鉱工業生産は踊り場を脱して増産に転じたか?
本日、経済産業省から昨年2010年12月の鉱工業生産指数が発表されました。ヘッドラインとなる季節調整済みの前月比は、市場の事前コンセンサスが+3%をやや下回るくらいであったところ、+3.1%の上昇となりました。かなり強い数字と私は受け止めています。基調判断は「弱含みで推移している」から「持ち直しの動きがみられる」に上方修正されました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
12月の鉱工業生産3.1%上昇 基調判断を上方修正
10年通年は3年ぶりプラス
経済産業省が31日発表した2010年12月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は94.6になり、前月比で3.1%上昇した。上昇は2カ月連続で、輸出向けの自動車や携帯電話などの生産回復がけん引役になった。基調判断は11月までの「弱含み」から「持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。同時に発表した10年通年の鉱工業生産指数(原指数)は前年比で15.9%上昇し、3年ぶりにプラスになった。
基調判断を上方修正するのは09年4月以来、1年8カ月ぶり。昨年9月に前月の「横ばい」から「弱含み」に判断を引き下げていた。
1月の製造工業生産予測指数は前月比で5.7%上昇する見通し。輸送機械や一般機械が寄与する。生産が1月も上昇する見込みになったことも踏まえ、経産省は「昨年秋からの足踏み状態を脱しつつある」との認識を示した。2月は情報通信機械などの生産が減少することから1.2%低下する見通しだ。
12月の鉱工業生産指数は事前の市場予測の中央値(前月比2.8%増)を上回った。業種別では自動車などの輸送機械が5.1%上昇した。品目別にみると、北米や欧州向けの普通乗用車、アジアを含めた海外向けの小型乗用車などが回復した。自動車の国内販売は低迷が続いているものの、海外需要の増加で持ち直してきた。
電子部品・デバイスも7.7%上昇。国内のスマートフォン(高機能携帯電話)向けの固定コンデンサーや欧米向けの携帯電話用コネクターなどが好調だった。
12月の在庫指数は96.2と1.4%上昇。家電のエコポイント制度が縮小された影響を受け、液晶テレビが40.7%、DVD・ビデオが38.7%それぞれ上昇するなど、在庫が積み上がった。出荷指数は95.7と1.1%の上昇だった。
一方、10年10-12月期の鉱工業生産指数は前期比で1.7%低下した。エコカー補助金が終了した後の自動車の減産を受けて10月に大きく落ち込んだため、2四半期連続でマイナスになった。10年通年は、09年がリーマン・ショック後の世界的な景気悪化の影響で前年比21.9%低下と大きく落ち込んだ反動から、高い伸びになった。
次に、鉱工業生産指数のいつものグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整済みの鉱工業生産指数のレベルそのもので、下のパネルは季節調整していない鉱工業生産指数と先週発表された貿易統計のうちの輸出数量指数のそれぞれの前年同月比をプロットしています。いずれも影を付けた期間は景気後退期です。
繰返しになりますが、12月の増産は+3.1%となっていて、さらに、製造工業生産予測調査に従えば、今年1月は前月調査時の+3.7%の増産から上方修正されて+5.7%と大幅増が見込まれています。もっとも、2月は反動減で▲1.2%の減産となっています。今年も中国の春節が2月にずれ込んだことから、ある程度の減産は季節要因のために予想されていたところですし、この2月の減産幅は1月の増産に比較してかなり小さいと私は受け止めています。これは明らかに輸出主導の生産拡大です。輸出数量指数と比較したグラフを見ても、足元で鉱工業生産は増産に転じた可能性が高いと考えるべきです。
増産に転じた可能性が高いとの基本的な認識を基に、明るい話題と心配な話題を1点ずつ取り上げると上のグラフになります。まず、上のパネルは楽観的な見方を支持するものであり、製造工業とその中の電子部品・デバイス工業の在庫率の推移をプロットしています。現時点で確たることは判断しかねますが、今回の踊り場に伴う在庫率の上昇はピークを過ぎた可能性があります。他方、下のパネルは別の観点から悲観的な見方を提供するもので、産業別ではなく財別に見ると、まだまだ資本財出荷が伸びません。すなわち、設備投資が本格的に増加するにはもう少し時間がかかる可能性があります。
12月までのデータが利用可能になりましたので、上のグラフの通り、在庫循環図を書いてみました。2010年7-9月期からすでに第1象限に戻っていますが、この先、踊り場の際に積み上がった在庫を圧縮する動きが大きければ第2象限に戻る可能性も排除できません。第1象限と第2象限を少し行ったり来たりするかもしれません。
最後に、地域的にも分野的にもはなはだ専門外なんですが、エジプト情勢が我が国の生産や経済に及ぼすリスクについて、私なりに3点ほど取り上げておきたいと思います。すなわち、第1に、相対的に安全資産である円が買われて円高が進む可能性を指摘できます。第2に、さはさりながら、エジプト自身は産油国ではないものの中東の要の国であり、原油をはじめとする商品市況をさらに高騰させる可能性を忘れるべきではありません。第3に、エジプトはスエズ運河を管理する国であり物流面で混乱を引き起こす可能性が心配されます。エジプト情勢の先行きはまったく私には分かりませんが、これらのリスクを顕在化させることのないよう早期の収束を望みます。
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