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2010年7月22日 (木)

カギカッコ付きの「勝ち組」と「負け組」についてツラツラ考える

昨夜のエントリーの続きですが、もうほとんど死語となったものの、カギカッコ付きの「勝ち組」と「負け組」についてツラツラ考えたいと思います。この言葉は、終戦直後のブラジルにまでさかのぼるのも何ですので、直接には酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』から派生しているんだと認識していますが、私がこのブログで可能な限り使わなかったのは、すでに書いた通りです。どうしてかと言うと、単純には理由は2点あり、第1に定義があいまいだということと、第2にホントに「勝ち組」や「負け組」という表現が正確かどうか、疑問があるからです。
この言葉は自然人だけでなく法人についても使うことが出来ます。一応、自然人だけについて最初に定義を考えると、「勝ち組」=高所得者、「負け組」=低所得者、に近い概念ではないかと私は想像しているんですが、客観的な所得の多寡だけではなく、規範的な好ましいかどうかの判断とともに、さらに、別の評価も含まれているような気もします。労働時間に大差ないと仮定すれば、高所得者は限界生産性が高く、低所得者はその逆ですから、限界生産性が高いということ自体が何らかの評価が高いことに通じるものがありますし、また、限界生産性が高いということは何らかの希少性の高いスキルを身につけているということであり、評価が高いことも理解できなくもないんですが、違和感を覚える部分も残されています。
次に正確性を考えると、競争の勝ち負けを示唆する表現だと受け止める人は少なくないと私は考えていますが、繰返しになるものの、自然人だけを対象に限定すれば、限界生産性の高低は競争とは関係ないかもしれません。もっとも、労働市場からさかのぼって受験における競争という捉え方も出来ます。私は実証したことはありませんが、大学入試のいわゆる偏差値と卒業生の所得の間には正の相関があるかもしれません。少なくとも、節税目的のワンルーム・マンションのセールス電話の一部は、この仮説に基づいてなされていることを私自身が体験したことがあります。
さて、効率的な分業がなされていれば、長期には所得におけるかなりの平等が達成されると私は考えています。控えめに言っても、クズネッツの逆U字曲線は経済発展の結果としてのより高い平等度合いの達成を示唆していると考えるエコノミストは少なくありません。すなわち、もしも「勝ち組」の基礎に希少性の高いスキルがあると仮定すれば、そのスキルを身につけようとする人が増えるハズですし、その結果、そのスキルは希少性を減じることが考えられます。なお、このスキルには『キャッチャー・イン・ザ・ライ』的な大人の世界の「インチキ」を含めて考えることも出来ます。ですから、エコノミストの好きな定常状態ではかなりの程度に所得の平等が達成されており、現在はこの定常状態に向かっている移行期間であると考えることも出来ます。もちろん、この移行期間において社会的に許容されない不平等が存在するのであれば、市場経済では短期的に所得分配の格差を是正することは不可能ですから、政府が所得再分配を実施する必要があります。ただし、長期に市場が所得分配の平等性を高めるとしても、大前提は効率的な分業がなされていることであって、例えば、封建的な身分制の下で世襲制により職業が相続されて行くような場合、また、別の要因で効率的な分業が阻害される場合、所得の平等性が高まらないことは言うまでもありません。

最後に、定義に戻れば、「勝ち組」や「負け組」といった言葉は世間の耳目を引きつけるのには有効かもしれませんが、議論する場合はある程度の定義も必要ではないかという気がします。例えば、最初に引いた酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』では「どんなに美人で仕事ができても、30代以上・未婚・子ナシは『女の負け犬』なのです。」という表現があります。私も九州の人の神経を逆なでするような「歪んだ郷土愛」という言葉を使いますが、一般的にポンと言葉を投げ出すのではなく、例えば、昨夜のエントリーでは「批判的な論評を受け入れにくくしているという意味」で使っている旨を明記するように心がけています。

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