介されています。もっとも、ネット店舗のドロップシッピングについては怪しげな事例も併せて取り上げられています。また、連合総研が実施した第19回「勤労者短観」(速報) の結果のうち、男性非正社員の生活苦についても少し前に報じられています。今日はコチラを取り上げたいと思います。まず、朝日新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
食事も医者も我慢…困窮する男性非正社員 連合総研調査
家計は赤字で、税金を払えず、医者にもかかれず、失業の不安がある――。男性非正社員の生活環境が、正社員だけでなく女性非正社員と比べても厳しいことが、連合総合生活開発研究所(連合総研)が発表した「勤労者短観」でわかった。
民間企業の900人に調査。4月12日までに573人が回答した。
男性非正社員は主に家計を支えている人でも収入が低く、配偶者が共働きでも非正社員のことが多く、世帯収支も赤字が62.9%と全体平均の38.7%を上回った。
男性非正社員の「生活苦の経験」は、「税金や社会保険料を支払えなかった」が31.4%、「食事の回数を減らした」が20.0%、「医者にかかれなかった」が17.1%。これらの経験は、男性正社員や家計を支える人の割合が少ない女性の正社員・非正社員では数%程度しかなかった。
また、今後1年間の失業不安を感じている男性非正社員は45.7%にのぼり、女性非正社員(25.6%)の倍近くとなった。
引用した記事の中の生活苦の例について、男性非正社員の比率の高い特徴的なものを連合総研のリポートの p.15 「図表Ⅲ-6 過去1年間における生活苦による経験」から引用すると以下の通りです。数字の単位は回答数についてのみ人で、その他はパーセントです。
生活苦の体験 | 男性 正社員 | 男性 非正社員 | 女性 正社員 | 女性 非正社員 |
食事の回数を減らした | 6.4 | 20.0 | 3.5 | 4.8 |
税金や社会保険料を支払えなかった | 2.4 | 31.4 | 3.5 | 4.8 |
医者にかかれなかった | 3.7 | 17.1 | 2.6 | 5.6 |
クレジットや割賦、消費者ローンが返済できなかった | 3.4 | 11.4 | 2.6 | 4.8 |
家賃や住宅ローンを支払えなかった | 1.7 | 14.3 | 0.0 | 4.0 |
回答数 (人) | 295 | 35 | 114 | 125 |
特に男性非正社員が高い回答を示している設問を取り上げて、しかも、少し背景色をつけたりして強調いますが、上の表の中でも、「食事の回数を減らした」や「医者にかかれなかった」に至っては、日本国憲法第25条的な意味で基本的な生存権まで脅かされていると考えるべきです。特に、今日の朝日新聞1面の特集では、ベンツの運転を副業として報じていましたが、他の家庭教師などは別にして、明らかに、この例は政府が何らかの政策をもって所得移転を図るべきであって、所得の少ない国民が労働の代償として所得の多い国民から報酬を受け取るべき筋合いのものであるかどうか、私は大いに疑問を感じています。すなわち、何らかの方法でベンツの所有者から運転代行を副業とせざるを得ない国民に対して、政府による再分配が可能なのではないかという気がしないでもありません。
私は相対的貧困率を取り上げた3月号の紀要論文の結論として、いわゆる「小泉改革」が格差拡大を助長したわけではないとしつつ、「本稿の結論は、景気拡大が単純な所得増加的な効果、あるいは、格差是正的な効果を有するかどうかについて、大きな疑問を投げかけるものである。」と締めくくりました。今日のエントリーは相対的な格差ではなく絶対的な貧困を取り上げていますが、最近の論調を見ていると、マクロ経済政策としてデフレを克服しつつ、それだけではなく、何らかの所得再分配政策が必要な段階に達しつつあるような気がしてなりません。すなわち、いかにもネオコン的な自己責任を強調した個人の努力云々ではなく、同時に、いかにもリベラル的な単純に国債発行により財源手当てをするのでもなく、社会的に許容されない貧困の存在を所得の再分配によって、貧困軽減と格差是正をセットにした政策が必要であると私は考えています。
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