東野圭吾『プラチナデータ』 (幻冬舎) を読む
東野圭吾さんの『プラチナデータ』 (幻冬舎) を読みました。東野さんの作品については、今年2月23日に『カッコウの卵は誰のもの』の感想文をアップしていますが、同じくDNAミステリといえます。誠についでながら、DNAや遺伝子については東野圭吾さんの作品とともに、マイクル・クライトンの作品である『NEXT - ネクスト - 』も昨年12月19日に感想文をアップしています。もっとも、私はエコノミストであって、DNAや遺伝子の方面にはめっぽう暗かったりします。以下はその前提で、すなわち、私がDNAや遺伝子に関してシロートであるとの前提で、かつ、気をつけてはいますが、ネタバレがあるかもしれないという前提で読み進んでいただくようにお願いします。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
幻冬舎 プラチナデータ ⁄ 東野圭吾 著
男は優秀な科学者だった。連続殺人犯のDNAが、自分と一致するまでは-。信じられるのは、科学か、自分自身か? 確信は疑念に、追う者は追われる者に。すべての謎は、DNAが解決する。
警察により犯罪捜査のためのDNA情報の収集及び解析のシステムが構築される中、このシステムに検知されない犯罪が連続で発生するとともに、その犯人としてシステム構築に深く関与した警察関係者、しかも、二重人格者である研究者に容疑がかかり、この研究者とヘビースモーカーの現場のたたき上げ刑事の2人が謎に迫ります。プラチナデータとは何か。二重人格はいかにして解消されるのか。もちろん、犯人はだれか。いろいろな謎が解き明かされます。
まず、ネタバレ第1号としては、スズランが幻覚であることは割合と早い段階で分かります。特に、ナッシュ教授の半生を描いた A Beautiful Mind を見ている人なら、容易に幻覚であるとの結論にたどり着くでしょう。次のネタバレ第2弾について、犯人の設定が同じ作者の『流星の絆』に酷似していることを発見する人もいるかもしれません。なお、二重人格に関して簡単に付け加えると、同じ作者の出世作である『秘密』が同じ肉体に2人の人格が宿るという現象を取り上げていることはよく知られた通りですし、多重人格障害については Daniel Keyes による The Minds of Billy Milligan 邦訳『24人のビリー・ミリガン』が余りにも有名ですが、私はコチラは読んでいませんのでよく分かりません。
全体として、犯人像が『流星の絆』と似ているんですが、『流星の絆』よりもミステリっぽいストーリー展開になっていることも確かで、料理、特にハヤシライスにかける情熱を陶芸に置き換えただけだという気もします。また、『NEXT - ネクスト - 』や『カッコウの卵は誰のもの』の読書感想文でも主張したことですが、人格形成とか人間としての心の問題について、マイクロなDNAや遺伝子に着目する余り、家族や地域を含めたマクロな成長過程・環境を軽視し過ぎているような気もします。
前半がスローな一方で後半の展開が速く、少しノリが悪いと感じる人がいるかもしれません。DNAに関する自然科学的な読み方と「プラチナデータ」に関する社会科学的な読み方と、いずれも可能な気がしますが、それだけに中途半端ともいえます。私の評価は4ツ星といったところでしょうか。
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