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2011年2月23日 (水)

22か月ぶりに赤字を記録した貿易統計と28か月連続でマイナスを続ける企業向けサービス価格指数

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、日銀から企業向けサービス価格指数 (CSPI) が、それぞれ発表されました。貿易統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整前の原系列で見て前年同月比+1.4%増の4兆9714億円、輸入額は+12.4%増の5兆4428億円、差引き貿易収支は22か月振りに赤字を記録し、4714億円でした。企業向けサービス価格は前年同月比で▲1.1%の下落となり、2008年10月から28か月連続でマイナスを続けています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月貿易収支、1年10カ月ぶり赤字 原油高で輸入増
春節控え対中輸出手控え

財務省が23日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、貿易収支は1年10カ月ぶりに赤字に転じ、4714億円の赤字となった。原油高の影響などで輸入額が12.4%増の5兆4428億円と増勢が続いた。一方、輸出額は前年同月に比べ1.4%増の4兆9714億円にとどまった。14カ月連続のプラスを確保したものの伸び率は、前月に比べ大きく鈍化。2月上旬の春節(旧正月)の大型連休を前に、中国向け輸出が手控えられたことが響いた。
財務省は輸出について「中国やアジア経済は好調なため、元に戻る」と指摘。1月の鈍化は特殊要因の側面が強いとの見方を示した。新興国の需要増や投機マネーの流入で価格が上昇した原油の輸入は前年同月比で10.6%増加。円建ての1キロリットルあたりの単価が前月より5.8%上がった影響を受けた。
地域別の輸出動向をみると、中国などアジア向けが前年同月に比べ0.4%の増加にとどまった。鉄鋼や自動車は伸びたものの、中国向けの非鉄金属やプラスチックが落ち込んだ。2月上旬の春節前の出荷を見合わせた特殊要因もあると、財務省はみている。
欧州連合(EU)向けは前年同月比0.7%減で、3カ月ぶりにマイナスに転じた。ドイツ向けの半導体やオランダ向けのデジタルカメラなどが伸び悩んだ。一方で米国向けは6.0%の増加。鉄鋼や金属加工機械が好調だった。
1月企業向けサービス価格、28カ月連続マイナス
日銀が23日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2005年=100)は96.1となり、前年同月に比べて1.1%低下した。前年同月比でのマイナスは2年4カ月連続となり、指数も過去最低を更新したが、マイナス幅は前月(マイナス1.3%)から縮小した。
企業向けサービス価格指数は、企業間で取引されるサービス価格の水準を示す。項目別でみると「運輸」が0.8%低下した。需要拡大で前年に価格が上昇した反動やオーストラリアの洪水による石炭出荷の停滞などで外航貨物輸送が低下したことが響いた。
一方、新聞広告が2年11カ月ぶりに上昇し、「広告」が0.9%上昇。宿泊サービスが好調だったことなどから「諸サービス」の下落幅が縮小し、全体のマイナス幅の縮小に寄与した。強弱の材料が交錯しており、日銀は「一進一退の展開が続いている」(調査統計局)としている。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。いずれも毎月の輸出入とその差額たる貿易収支をプロットしているんですが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計、下は季節調整済みの系列です。縦軸の単位は兆円です。

貿易統計の推移

まず、貿易収支が赤字になったのは輸出の鈍化と原油価格の高騰などに伴う輸入の大幅増の輸出入両方の要因が作用しています。後者の商品市況の高騰はエジプトやリビアなどの地政学的な要因も含めて考えるべきなんでしょうが、私には地政学的な影響を考慮するだけの能力はありません。しかし、国内経済活動には何らかの輸入は不可欠である、というのが単純化した私のスタンスです。ですから、輸出の鈍化をどう見るかが重要になります。私のシナリオは、輸出は踊り場を脱却して伸びが加速しつつある段階にあり、その動きが昨年と同じ春節効果などによって一時的に停滞しているだけで、年央くらいまでに増勢を取り戻す、と基本的に考えています。もちろん、踊り場を脱していない、という見方をするエコノミストもいる可能性は排除しません。私と同じ前者の見方は1月統計が例外的に低い伸びを示した、と考える一方で、後者の見方は昨年12月統計が例外的に高い伸びを示しただけ、と考えるのかもしれません。

輸出数量と関連指標の推移

ということで、上のグラフでは輸出の先行きを考えるため、いくつかの関連指標を輸出数量指数、あるいは、輸出数量指数の伸びと重ねてプロットしてみました。上のパネルは輸出数量指数と米国 ISM 指数で、下は輸出数量指数の前年同月比伸び率と OECD 先行指標の同じく前年同月比伸び率を取っています。ただし、OECD 先行指標の前年同月比は3か月のリードを取っています。これも少し見方が分かれるんですが、米国 ISM 指数はかなり強気の見方を示している一方で、OECD 先行指標は前年同月比で見る限り今少し低い伸び率が続きそうです。もっとも、OECD 先行指標も足元の動きは回復ないし拡大に向かいつつありますから、繰返しになりますが、年央くらいまでに輸出は増勢を取り戻す可能性が高いと私は受け止めています。

企業向けサービス価格指数の推移

最後に、企業向けサービス価格指数 (CSPI) の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。企業物価指数 (CGPI) と重ねてプロットしてあります。財価格の方が商品市況などに押されて上昇を始めた一方で、需給ギャップにより敏感と考えられているサービス価格はマイナスを続けています。日銀の公式見解の通り、「一進一退」なのかもしれません。

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