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2011年2月28日 (月)

鉱工業生産指数の増産は最終需要に基づくものか?

本日、経済産業省から今年1月の鉱工業生産指数と商業動態統計の結果が発表されました。ヘッドラインとなる鉱工業生産指数の季節調整済み系列は、市場の事前コンセンサスの+4%増は下回りましたが、前月比で+2.4%の増産を示しました。また、製造工業予測調査によれば2月は+0.1%、3月は+1.9%のそれぞれ増産が見込まれています。他方、商業統計の小売業も前年同月比で+0.1%の増加でした。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産2.4%上昇 自動車・鉄鋼がけん引
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(速報、季節調整値、2005年=100)は97.1で、前月比で2.4%上昇した。上昇は3カ月連続で、自動車や鉄鋼など輸出がけん引役となった。2、3月も上昇を見込んでおり、経産省は基調判断を「持ち直し」に据え置いた。
1月の鉱工業生産指数は事前の市場予測の中央値(4.0%上昇)を下回った。業種別にみると、自動車など輸送機械工業が7.5%上昇。欧州やアジア向けの普通自動車が伸び、部品も回復した。5.6%増の鉄鋼業では、自動車向けの鋼材の生産が増加した。
一般機械工業も2カ月ぶりに上昇し、4.6%伸びた。欧州や台湾向けの半導体製造装置が26.4%増と好調だった。
ただ、昨年12月以降に家電エコポイント制度が縮小された影響で液晶テレビが落ち込んだこともあり、情報通信機械工業は9.0%減と2カ月ぶりにマイナスに転じた。
在庫指数は100.9と4.7%上昇し、上昇率が2005年基準で最高だった。液晶テレビの在庫が積み上がり、情報通信機械工業が40.7%増だった。出荷指数は96.9と1.1%増。1月は気温が低かったことから、石油ストーブの出荷が約2倍になった。
同日発表した製造工業生産予測調査は、2月が0.1%上昇、3月は1.9%上昇だった。予測指数通りなら1-3月期の鉱工業生産指数は前期比5.7%上昇の97.8になり、リーマンショック前の08年7-9月(104.6)以来の高水準になる見通しだ。
ただ、第一生命経済研究所の新家義貴主任エコノミストは鉱工業生産は輸出の影響を大きく受けているとしたうえで、「原油高が続けば米国やアジア経済の回復ペースが想定より鈍化する可能性がある」と指摘している。
小売業販売額2カ月ぶり増加 1月0.1%増
エコポイント反動、家電など9.1%減

経済産業省が28日発表した1月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は11兆1340億円で、前年同月比0.1%増加した。増加は2カ月ぶり。燃料小売業が原油高を背景に11.9%増えたのが主因だ。一方、家電エコポイントの制度縮小による反動減で家電など機械器具小売業は9.1%減少した。
1月は全国的に気温が低かったことから、鍋用具材や総菜のおでん、温かい飲み物などの販売が好調で、飲食料品小売業も3.3%増加した。

まず、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは鉱工業生産指数、下は水色が出荷指数と緑色が在庫指数です。いずれも2005年を100とする季節調整済みの指数で、影をつけた部分は景気後退期です。上の生産指数のグラフから、この1月統計は2008年9月のリーマン・ショック後の最大値をつけたことが読み取れます。

鉱工業生産指数の推移

統計的には、季節調整済みの前月比と季節調整していない原系列の前年同月比と、何種類かのベースの異なる指標でやや混乱するんですが、先週2月23日付けのエントリーで取り上げた貿易統計の輸出が冴えない結果に終わったことと、それなりの整合性を保っています。しかし、どの程度まで輸出や投資や消費の最終需要に支えられた増産かは疑問が残ります。1月の輸出額は前年同月比で+1.4%しか伸びませんでした。輸出数量指数も同じベースで+2.3%増にとどまりました。また、上に引用したのと別の日経新聞の記事では、家電エコポイントの制度変更により液晶テレビの在庫が大幅に増加するなど、在庫指数の上昇幅は現行基準で比較可能な2003年1月以降で最大となった旨が報じられています。グラフはお示ししませんが、電子部品・デバイス工業の在庫も増加しています。言うまでもなく、増産しても在庫が積み上がっただけでは意味がないと受け止めるべきです。生産の現状だけでなく在庫の積上がりにも目を向けるべきです。あるいは、先行きの懸念材料になる可能性も排除できません。

