最近読んだ話題のペーパーから
最近、いくつかの日本語サイトでも取り上げられていますが、NBER のワーキングペーパーから興味深い研究結果が発表されています。NBER からはいつも大量のペーパーが発表されていますので、すべてを見ているわけではありませんが、今夜は以下の2本のペーパーをごく簡単に取り上げたいと思います。
- Jones, Charles I. and Peter J. Klenow (2010) "Beyond GDP? Welfare across Countries and Time," NBER Working Paper No.16352, September 2010
- Chetty, Raj, John N. Friedman, Nathaniel Hilger, Emmanuel Saez, Diane Whitmore Schanzenbach, and Danny Yagan (2010) "How Does Your Kindergarten Classroom Affect Your Earnings? Evidence from Project STAR," NBER Working Paper No.16381, September 2010
タイトルを見れば分かりますが、最初のペーパーは経済的な豊かさの指標のひとつであるGDPではなく、経済的厚生の水準を計測しようという試みです。私は必ずしも GDP が "a flawed measure" であるとは考えていませんが、いわゆる Stiglitz-Sen リポートも話題になりましたし、それなりに注目しています。計測結果はペーパーの p.22 Table 2: Welfare and Income across Countries, 2000 にいくつかの国が示されており、さらに、スタンフォード大学のサイトに Excel ファイルで詳細に提供されています。このデータを基に主要な国について、The Economist のサイトに画像が示されていますので、以下に引用します。

もうひとつのペーパーは11,571人を対象とした米国テネシー州のSTARプロジェクトの結果を取りまとめた内容で、何と、幼稚園を終了する段階でその後の人生が決まってしまっている可能性を示唆するものです。下のグラフは、ペーパーの p.54 Figure 1 Correlation between KG Test Scores and Adult Outcomes から引用しています。横軸が幼稚園終了時のテストのスコアを順位で相対的に並べたもの、縦軸は25-27歳時点での平均所得です。高校数学のレベルでも関数は y=(x) と学習しますが、横軸の x が縦軸の y を決定する定式化となっていて、見事なほどに相関しています。幼稚園卒業時のスコアの順位が高いほど高所得が享受でき、平均 $15,912 の所得に対して、1%ポイントの順位の違いが $132 の差をもたらすと結論されています。また、学級の人数は大きな影響がないものの、教員のスキルは影響が大きいとも指摘されています。ひょっとしたら、幼稚園終了時のスコアでもってその後の人生が決まってしまい、小学校の初等教育や中等教育、さらに、大学での高等教育を含めても、逆転することは難しいという結果が示唆されているのかもしれませんが、せいぜい27歳までしかフォローしていませんから、日本人的に言えば50年以上の人生が残っているわけで、その後の大逆転があるのかもしれません。この研究成果からは残り50年の人生については不明です。

いずれも9月に発表されたペーパーです。ご興味ある向きは最初にお示しした NBER のサイトをご覧ください。
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コメント
幼稚園終了時の能力を、先天的なもの(生まれつきの才能)と、後天的なもの(幼稚園終了時までの教育と努力)の2つに分けたとします。
幼稚園終了時のテストのハイスコアを決めているのは、上の2つの内のどちらが大きいのかが気になります。
次の2つには27歳時の所得に差はあるのでしょうか。
1.幼稚園の教員の質が悪いために、テストスコアが悪いグループのトップ層。
2.幼稚園の教員の質が良いために、テストスコアが良いグループのうち、上記の1と同じくらいのテストスコアの層。
1の所得の方が、有意に高いのであれば、27歳時の所得を決定しているのは、結局、幼稚園の教育ですらなく、持って生まれた才能なのかもしれません。
投稿: gaga | 2010年12月11日 (土) 12時45分
連投で申し訳ありません。
言うまでもないことですが、このグラフは「幼稚園以降の教育や努力は無駄」ということを意味しているのではないと思います。
元論文を読んでいないのでいい加減な推測ですが、グラフの縦軸は、横軸のテストスコアに該当した人たちの所得の「平均値」だと思います。
ここで次の2つの層を例にとります。
A.95-100点を取った人たちが、例えば512人いたとして、その人たちの27歳時点の所得の「平均値」
B.85-90点を取った人たちが、例えば469人いたとして、その人たちの27歳時点の所得の「平均値」
Aのグループにも、Bのグループにも、恐らく怠け者も努力家もいますが、それらの人々の所得を平均したら、A>Bとグラフは言っています。「努力水準(努力できる才能)」の分布がAとBとではあまり変わらないのだとすると、平均をとることによって努力水準はAとBで同じくらいになります。よって、グラフが示しているのは、「27歳までの努力水準が同じ」ならば、幼稚園終了時のテストスコアが高い方が、所得が高くなるということではないかと思います。
一方で、Aのグループの怠け者と、Bのグループの努力家を比較したら、どちらの所得が高いのかということまでは、グラフは示していません。実際、どうなんでしょうね。
投稿: gaga | 2010年12月11日 (土) 13時23分
コメントをちょうだいするのは一般論として有り難いんですが、やっぱり、コメントするだけの時間があれば、私ならペーパーを入手して読もうと考えるんではないかと思います。
投稿: 官庁エコノミスト | 2010年12月11日 (土) 18時51分