湊かなえ『夜行観覧車』(双葉社) と『往復書簡』(幻冬舎) を読む
湊かなえさんの『夜行観覧車』(双葉社) と『往復書簡』(幻冬舎) を立て続けに読みました。『夜行観覧車』は高橋家で起きた殺人事件、すなわち、母親が父親をトロフィーで殴って殺すという事件の真相の謎解きを中心に据えた長編ミステリです。犯人は分かっているんですが、その動機の謎に迫ります。高橋家だけでなく、高級住宅街にある向かいの遠藤家の家庭内暴力なんかも交えて、この作者独特のモノローグ形式で濃厚に描き出します。『往復書簡』は「10年後の卒業文集」、「20年後の宿題」、「15年後の補習」の3編の短編からなる作品で、これも書簡というモノローグから構成されています。
まず、私は湊かなえさんの作品は『告白』から始まって、『少女』、『贖罪』、『Nのために』と、この2冊を読むまでに発表順にすべて読んでいて、その中で『告白』が第1に指を屈すべき代表作であると考えていました。しかし、この2冊を読み終えてから、この『夜行観覧車』が最高傑作であろうと見なすようになりました。分かりやすいテーマながら、この作者ならではの濃厚な語り口で、最後に真相に達するまで、そして、真相に達してからの対処と、いずれも素晴らしい出来だと考えています。決して、高級住宅街で起こった殺人事件ののぞき見趣味ではありません。
他方、『往復書簡』もモノローグで物語を進める作者ならではの着想かもしれません。広く知られた通り、作者の湊かなえさんはアパレルメーカーに勤務の後、青年海外協力隊で2年間の南の島トンガ暮らしを経験し、その後、淡路島で教師の経験もあります。収録された短編の第1作と第2作は教師や学校の視点を踏まえており、第3作で交わされる書簡の一方の主は南の島に「国際ボランティア隊」で2年間の赴任中だったりします。いずれも、過去に起きた何らかの事件の背景を明らかにするという意味の往復書簡となっていますが、作者の人生体験を活かしているのであろうことは読み取るべきでしょう。
私の読後の感想として、『夜行観覧車』は5ツ星、『往復書簡』はやや分かりにくいので4ツ星くらい、でも、いずれもオススメです。この作者の作品は大きなハズレはないように受け止めています。
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