資本財出荷と商業統計の推移

上のグラフのうち、上の方のパネルは鉱工業生産指数のうちの資本財の出荷指数をプロットしています。季節調整済みの系列です。下のパネルは商業動態統計の小売業と卸売業の前年同月比伸び率をプロットしています。季節調整していない原系列の前年同月比です。影を付けた部分はいずれも景気後退期です。要素需要がサッパリ盛り上がらず、雇用とともに投資も伸び悩んでいて、投資財出荷はこのところ横ばいから減少気味で推移しています。また、商業統計でも B to B の卸売業はまずまずの売上げ増を示していますが、B to C の小売業はエコカー補助金やエコポイントなどの政策効果の剥落とともに息切れ気味であることが読み取れます。

多くのエコノミストの何となくのコンセンサスは、今年の景気は政策効果の剥落した消費ではなく輸出がけん引するというものです。輸出が生産を主導し、生産が雇用や設備に波及して景気回復・拡大のすそ野が広がります。しかし、その第1段目のロケットへの点火に疑問が示された統計であると私は受け止めています。消費のマイナスが輸出のプラスを上回って、私は1-3月期の実質GDP成長率をマイナスと予想していることを改めて表明しておきます。

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2011年2月27日 (日)

エリック・クラプトンのギターを聞く

Cream Royal Albert Hall Reunion Live

急に思い立って、エリック・クラプトンのギターが聞きたくなり、図書館で Cream Royal Albert Hall Reunion Live 2005 を借りて来ました。1968年に解散したクリームが2005年に再結成された時のライブ盤で、ジャケットは上の画像の通りです。ギターのクラプトン以外も、ベースのジャック・ブルースとドラムスのジンジャー・ベイカーの2人ですから、37年振りの再結成とはいえオリジナルメンバーです。この年齢になって聞くと、CrossroadsSpoonful などの昔ながらのブルースが耳に残ります。クラプトンを思い出したのは、言うまでもなく、某近隣国の後継者有力候補がシンガポールまでコンサートを聞きに行って写真に撮られた、との報道を見たからです。区立図書館に行けばCDは無料で貸してくれますし、もちろん、コンサートでもクラプトンのギターを聞ける国に生まれた幸せを感じます。
クラプトンやジミ・ヘンドリックスあたりからワウを入れた独特のブルース・ギターのスタイルが確立したように思いますが、このワウペダルはジャズでもマイルス・デイビスなどが使っていたりしました。いずれにせよ、私はジャズを聞きますので、ロックやブルースのギタリストはジャズ・ギタリストのものすごいテクニックにはかないません。晩年のウェス・モンゴメリーは少し違う方向に行きましたが、ジョー・パスやジム・ホールなどの流れるようなメロディラインと同列で比較するのは困難です。
クリームやその後のヨーロピアンなヘビーロック、例えば、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ピンク・フロイド、ジェフ・ベック・グループなどは米国のジミ・ヘンドリックスや、別の流れと私が考えているビートルスやローリング・ストーンズなどとともに、私よりも10年ほど早く生まれたベビーブーマーの世代、日本で言えば終戦直後生まれの団塊の世代のアイドルといえます。国内では、いわゆるグループ・サウンズの時代です。団塊の世代に比べて、これらの音楽を楽しむには私は少し遅れて生まれてしまったようです。
以下は、You Tube にアップされていた Crossroads を熱唱するクラプトンの動画です。2005年のロイヤル・アルバート・ホールでのクリーム再結成の際の録画である旨が表示されています。なぜか、表示はスペイン語です。

私のホームグラウンドはジャズですので、クラプトンのギターはやや皮下脂肪の張ったおなかに響く気がして、何となく、この後にエディ・ヒギンズのピアノで口直しならぬ、「耳直し」してしまいました。

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2011年2月26日 (土)

道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋) を読む

道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋)

