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2011年1月18日 (火)

国際通貨基金 (IMF) の最近のペーパーから

今夜は国際通貨基金 (IMF) が今年になって出した2本のワーキング・ペーパーに注目したいと思います。取り上げるのは、番号順とは逆ですが、私の興味に従って以下の通りです。圧倒的に先に上げたペーパーに注目します。なお、リンク先は pdf ファイルですので、サイトを開くには Acrobat Reader が必要です。

タイトルから何が書いてあるかは大雑把に分かると思うんですが、より強く私の興味を引いた方の Berkmen (2011) "The Impact of Fiscal Consolidation and Structural Reforms on Growth in Japan" については、IMF のサイトから以下の通りサマリーを引用しておきます。

Summary: With Japan's public debt reaching historical levels, the need for fiscal consolidation and structural reforms have increased. As fiscal consolidation will require a sustained and large adjustment in the fiscal balance, its growth effect is a concern particularly for the short run. This paper uses the IMF's Global Integrated Monetary and Fiscal Model to analyze the growth impact of fiscal consolidation and structural reforms. Although fiscal consolidation has short-term costs, the potential long-term benefits are considerable, and reforms that raise potential growth could support consolidation. Simulations show that the external environment also matters but domestic policies should be the priority.

要するに、日本の財政赤字がかつてない水準に達していて、暗黙のうちに世界経済の潜在的なリスクとなっていることから、日本が財政再建を行うと成長率にどのような影響が生じるかを IMF のモデルを用いて試算しているわけです。サマリーの書出しは上の通り "With Japan's public debt reaching historical levels, the need for fiscal consolidation and structural reforms have increased." で「財政再建や構造改革の必要性が高まって来ている」くらいなんですが、書いているうちにだんだんと気分が高まってしまったのか、ペーパーの最後の結論部分では "With debt to GDP reaching historical levels, fiscal consolidation is unavoidable for Japan." となって、「財政再建は不可避である」とトーンアップします。なお、IMF のモデルについては、このペーパーでも簡単に触れていますが、詳細は Kumhof, Michael, Douglas Laxton, Dirk Muir, and Susanna Mursula (2010) "The Global Integrated Monetary and Fiscal Model (GIMF) - Theoretical Structure," IMF Working Paper WP/10/34, February 2010 を参照した方がいいでしょう。パラメーターのカリブレーションまで含めて、ほとんどそのままだと理解しています。

Fiscal Consolidation Senario

で結論はというと、上のグラフの通りです。ペーパーの p.7 と p.8 の2枚のグラフをつないでいます。上のパネルが財政調整額のシナリオで、下のパネルはこの財政調整がベースラインGDPに及ぼす影響です。まず、上のパネルで、財政調整に必要な額はGDP比で10%なんですが、GDP比2½%は財政刺激策の終了で自動的に減るとした上で、消費税でGDP比5%、政府消費の削減でGDP比2%、公共投資の削減でGDP比½%、を見こみます。しかし、他方で法人税をより歪みの少ない形にするためにGDP比½%の減税を盛り込んで、不足する部分は政府からの移転を縮減して捻出するとしています。財政再建の大きな部分は消費税増税が担う形になっています。その結果は下のパネルで示された通りであり、当初3年間は1%くらいベースラインGDPから乖離しますが、5年目以降はむしろプラスに転じ、より長い目で見ればベースラインGDPの3%を超えるインパクトがあると試算しています。財政再建だけでなく、同時に、構造改革も必要と強調し、生産性の向上、競争の適正化などとともに成長戦略の強化も必要であると指摘しています。また、構造改革が進展すれば生産性の上昇に伴って円高に振れることから、これを防止する金融政策運営の重要性も示しており、また、財政再建が進めば国内貯蓄率が高まり経常収支がGDP比で1-1½%ほど黒字幅を拡大する点も明らかにしています。なお、前提となる消費税率はすでに昨年の5月14日や7月15日に取り上げた IMF による 2010 Article IV Consultation の対日審査結果です。このリポートの p.14 Potential Options for Gradual Fiscal Adjustment Over Next 10 Years の表を以下に引用します。IMF としては消費税率15パーセントを推奨しているんだろうと受け止めるべきです。前の自公政権の麻生内閣下での内閣府による試算ながら、2009年6月の「中長期の道ゆきを考えるための機械的試算」などを見ても、現行から5%の引き上げ、すなわち、消費税率10パーセントくらいであれば、公債残高はせいぜい横ばいとなるだけであり、それ相応の税率引上げが必要であることは明らかです。

Potential Options for Gradual Fiscal Adjustment Over Next 10 Years

チリの産出ギャップのペーパーについては、単一変数アプローチに基づくHPフィルターやBPフィルターを用いた方法のほか、多変数アプローチである状態空間モデルや生産関数を用いた推計、構造VARプロセスの応用、IMFの経済見通しモデルなどの方法論を展開し、それぞれについて1998年以降の潜在GDPと産出ギャップを計測しています。実は、私も我が国の産出ギャップについて状態空間モデルを組んでカルマン・フィルターで解いた結果を長崎大学の紀要にペーパーとして書いた記憶があります。実に安直なペーパーだったんですが、3年間の長きにわたって私が大使館勤務をしたチリについて同じようなテーマを取り上げたペーパーでしたので、ついつい目に止まってしまいました。誠に申し訳ないながら、内容は大したことありません。私でも書けそうな気がします。従って、ごく短い記述で済ませます。

その昔に、「ネバダ・リポート」なるものがウワサになったことがあります。ネットで検索すれば概要は分かると思いますが、日本が財政破綻した際に IMF が日本に課すであろうコンディショナリティなどを取りまとめてあるのではないかといわれていたりしましたが、その存在が確認されたわけではありません。ひょっとしたら、昨年の IMF コンサルテーション対日審査結果とこのペーパーが日本財政破綻に備えた国際機関の頭の体操の成果だったりするのかもしれません。

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コメント

こんにちは。
一昨年の「中長期の道ゆきを考えるための機械的試算」もいいんですが、最新の昨年6月の「経済財政の中長期試算」はどうして参照しなかったんですか。興味あるので教えてください。

投稿: 少し財政を知る | 2011年1月19日 (水) 13時11分

ある意味でごもっともな疑問だと思います。
お示しいただいたのが、現在の民主党政権下であると同時に、最新の財政計算であることは確かです。しかし、政治主導なんだろうと私なんかは解釈していますが、消費税率引上げのシミュレーション結果がまったくありません。ハッキリいって、使い物にならないことも承知しておくべきです。

投稿: 官庁エコノミスト | 2011年1月19日 (水) 19時47分

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