今さらながら OECD PISA 2009 を振り返る
昨日から開催されていた日銀の金融政策決定会合で何か動きがあれば今夜のエントリーで取り上げるつもりだったんですが、相変わらず、世界に冠たる「無策の中央銀行」は短観の基調が変化しても何があっても一向に政策変更する気もないらしく、仕方がないので別のテーマで書いてみたいと思います。すなわち、昨年2009年に実施された経済協力開発機構 (OECD) の「生徒の学習到達度調査」 Programme for International Student Assessment (PISA) の結果が今月上旬に公表されています。今さら感が強いんですが、何はともあれ、簡単に取り上げておきたいと思います。専門外もはなはだしいことで、事実関係を中心に根拠のない感想だけにとどめます。なお、OECD PISA 2009のサイトだけでなく、文部科学省の国際学力調査のサイトなども参考にしています。まず、平均スコアでソートされたランキングは以下の通りです。読解力、数学、科学の3分野別で、10位までと OECD 平均を示しています。なお、OECD 加盟国以外の参加国・地域も含まれており、これらは青で示してあります。
rank | country | score |
reading | ||
1 | Shanghai-China | 556 |
2 | Korea | 539 |
3 | Finland | 536 |
4 | Hong Kong-China | 533 |
5 | Singapore | 526 |
6 | Canada | 524 |
7 | New Zealand | 521 |
8 | Japan | 520 |
9 | Australia | 515 |
10 | Netherlands | 508 |
OECD average | 493 | |
mathematics | ||
1 | Shanghai-China | 600 |
2 | Singapore | 562 |
3 | Hong Kong-China | 555 |
4 | Korea | 546 |
5 | Chinese Taipei | 543 |
6 | Finland | 541 |
7 | Liechtenstein | 536 |
8 | Switzerland | 534 |
9 | Japan | 529 |
10 | Canada | 527 |
OECD average | 496 | |
science | ||
1 | Shanghai-China | 575 |
2 | Finland | 554 |
3 | Hong Kong-China | 554 |
4 | Singapore | 542 |
5 | Japan | 539 |
6 | Korea | 538 |
7 | New Zealand | 532 |
8 | Canada | 529 |
9 | Estonia | 528 |
10 | Australia | 527 |
OECD average | 501 |
次に、PISA は2000年に開始されて3年おきに、日本でいえばその時の高校1年生に当たる学年の生徒の到達度を計測しているんですが、これも平均スコアに従ったランキングで、我が国の順位がどのように推移したかを表に取りまとめると以下の通りです。
Japan | |||||
reading | mathematics | science | |||
yaer | rank | year | rank | year | rank |
2000 | 8 | 2000 | 1 | 2000 | 2 |
2003 | 14 | 2003 | 6 | 2003 | 2 |
2006 | 15 | 2006 | 10 | 2006 | 6 |
2009 | 8 | 2009 | 9 | 2009 | 5 |
一般的な説としては、いわゆる「ゆとり教育」とともに我が国は順位を下げたんですが、逆に「ゆとり教育」を止めたので少し順位が戻りつつある、などと解釈されたりしています。この部分については感想は差し控えます。ただし、到達度を平均だけで観察することは何らかのバイアスを生じる可能性がありますので、レベル別に分布も併せて見ると以下のグラフの通りです。上から、読解力、数学、科学の順となっています。表と同じく上位10国・地域と OECD 平均だけです。なお、レベルはまちまちなんですが、赤と水色の境目で縦にそろうようにプロットしてあります。
直観的には、我が国はレベルごとにかなり分布が幅広く、いわゆる fat tail な分布をなしているように見えます。ある意味で、black swan が観察されるというか、この場合は天才が現れる可能性が比較的高い分布のような気がしなくもありません。日本以外の国・地域では、メディアでも話題になりましたが、中国の上海が各分野、特に数学で圧倒的なトップに立ったことが特徴的です。私は従来から数学的な能力は部分的には数の数え方、難しくいえば、記数法とか言語の数体系に依存するという説を持っており、中国語やその影響を強く受けた日本語の10進法は数学に有利ではないかと考えています。英語のような12進法、スペイン語の15進法、フランス語の16進法などは不利なのかもしれません。もっとも、ラテン語は私が知る限り10進法ですが、18なんかは20に2足りない、といった複雑な記数法を取ります。現在でもフランス語にその名残りが見られるのはよく知られた通りです。
なお、もちろん、OECD/PISA は悉皆調査ではなく、無作為抽出によるサンプル調査です。日本ではランダム・サンプリングにより約6000人が参加しています。しかし、上海の結果、特に数学については、サンプリングに疑義を生じるに十分な結果だと私は受け止めていたんですが、最近になって知り合いに謎解きをされました。すなわち、日本では高校はほぼ全入に近いわけですから、PISA 対象である高校1年生はほぼ日本人一般に近い概念である一方で、上海で日本の高校1年生に当たる学年まで学校に通っているのは、そもそも、かなりのエリート層ではないか、という見方です。中国の教育制度に関する情報はそれほど持ち合わせていませんが、そうなのかもしれません。そうでないのかもしれません。
最後に、昨年の今ごろ、私が外交官として3年間勤務したチリが OECD から招待状を受け取り加盟しました。ラテンアメリカではメキシコに次いで2番目の加盟国だったと書いた記憶があります。しかし、今回の PISA 2009 の結果を見ると、平均スコアでソートした加盟国の順は読解力、数学、科学ともワースト3はメキシコ、チリ、トルコの順でした。まあ、こんなもんでしょう。
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