道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋) を読みました。言うまでもありませんが、第144回直木賞受賞作品のひとつです。ほぼ常に芥川賞は注目していて、発表後の「文藝春秋」で選評とともに読むことを習慣にしている私ですが、直木賞についてはやや冷たい扱いをしています。もっとも、授賞の時点ですでに売れっ子作家だった東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』を最大の例外として、森絵都さんの『風に舞いあがるビニールシート』や松井今朝子さんの『吉原手引草』の読書感想文をブログにアップしたりして、また、ブログには何も書きませんでしたが、三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』をはじめ、いくつかの作品は買ったり借りたりして読んでいることも確かです。
さて、『月と蟹』は『容疑者Xの献身』とほぼ同様に、直木賞受賞の発表後に割合と間を置かずに買って読んだ双璧です。それだけ私自身の期待が高かったと言えます。そして、私の期待は裏切られませんでした。すばらしい出来の作品に仕上がっています。文句なく5ツ星です。小学校5-6年の上級生3人のみずみずしい感性を見事に表現しています。実は、私は道尾秀介さんが東野圭吾さんと同じくミステリ作家だと考えて買ったんですが、少なくともこの作品についてはまったくミステリではありません。しかし、ガリレオ・シリーズなどとと違ってミステリと呼べるかどうか疑問の残る『秘密』で東野圭吾さんがブレイクしたように、一流のミステリ作家はミステリ以外でも十分な力量を持っていることが改めて実証されたような気がします。以下、ネタバレがあるかもしれません。未読の方が読み進む場合は自己責任でお願いします。
主人公の利根慎一は2年前に父親の会社が倒産したので、鎌倉近くの父の実家に祖父と住むようになります。しかし、父親が癌で亡くなり、祖父と母親と3人の生活となりますが、地元の小学生にはなかなか受け入れられません。自然と、同じように関西方面から来て孤立している富永春也と2人で遊ぶようになり、ヤドカリを「神様」のように扱う遊びを始めます。そのうち、慎一の祖父が漁師をしていた時に、同じ船に乗って亡くなった研究者の母親を持つ葉山鳴海も加わります。慎一と春也がヤドカリを「ヤドカミ」さまと呼んで願い事をするんですが、お互いに「願い事」が叶うように取り計らいます。「お金が欲しい」と願った時に500円玉を落としておくとかです。このあたりの子供らしい気の配りようが、何とも、自然に描写されています。私くらいの年齢に達すると忘れてしまっているんですが、子供とはホントに純真無垢でも何でもなくて、子供なりに気を配って大人に合わせているんだということが思い出されました。その意味で、慎一の友人2人が終章で「大人になるのって、ほんと難しいよ」とか、「大人も、弱いもんやな」と言うのは、とっても心に残りました。

繰返しになりますが、素晴らしい出来の作品で、文句なしの5ツ星です。多くの方が手に取って読むことを願っています。道尾さんはすでにかなりの作品を出版していますので、私はこれからいろいろと読み進もうと考えています。取りあえずは、直木賞受賞後第1作の『カササギたちの四季』か、処女作のホラー作品『背の眼』あたりを考えています。

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2011年2月25日 (金)

デフレの続く消費者物価から農業保護を考える

本日、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI) が発表されました。全国の1月と東京都区部の2月の統計です。全国と東京都区部の生鮮食品を除くコアCPIはいずれもマイナスを続けていて、ハッキリ言って、変わり映えしません。全国のコアCPIは23か月連続の下落を記録しました。いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、1月は0.2%低下 灯油価格上昇で下げ幅縮小
総務省が25日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2005年=100)は変動の大きい生鮮食品を除くベースで99.0となり前年同月に比べて0.2%低下した。23カ月連続のマイナスだが、下落幅は前月に比べ0.2ポイント縮んだ。新興国での需要拡大などによる原油価格の上昇を受け、ガソリンや灯油の価格が上がった。
生鮮食品を含めた消費者物価の総合指数は前年同月比で横ばい。食料とエネルギー価格を除いた総合指数(欧米型コア)は0.6%のマイナスだった。日銀が発表した1月の国内企業物価指数は資源高により前年同月比1.6%上昇し、2年2カ月ぶりの上げ幅を記録したが、消費者物価にはそこまで大きく影響は及んでいない状況だ。
品目別では、ガソリンが前年同月と比べて8.2%、灯油が18.4%それぞれ上がった。一方で、値下げ競争が続く家電や耐久財の下落傾向は変わっておらず、薄型テレビは26.1%低下した。
物価の先行指数となる東京都区部の2月のCPI(中旬速報値)は、生鮮食品を除く総合指数が0.4%低下、食料とエネルギーを除いた総合指数は0.3%下がった。現時点では中東の政情不安による原油高騰の影響は小さいが、総務省は「流通価格にどの程度転嫁されるか注視していく必要がある」としている。

