佐伯泰英『姥捨ノ郷』 (双葉文庫) を読む
佐伯泰英『姥捨ノ郷』 (双葉文庫) を読みました。昨日の『繁栄』とは打って変わって娯楽超大作です。「居眠り磐音江戸双紙」のシリーズ第35巻目になります。徳川家基亡き後、田沼の刺客を逃れて江戸を追われるように旅立った磐音とおこん、それに途中で加わった弥助と霧子の主従4人は尾張名古屋に腰を落ち着けるかと思いきや、この『姥捨ノ郷』では名古屋を発って、霧子の記憶を頼りにその昔の雑賀衆の隠れ里である「姥捨ノ郷」に入り込みます。何と、そこに松平辰平と重富利次郎が合流します。この巻の最後で、おこんが男の子を生み空也と名づけられます。また、田沼没落のきっかけを作る佐野政言が物語に登場します。歴史上、佐野政言は老中田沼意次の嫡男である若年寄田沼意知を江戸城中で襲います。家系図と神社の横領が原因といわれています。
いずれにせよ、佐野政言が田沼意知を殺害するのが天明4年(1784年)のことで、おこんに子が生まれるこの巻の最終のトピックが安永8年(1779年)となっていますから、あと4-5年くらい磐音は雌伏する必要があります。姥捨ノ郷に入ったのは、このためであろうと私は受け止めています。すなわち、この姥捨ノ郷で何事もなく4-5年を過ごし、小説の上ではホンの2-3パラグラフで済ませるんではないかと私は想像しています。それにしては、松平辰平と重富利次郎が磐音とおこんに合流したのはいかなる伏線なのか、やや理解に苦しんでいます。私が小説の技法の上では「あっ」という間に過ぎるであろうと想像している4-5年なんですが、実はそうではないのかもしれません。このシリーズの従来の時の流れからすると、1年を2巻くらいで書き進んでいますから、田沼没落と磐音復活に10巻位を費やすのかもしれません。実に興味深い点です。
ここまで長くこのシリーズにお付き合いしてしまうと、新しい小説が出ると買って読まざるを得ません。世の中には、特に私の公務員仲間の何人かは「小説は読まない」と偏ったことをいう人もいないではないんですが、私の読書の中で小説が占める比率は半分を超えます。教養と知性は同じではないのかもしれません。
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