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2011年2月21日 (月)

労働力調査2010年詳細集計から何が読み取れるか?

本日、総務省統計局から失業率などの労働力調査の2010年平均の詳細集計の発表がありました。特に、2010年中に何かの構造変化が生じたとは私は考えていませんが、雇用を重視するエコノミストとして、簡単に取り上げておきたいと思います。ただし、都道府県別集計は3月1日になるようなので、取りあえず、今日のところは全国集計のみとなります。また、詳細集計は主として正規・非正規に着目されますが、失業期間やミスマッチの理由も集計されており、また、今夜のエントリーでは総務省統計局から発表されている基本集計と詳細集計だけでなく、厚生労働省による職業安定業務統計なども含めて2010年の雇用について論じたいと考えています。

完全失業者数の推移

まず、上のグラフは基本集計から完全失業者数の推移、加えて、詳細集計から1年以上の期間に渡って失業状態にある失業者数です。緑色の棒グラフで示した完全失業者数については、バブル経済末期の1990年に完全失業者134万人をつけた後、急速に失業が増加し、2002年には359万人に達しました。その後、「実感なき」景気拡大なんぞといわれつつも、5年間で100万人の失業者が減少し、2007年には257万人を記録しました。しかし、2009年には軽く300万人を超え、2010年は前年比でわずかに2万人減少しただけでした。また、赤い折れ線は完全失業者のうち、失業期間が1年を超えた失業者数を示しており、失業者の中でも長期に渡って失業状態にある失業者が徐々に多くなっています。特に、昨年2010年は2009年に比べて失業者総数はわずかながら減少しているにもかかわらず、失業期間1年超の失業者数はグンと増えています。グラフは示しませんが、別のデータでは失業が1年を超えてしまえば、そのまま2年に達するケースが多数を占めることが示されています。

正規・非正規比率の推移

続いて、上のグラフは労働力調査の詳細集計でもっとも注目される雇用の正規・非正規の割合です。久し振りに2009年は前年に比較して正規比率が高まったんですが、ひょっとしたら、「雇い止め」や「派遣切り」の影響だったのかもしれません。私は基本的には雇用の流動化を進めるべきとの意見を持っていますが、非正規を増加させるのではなく、正規職員の余りに固定化された雇用の流動化が必要だと考えています。

ミスマッチの理由

さらに、詳細集計から「仕事につけない理由」として集計されている就職の際のミスマッチの要因は上の円グラフの通りです。もっとも比率の高いのが仕事内容に関するミスマッチで30%を超えます。その次の年齢条件は想像しやすいもので、求人側は若い人材を募集しても中高年が応募するという構図なのかもしれません。でも、もっとも深刻なのは「条件ナシ」にもかかわらず就職できない失業者がいることで、しかも、無視できない比率を占めています。

UV曲線とフィリップス曲線

最後に、労働力調査と一般職業紹介統計及び消費者物価を重ね合わせたグラフを2枚示すと上の通りです。上のパネルはいわゆるUV曲線、下はフィリップス曲線です。いずれも1980年から2010年の年データをプロットしており、失業率は雇用失業率、すなわち、自営業者を除外して、失業者数を失業者と雇用者の和で除して求めた比率を用いています。上のUV曲線は赤い上矢印の1980年から下矢印の2010年まで、徐々に外側にシフトして来ていたんですが、2006-07年ころからやや左下にシフトしたような印象もあります。また、フィリップス曲線は左矢印の1980年から右矢印の2010年まで、細かなシフトが観察されないわけではないんですが、ほぼ安定した位置にあると見えなくもありません。虚心坦懐に見る限り、失業率が4%を下回る水準に達しなければ、我が国は安定したプラスのインフレ率を望めないのではないかという気になってしまいます。

菅総理大臣は就任直後に「1に雇用、2に雇用、3に雇用」と雇用重視の姿勢を見せて、私も大いに期待したんですが、今日の朝日新聞や毎日新聞の朝刊に報じられた内閣支持率を見る限り、別の方面でお忙しいのかもしれません。私なりとも雇用を重視するエコノミストとして、細々とデータの解説に努めたいと思います。

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