次に、いつものグラフは以下の通りです。折れ線グラフは青が全国コアCPI、赤が食料とエネルギーを除く全国コアコアCPI、グレーが東京都区部のコアCPIです。棒グラフは全国コアCPI上昇率に対する寄与度の内訳をエネルギー、食料とその他に分けて示しています。

消費者物価上昇率の推移

すでに、このブログの火曜日のエントリーにおいて、夏の基準改定を含めて今年いっぱいくらいの消費者物価の動向を簡単に見通しておきました。4月になれば昨年からの高校実質無償化の影響が一巡することから、中東の政情不安などを無視して、このまま消費者物価が推移すると大胆に仮定すれば、4月統計ではプラスのインフレ率が弾き出されるハズです。そして、夏の基準改定で再びインフレ率はマイナスに舞い戻り、たばこ値上げの影響が10月になって一巡すれば、さらにマイナス幅を拡大する可能性がある、というのが多くのエコノミストのコンセンサスではないかと私は受け止めています。この点は火曜日のエントリーの繰返しになりますので簡単に止めます。

日本と世界の食料価格上昇率

今夜のエントリーで着目するのは日本における食料価格上昇率です。上のグラフは総務省統計局による消費者物価指数のうちの生鮮食品を除く食料と FAO Food Price Index のそれぞれの前年同月比上昇率をプロットしています。いずれも最新データは2011年1月です。世界と日本の食料価格の動向を表しています。凡例にある通り、青が FAO Food Price Index で左軸、赤が日本の食糧物価で右軸に対応しており、どちらも単位はパーセントです。誰でも簡単に観察できる事実は以下の3点です。第1に、世界の食料価格の変動に対して日本は少しラグを伴って動いていることです。第2に、食料価格上昇率の振幅の幅が日本は世界よりも著しく小さいことです。第3に、昨年来の世界的な食料価格上昇の中にあって、日本だけは食料価格が下落を続けていることです。
第1の点のラグは当然あり得ることです。しかし、第2と第3の点から、食料生産産業の基となっている日本の農業はかなりの程度に世界から隔離されている実態が読み取れると私は考えています。今日のエントリーでは食料価格の変動率だけをデータとして取り上げていますが、食料価格の水準が国内と世界で大きく異なっていることは周知の事実です。データを示さずに一般的ないい方だけで申し訳ありませんが、日本国内では食料価格水準が世界よりも高く、価格変動が抑えられている、という二重の意味で日本の農業は保護されているといえます。いうまでもありませんが、その保護は市場ではなく政府が実行しており、もちろん、コストは消費者が負担しています。この4月のコムギ価格引上げのように、時折、消費者に転嫁されますが、基本は広く浅く消費者が負担しています。理論的に、市場にゆだねるよりも政府の介入の方が死荷重のコストがかかる可能性が示唆されていることは広く知られた通りです。

2月4日付けのエントリーで TPP を取り上げた際に、エコノミストも含めて誰も注目していないポイントながら、TPP による「平成の開国」の要諦のひとつは、「平成の開国」により損をする産業や地域から得をする部門へ雇用や資本などの生産要素を最適配置し直すことであると私は主張しています。今夜のエントリーでは、同じく TPP による「平成の開国」を視野に入れつつ、農業の保護の現状について食料価格上昇率から少し考えてみました。

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2011年2月24日 (木)

確定申告の e-tax はどうして普及しないのか?

私は昨年・今年と早めに確定申告を済ませています。今年もすでに終えていたりします。この2年ほど私は国税庁や税務署のホームページで源泉徴収票などを基にデータをインプットすれば、自動的に計算されてpdfファイルで印刷できるシステムを利用して税務署でプリントアウトした書類を提出していますが、e-tax は利用していませんでした。一部にはかなり前から、e-tax が普及しているようで、長崎大学経済学部で同僚だった財務省からの出向者なんかも利用していると聞いたことがあります。世間一般はどうなんだろうと考えていると、今週になって、楽天リサーチから「確定申告に関する調査」が発表されました。今夜のエントリーではこの調査から、e-tax だけでなく、いくつか私の興味を引いた結果を引用したいと思います。まず、自分自身で確定申告をしたことのある割合ですが、自営業(個人事業主)の方はもとより高くて、それ以外でも、一般的な会社員や公務員・団体職員、さらに、パート・アルバイトまで確定申告をしたことのある割合は50パーセントを超えており、全体を通して6割近くが経験ありとの結果となっています。私も多数派に入っていることが確認されました。

