国際決済銀行 (BIS) の「年次報告」 BIS Annual Report 2009/10 をどう読むか?
やや旧聞に属する話題ですが、先週、国際決済銀行 (BIS) の年次総会が開催され、これに合わせて「年次報告」 BIS Annual Report 2009/10 が公表されています。もちろん、pdf ファイルで 80th Annual Report もアップされています。やや遅ればせながらリポートを眺めていると、いくつかの面白い論点が浮かび上がりますので、日本の金融財政政策とともに取り上げておきたいと思います。
まず、金融政策については第3章で Low interest rates: do the risks outweigh the rewards? と題して低金利を継続するリスクを論じています。当然ながら、"policymakers in the major advanced economies began considering their options for exiting from their crisis-related positions" (p.37) なわけですが、先進諸国の中で日本が特異な位置を占めていることもこのリポートは見逃していません。"In real terms, rates are around zero in the euro area and negative in the United Kingdom and the United States. In Japan, by contrast, mild deflation has pushed real rates just above zero again." (p.36) と主張し、先進各国とも政策金利は名目ではゼロ近傍であるものの、実質金利で考えると、日本だけはデフレのため欧米と比較してかなり高い水準にとどまっていることを p.36 の以下のグラフで示しています。赤い折れ線が米国、オレンジが英国、緑がユーロ圏、青が日本です。BIS リポートを勝手に解釈して政策金利を引き上げる前に、日銀はデフレ脱却にまず取り組むべきであることは明白です。
次に、財政政策は第5章で Fiscal sustainability in the industrial countries: risks and challenges と題して取り上げており、3ケースのシミュレーション結果を示しています。日本はグロスの政府債務残高のGDP比が2010年でほぼ200%に達し、スラッと先行きを引き延ばすベースラインのシナリオでは2040年で政府債務残高はGDPの500%を軽く超えるように見える、以下のグラフを p.60 に掲げています。私の目の錯覚ではないことを願っています。そして、"Coming on top of the improvement in the primary balance, the freeze of the GDP share of age-related expenditures leads to a faster decline in the debt/GDP ratio or a slower rate of increase." と主張し、私の従来からの説である高齢者への支出削減と軌を一にしているように見受けられます。なお、下のグラフは赤の点線がベースライン、緑が改善ケースとして、プライマリ・バランスのGDP比を2011年から毎年1%ずつ10年間を通して黒字化、あるいは、赤字削減し、10年後の2020年には累積的に10%改善するケース、青はこれに加えて高齢者向け支出を据え置くケースです。GDP比500%の政府債務は明らかに持続可能ではありませんし、毎年GDP比1%のプライマリ・バランスの改善を10年間続けるという、かなり強烈な政策を取っても日本では政府債務は増加を続けます。興味深く、そして、ショッキングなシミュレーション結果です。
現在、繰り広げられている参議院選挙は政権選択選挙ではありませんが、財政政策がひとつの焦点となっています。現政権の目指す「第3の道」によって税を介護事業などに投入しても、decent な雇用が創出されるかどうか、多くの国民は疑問を感じているように私には見受けられますし、私を含む何人かのエコノミストは、かつてのバブル崩壊後の土地価格の上昇を目指す政策と同じで、「第3の道」では新たな付加価値の生産につながらないと否定的に受け止めています。でも、繰返しになりますが、毎年GDP比1%のプライマリ・バランスの改善を10年間続けるという、かなり強烈な政策を取っても政府債務が増加を続けるという現状から、何かを考えねばならない段階に来ていることは確かです。
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