9月調査の日銀短観で金融緩和の材料は出そろったか?
本日、日銀から9月調査の短観が発表されました。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査の+1から7ポイント改善して+8となりました。6期連続の改善です。ただし、先行きは悪化する方向でほぼ一致しています。また、土地を含む大企業の設備投資計画は6月調査の+2.7%増から+2.4%増とやや下方修正されました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日銀9月短観、景況感6期連続改善 先行きは悪化
日銀が29日発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス8と、6月の前回調査から7ポイント改善した。改善は6期連続。ただ改善幅は前回の15ポイントから縮小したほか、3カ月後の先行き見通しもマイナス1と、7期ぶりに悪化した。円高や政策効果の息切れなどによる景気の減速も見込まれ、企業は先行きへの不安を募らせつつある。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。業種別では、製造業16業種のうち、紙・パルプと食料品を除く14業種で足元のDIが改善した。大企業非製造業のDIも前回のマイナス5からプラス2へと6期連続で改善。中小企業の製造業、非製造業も5期連続で改善し、足元では緩やかながらも景況感が改善していることが確認された。
ただ、先行きに対する見方は厳しい。大企業製造業の3カ月後のDIは足元より9ポイント下回るマイナス1になると予測。エコカー補助金の終了の影響を受ける自動車のDIは、足元のプラス32からマイナス6へと、調査開始以来最も大きな落ち込み(38ポイント)となる見込みだ。電気機械などの輸出企業を中心に幅広い業種に不安感が広がっている。
大企業製造業の2010年度の想定為替レートは1ドル=89円66銭で、6月調査(90円18銭)よりもやや円高・ドル安方向に修正された。ただ、足元の円相場は政府・日銀の円売り介入にもかかわらず84円前後で推移している。今後の収益悪化要因になりかねない。
先行きへの不安は企業の設備投資計画にも影響を及ぼしている。大企業製造業による2010年度の設備投資額は09年度比4.0%増。6月調査と比べて0.6%の上方修正にとどまった。設備投資計画は年度半ばで上振れする傾向があり「市場予想よりも弱め」(調査統計局)となった。
デフレにも歯止めがかかっていない。大企業製造業の販売価格判断指数(上昇から下落を引いた値)はマイナス15と前回より1ポイント低下し、3期ぶりに悪化した。先行きも1ポイント悪化を見込んでおり、需要不足を背景にした価格競争の厳しさは依然として和らいでいない。
9月調査の回答基準日は7日で、それまでに7-8割の企業が回答したとみられる。日中関係の悪化などの材料は十分に反映されていない可能性があり、先行き懸念は一層強まっているとみられる。
まず、製造業・非製造業別、大企業・中堅企業・中小企業別の業況判断DIの最近の推移を表に取りまとめると以下の通りです。9月調査で一時的なピークを付け、12月の先行きは悪化するという結果を示しています。
業況判断DI | 2010/3 | 2010/6 | 2010/9 | 2010/12 (先行き) |
全産業 | ▲24 | ▲15 | ▲10 | ▲17 |
大企業製造業 | ▲14 | +1 | +8 | ▲1 |
中堅企業製造業 | ▲19 | ▲6 | +4 | ▲10 |
中小企業製造業 | ▲30 | ▲18 | ▲14 | ▲22 |
大企業非製造業 | ▲14 | ▲5 | +2 | ▲2 |
中堅企業非製造業 | ▲21 | ▲13 | ▲8 | ▲15 |
中小企業非製造業 | ▲31 | ▲26 | ▲21 | ▲29 |
上の表のデータをもう少し長期にプロットしたのが以下のグラフです。
従来からの景気認識と何ら変わるところはないんですが、足元9月までは景気動向は底堅く推移しているものの、サステイナビリティはまったくなく、10-12月期から景気は踊り場に入ることはほぼ確実で、今回の9月調査の日銀短観でもそれが確認されたと私は受け止めています。特に、先行き業況判断DIの落ち方が激しいのは自動車産業です。短観の調査期間中にエコカー補助金の申請受付けが終了しましたので当然でしょう。
それでも、9月までは何とかエコカー補助金が最初の1週間だけ残っていましたし、10月1日からのタバコ値上げの駆込み需要も9月末にはあります。お彼岸までの猛暑の名残りの需要も一部に見られました。しかし、10月からはこれらが一気になくなるだけでなく、自動車やタバコは明らかに反動減があるでしょうし、加えて、今年4月の月初には1ドル95円近くだった為替相場がほぼ一直線に円高が進んだ影響も2四半期を経過してジワジワと現れ始める可能性が高いと考えられます。
従って、設備投資計画も下方修正されました。ただし、上のグラフは直近の9月調査からリース会計対応になっていて、2010年度のみリース会計対応の係数で、2009年度までとは連続性はありません。日銀のサイトに詳しい説明があります。2008年度と2010年度が重なって見にくいんですが、設備投資計画が9月調査で下方修正されるのは景気後退期のひとつの特徴です。
設備と雇用の要素需要に対する過不足判断DIは上のグラフの通りです。設備は先行き過剰感が反転して強まるとの見通しになっている一方で、雇用についても過剰感の払拭に時間がかかっているものの、現時点では反転には至っていません。明後日に発表される労働力調査や有効求人倍率などの雇用統計を見ればより明確になるんでしょうが、雇用環境は極めて緩やかなペースながら改善が進む可能性が高いと私は受け止めています。
ついでながら、白川総裁が世界の中央銀行の中で「日銀が最も金融緩和している」根拠のひとつとして上げられた資金繰り判断DIは上の通りです。世界各国と比べる術はありませんが、かなり資金調達は緩和されていると見ることも出来ます。
最後に、大企業製造業の事業計画の前提となっている想定為替レートは2010年度下期で89.44円でした。足元で1ドル85円を割っている水準ですから、企業側の対応が遅れているとしか言いようがありません。この短観で先行き景気の踊り場入りがハッキリしたわけですから、来週の日銀金融政策決定会合で何らかの追加緩和策が決定されることと私は受け止めています。
| 固定リンク
コメント