貿易統計から読み取る輸出の伸びの鈍化
本日、財務省から6月の貿易統計が発表されました。季節調整していない原系列の計数で、輸出額は5兆8660億円、輸入額は5兆1790億円、差引き貿易黒字は6870億円でした。ただし、季節調整済みの系列ではゆっくりと輸出額が減少に向かっています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。主として、暦年上半期の統計に着目した記事です。
1-6月貿易黒字、3兆4009億円 輸出は4期ぶり増加
財務省が26日発表した2010年上期(1-6月)の貿易統計(速報、通関ベース)によると、貿易収支は3兆4009億円の黒字(前年同期は851億円の赤字)だった。輸出額は前年同期比37.9%増の33兆968億円で、リーマン・ショック前の08年上期以来4期ぶりに増加に転じた。伸び率は1980年上期(40.2%増)に次ぐ過去2番目。輸入額は23.3%増の29兆6959億円と3期ぶりの増加だった。
リーマン・ショックの影響で大きく落ち込んだ昨年の反動で自動車を中心に輸出の持ち直しが続いたことや、原油価格の上昇が輸出入額の増加につながった。
同時に発表した6月の貿易黒字は、前年同月比41.1%増の6870億円だった。黒字は15カ月連続で、前年同月を上回るのは13カ月連続。自動車やギアボックスなどの自動車関連部品、鉄鋼の輸出が好調だった。
財務省は、欧州諸国の財政の不透明感やユーロ安などの影響について「注意してみていかねばならない」としている。
次に、いつもの貿易統計、すなわち、輸出入とその差額である貿易収支のグラフは以下の通りです。上のパネルが季節調整をしていない原系列の統計、下が季節調整済みの系列です。凡例にある通り、水色の折れ線グラフが輸出額、赤が輸入額、緑色の棒グラフはその差引きの貿易収支です。
輸出の前年同月比の伸びが鈍化し始め、下のパネルの季節調整済み系列のグラフで明らかなように、今年の年初くらいをピークに季節調整値では輸出は減少を始めています。しかも、この輸出の減少ないし伸びの鈍化、すなわち、季節調整値でみれば減少ですし、季節調整していない原系列で見れば伸びの鈍化となりますが、第1に、これは輸出数量に起因しています。貿易指数は季節調整していない原系列しか公表されていませんが、下のグラフは金額ベースの指数を価格と数量で寄与度分解したもので、ほとんどすべて数量指数の伸びの鈍化が輸出金額の伸びの鈍化をもたらしていることが読み取れます。ただし、第2に、これは少し前までの際立って高い伸びから通常の伸びに回帰するだけであって、大きく悲観するに当たらないと受け止めるべきです。季節調整していない原系列については、もちろん、半年くらい前までの非常に高い輸出の伸びは、さらにその前年の Great Recession からの反動ですので、その反動による高い輸出の伸びが終息しつつあると考えるべきであり、季節調整値については世界経済の回復テンポの鈍化とともに我が国の輸出も緩やかに減少しているものの、まだまだ2005年くらいの高い水準にあると受け止めています。
この先の輸出を考えると、以下の通り、いつものグラフですが、輸出数量指数とOECDの先行指標のいずれも前年同月比を取り、後者だけ3か月ずらしたものを比較しています。世界経済全体が Great Recession からの回復初期のV字回復の期間を終え、潜在成長率水準に回帰して行く中で、我が国の輸出も前年同月比の伸びを鈍化させると考えるべきです。上振れリスクもいくつかありますが、欧州の財政危機、米国の金融規制、中国経済のハードランディングなど、下振れリスクもいっぱいあります。特に、中国のハードランディングについては、可能性は決して大きくないものの、どこか頭の片隅に置いておく必要があると私は考えています。
最後に、ちょうど3週間後の8月16日に4-6月期のGDP速報、1次QEが発表される予定となっています。デフレータ次第ではありますが、今日の貿易統計を見ると直感的に外需のプラス寄与度はかなり縮小し、場合によっては小幅のマイナスになる可能性もあると私は予想しています。
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