直近の確定申告の方法

次に、直近の確定申告の方法についての結果が上の表の通りです。税務署などの窓口での申告が自営業(個人事業主)の方の60パーセント超をはじめとして最も割合が高くなっており、ほぼ半分を占めます。圧倒的といえます。私もこれに該当します。他方、e-tax は公務員・団体職員の中の比率はやや高くなっていますが、全体では1割に満たない結果となっています。

e-taxを利用しない理由

e-tax を利用しない理由を聞いたのが上の結果です。上から3番目の「電子証明書の取得に手間がかかる」に該当するんだと思いますが、私は住民基本台帳(住基)カードを持っていない、というか、取得する気すらないのが最大の理由です。ICカードのリーダ・ライタについては、今どきのパソコンではUSB接続の外付け機器でなくても、例えば、私が長崎大学で使っていたVAIOはキーボードの端の方でFeliCaを読めるようになっていましたから、大きな問題はないように思いますが、そもそも、そのような機能があることを知らない人がいる可能性は否定できません。こういった点を反映して、楽天リサーチの調査結果のまとめでは、「今年も確定申告は窓口中心 デジタル化には、わかりやすいインフラ整備が必要」とされていますが、住基カードについてはその通りです。でも、国民総背番号制が導入されるとどうなるんでしょうか。とっても興味があります。

最後に、先日のブログでチラリと Moody's が日本のソブリン格付けのアウトルックを引き下げたことを書きましたが、昨日、国際通貨基金 (IMF) が先日フランスで開催されたG20に提出したリポートを公表しています。このリポートの p.11 パラ13で、日米両国は名指しで "Another downside risk stems from insufficient progress in developing medium-term fiscal consolidation plans in the United States and Japan." と財政再建の遅れを指摘されたりしています。確定申告とは何の関係もありませんが、ご参考まで。

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2011年2月23日 (水)

22か月ぶりに赤字を記録した貿易統計と28か月連続でマイナスを続ける企業向けサービス価格指数

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、日銀から企業向けサービス価格指数 (CSPI) が、それぞれ発表されました。貿易統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整前の原系列で見て前年同月比+1.4%増の4兆9714億円、輸入額は+12.4%増の5兆4428億円、差引き貿易収支は22か月振りに赤字を記録し、4714億円でした。企業向けサービス価格は前年同月比で▲1.1%の下落となり、2008年10月から28か月連続でマイナスを続けています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月貿易収支、1年10カ月ぶり赤字 原油高で輸入増
春節控え対中輸出手控え

財務省が23日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、貿易収支は1年10カ月ぶりに赤字に転じ、4714億円の赤字となった。原油高の影響などで輸入額が12.4%増の5兆4428億円と増勢が続いた。一方、輸出額は前年同月に比べ1.4%増の4兆9714億円にとどまった。14カ月連続のプラスを確保したものの伸び率は、前月に比べ大きく鈍化。2月上旬の春節(旧正月)の大型連休を前に、中国向け輸出が手控えられたことが響いた。
財務省は輸出について「中国やアジア経済は好調なため、元に戻る」と指摘。1月の鈍化は特殊要因の側面が強いとの見方を示した。新興国の需要増や投機マネーの流入で価格が上昇した原油の輸入は前年同月比で10.6%増加。円建ての1キロリットルあたりの単価が前月より5.8%上がった影響を受けた。
地域別の輸出動向をみると、中国などアジア向けが前年同月に比べ0.4%の増加にとどまった。鉄鋼や自動車は伸びたものの、中国向けの非鉄金属やプラスチックが落ち込んだ。2月上旬の春節前の出荷を見合わせた特殊要因もあると、財務省はみている。
欧州連合(EU)向けは前年同月比0.7%減で、3カ月ぶりにマイナスに転じた。ドイツ向けの半導体やオランダ向けのデジタルカメラなどが伸び悩んだ。一方で米国向けは6.0%の増加。鉄鋼や金属加工機械が好調だった。
1月企業向けサービス価格、28カ月連続マイナス
日銀が23日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2005年=100)は96.1となり、前年同月に比べて1.1%低下した。前年同月比でのマイナスは2年4カ月連続となり、指数も過去最低を更新したが、マイナス幅は前月(マイナス1.3%)から縮小した。
企業向けサービス価格指数は、企業間で取引されるサービス価格の水準を示す。項目別でみると「運輸」が0.8%低下した。需要拡大で前年に価格が上昇した反動やオーストラリアの洪水による石炭出荷の停滞などで外航貨物輸送が低下したことが響いた。
一方、新聞広告が2年11カ月ぶりに上昇し、「広告」が0.9%上昇。宿泊サービスが好調だったことなどから「諸サービス」の下落幅が縮小し、全体のマイナス幅の縮小に寄与した。強弱の材料が交錯しており、日銀は「一進一退の展開が続いている」(調査統計局)としている。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。いずれも毎月の輸出入とその差額たる貿易収支をプロットしているんですが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計、下は季節調整済みの系列です。縦軸の単位は兆円です。

