ファイザーによる「日本全国のニコチン依存度チェック2010」に見るタバコの経済学 (その1)
今日は一気に組閣が進みました。報道を見ている限り、ほぼ内閣の顔ぶれが決まったようです。私は国家公務員ながら、幹部職員からはほど遠いので何のお役目もありませんでした。役所の幹部は官邸に詰めかけたりしていたんでしょうか、それとも、政治主導の時代なので公務員が組閣で忙しくなるのは過去の話になったんでしょうか?
組閣の話題は別にして本題に入ると、来月10月1日からのタバコ値上げに対応して、役所の1階にあるコンビニでもタバコのカートンが積み上げられていたりしたんですが、昨日、製薬会社のファイザーから「日本全国のニコチン依存度チェック2010」というリポートが発表されました。ファイザーは、舘ひろしさんを起用してテレビなどで禁煙治療啓発キャンペーンを繰り広げていることはよく知られた通りです。なお、もう少し値上げが近づく9月末ころに、改めてより学術的な「タバコの経済学」に焦点を当てたいと考えていますが、今日のところは簡単に、このファイザーの調査結果のリポートから、「ニコチン依存度」なる指標を取り上げます。
まず、タバコの喫煙といわゆる「好ましくない指標」、口の悪い人には「下流指標」と呼ばれているものの間には、幅広く統計的に有意な正の相関が観察されます。例えば、所得とか学歴の低さと喫煙率は相関します。もちろん、学歴の低い集団がすべて喫煙者で、学歴が高い人がまったく喫煙しない、というわけではなく、学歴が低いほど、あるいは、所得が低いほど、喫煙率が高いという意味です。そこで、2007年度の1人当たり県民所得と今回のファイザー調査によるニコチン依存度の相関を見ました。以下のグラフの通りです。縦軸が100万円単位の1人当たり県民所得、横軸がパーセント表示のニコチン依存度となっています。
高校までの数学における関数の一般形を思い出せば明らかなんですが、y=f(x) ですから、横軸の x、すなわち、ニコチン依存度が縦軸の y、すなわち、1人当たり県民所得を決定するという定式化にしています。異論あるかもしれませんが、いずれにせよ、線形近似の傾きはマイナス、すなわち、ニコチン依存度と1人当たりの県民所得には負の相関が観察されます。決定係数がやや低いので信頼性は余り高くないんですが、ファイザーの計算によるニコチン依存度が高い県ほど所得が低い、ということです。
全体の相関関係の他、いくつか、興味ある都府県を吹出しで示してあります。1人当たり所得がもっとも高いのが東京都で、ニコチン依存度は神奈川県と宮城県に次いで全国3番目に低くなっています。他方、1人当たり所得がもっとも低いのは沖縄県で、ニコチン依存度も全国で最高となっています。典型的な大都市圏をかかえる大阪府と愛知県が、東京都と沖縄県を結ぶ直線上に近く位置していますが、愛知県は大阪府に比較して、ニコチン依存度が低くて1人当たり所得が高くなっています。もちろん、プロットした県民所得は第14循環の景気のほぼピークだった2007年度のデータであり、その後、愛知県はトヨタとともにやや沈んで行くんですが、このグラフで大阪府と愛知県を比較すれば、大阪府の地盤沈下が明らかになります。非常に興味深い観察結果ではないでしょうか。
最後に、当然ながら私は幅広く禁煙をオススメする立場から今夜のエントリーを書いているんですが、決して、いわゆるカギカッコ付きの「禁煙ファシズム」のような立場はとりません。喫煙するかどうかは自律的な判断が出来る成人による自己責任に基づく選択の結果であると考えています。もちろん、受動喫煙などによる非喫煙者への健康被害はあり得ますが、他方、自動車によって年間数千人の直接的な交通事故の死者が出ているにもかかわらず「自動車禁止論」はそれほど出ていませんし、何といっても、約100年前の米国における「禁酒法」の経験は世界各国で活かされるべきだと考えています。
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