鉱工業生産指数の増産は最終需要に基づくものか?
本日、経済産業省から今年1月の鉱工業生産指数と商業動態統計の結果が発表されました。ヘッドラインとなる鉱工業生産指数の季節調整済み系列は、市場の事前コンセンサスの+4%増は下回りましたが、前月比で+2.4%の増産を示しました。また、製造工業予測調査によれば2月は+0.1%、3月は+1.9%のそれぞれ増産が見込まれています。他方、商業統計の小売業も前年同月比で+0.1%の増加でした。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
1月の鉱工業生産2.4%上昇 自動車・鉄鋼がけん引
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(速報、季節調整値、2005年=100)は97.1で、前月比で2.4%上昇した。上昇は3カ月連続で、自動車や鉄鋼など輸出がけん引役となった。2、3月も上昇を見込んでおり、経産省は基調判断を「持ち直し」に据え置いた。
1月の鉱工業生産指数は事前の市場予測の中央値(4.0%上昇)を下回った。業種別にみると、自動車など輸送機械工業が7.5%上昇。欧州やアジア向けの普通自動車が伸び、部品も回復した。5.6%増の鉄鋼業では、自動車向けの鋼材の生産が増加した。
一般機械工業も2カ月ぶりに上昇し、4.6%伸びた。欧州や台湾向けの半導体製造装置が26.4%増と好調だった。
ただ、昨年12月以降に家電エコポイント制度が縮小された影響で液晶テレビが落ち込んだこともあり、情報通信機械工業は9.0%減と2カ月ぶりにマイナスに転じた。
在庫指数は100.9と4.7%上昇し、上昇率が2005年基準で最高だった。液晶テレビの在庫が積み上がり、情報通信機械工業が40.7%増だった。出荷指数は96.9と1.1%増。1月は気温が低かったことから、石油ストーブの出荷が約2倍になった。
同日発表した製造工業生産予測調査は、2月が0.1%上昇、3月は1.9%上昇だった。予測指数通りなら1-3月期の鉱工業生産指数は前期比5.7%上昇の97.8になり、リーマンショック前の08年7-9月(104.6)以来の高水準になる見通しだ。
ただ、第一生命経済研究所の新家義貴主任エコノミストは鉱工業生産は輸出の影響を大きく受けているとしたうえで、「原油高が続けば米国やアジア経済の回復ペースが想定より鈍化する可能性がある」と指摘している。
小売業販売額2カ月ぶり増加 1月0.1%増
エコポイント反動、家電など9.1%減
経済産業省が28日発表した1月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は11兆1340億円で、前年同月比0.1%増加した。増加は2カ月ぶり。燃料小売業が原油高を背景に11.9%増えたのが主因だ。一方、家電エコポイントの制度縮小による反動減で家電など機械器具小売業は9.1%減少した。
1月は全国的に気温が低かったことから、鍋用具材や総菜のおでん、温かい飲み物などの販売が好調で、飲食料品小売業も3.3%増加した。
まず、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは鉱工業生産指数、下は水色が出荷指数と緑色が在庫指数です。いずれも2005年を100とする季節調整済みの指数で、影をつけた部分は景気後退期です。上の生産指数のグラフから、この1月統計は2008年9月のリーマン・ショック後の最大値をつけたことが読み取れます。
統計的には、季節調整済みの前月比と季節調整していない原系列の前年同月比と、何種類かのベースの異なる指標でやや混乱するんですが、先週2月23日付けのエントリーで取り上げた貿易統計の輸出が冴えない結果に終わったことと、それなりの整合性を保っています。しかし、どの程度まで輸出や投資や消費の最終需要に支えられた増産かは疑問が残ります。1月の輸出額は前年同月比で+1.4%しか伸びませんでした。輸出数量指数も同じベースで+2.3%増にとどまりました。また、上に引用したのと別の日経新聞の記事では、家電エコポイントの制度変更により液晶テレビの在庫が大幅に増加するなど、在庫指数の上昇幅は現行基準で比較可能な2003年1月以降で最大となった旨が報じられています。グラフはお示ししませんが、電子部品・デバイス工業の在庫も増加しています。言うまでもなく、増産しても在庫が積み上がっただけでは意味がないと受け止めるべきです。生産の現状だけでなく在庫の積上がりにも目を向けるべきです。あるいは、先行きの懸念材料になる可能性も排除できません。
上のグラフのうち、上の方のパネルは鉱工業生産指数のうちの資本財の出荷指数をプロットしています。季節調整済みの系列です。下のパネルは商業動態統計の小売業と卸売業の前年同月比伸び率をプロットしています。季節調整していない原系列の前年同月比です。影を付けた部分はいずれも景気後退期です。要素需要がサッパリ盛り上がらず、雇用とともに投資も伸び悩んでいて、投資財出荷はこのところ横ばいから減少気味で推移しています。また、商業統計でも B to B の卸売業はまずまずの売上げ増を示していますが、B to C の小売業はエコカー補助金やエコポイントなどの政策効果の剥落とともに息切れ気味であることが読み取れます。
多くのエコノミストの何となくのコンセンサスは、今年の景気は政策効果の剥落した消費ではなく輸出がけん引するというものです。輸出が生産を主導し、生産が雇用や設備に波及して景気回復・拡大のすそ野が広がります。しかし、その第1段目のロケットへの点火に疑問が示された統計であると私は受け止めています。消費のマイナスが輸出のプラスを上回って、私は1-3月期の実質GDP成長率をマイナスと予想していることを改めて表明しておきます。
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