貿易統計の推移

まず、貿易収支が赤字になったのは輸出の鈍化と原油価格の高騰などに伴う輸入の大幅増の輸出入両方の要因が作用しています。後者の商品市況の高騰はエジプトやリビアなどの地政学的な要因も含めて考えるべきなんでしょうが、私には地政学的な影響を考慮するだけの能力はありません。しかし、国内経済活動には何らかの輸入は不可欠である、というのが単純化した私のスタンスです。ですから、輸出の鈍化をどう見るかが重要になります。私のシナリオは、輸出は踊り場を脱却して伸びが加速しつつある段階にあり、その動きが昨年と同じ春節効果などによって一時的に停滞しているだけで、年央くらいまでに増勢を取り戻す、と基本的に考えています。もちろん、踊り場を脱していない、という見方をするエコノミストもいる可能性は排除しません。私と同じ前者の見方は1月統計が例外的に低い伸びを示した、と考える一方で、後者の見方は昨年12月統計が例外的に高い伸びを示しただけ、と考えるのかもしれません。

輸出数量と関連指標の推移

ということで、上のグラフでは輸出の先行きを考えるため、いくつかの関連指標を輸出数量指数、あるいは、輸出数量指数の伸びと重ねてプロットしてみました。上のパネルは輸出数量指数と米国 ISM 指数で、下は輸出数量指数の前年同月比伸び率と OECD 先行指標の同じく前年同月比伸び率を取っています。ただし、OECD 先行指標の前年同月比は3か月のリードを取っています。これも少し見方が分かれるんですが、米国 ISM 指数はかなり強気の見方を示している一方で、OECD 先行指標は前年同月比で見る限り今少し低い伸び率が続きそうです。もっとも、OECD 先行指標も足元の動きは回復ないし拡大に向かいつつありますから、繰返しになりますが、年央くらいまでに輸出は増勢を取り戻す可能性が高いと私は受け止めています。

企業向けサービス価格指数の推移

最後に、企業向けサービス価格指数 (CSPI) の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。企業物価指数 (CGPI) と重ねてプロットしてあります。財価格の方が商品市況などに押されて上昇を始めた一方で、需給ギャップにより敏感と考えられているサービス価格はマイナスを続けています。日銀の公式見解の通り、「一進一退」なのかもしれません。

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2011年2月22日 (火)

今夏の基準改定による消費者物価上昇率の下方改定幅はどれくらいか?

今週金曜日に消費者物価の1月全国と2月東京都区部が発表されますが、広く知られた通り、消費者物価は昨年2010年の家計調査のウェイト、より正確にはその中の10000分の1以上の支出比を持つ品目に従って、今夏に基準改定されます。この基準改定の影響は、品目入替えに伴う変更の他、いわゆるリセット効果とウェイト効果などが世間で取り上げられています。先月から今月にかけて、ウェイトの基となる家計調査の2010年平均が公表されたこともあり、いくつかのシンクタンクなどから消費者物価の基準改定に伴う下方修正の幅についてリポートが出ています。他にもあるのかもしれませんが、ネット上にオープンに公表されている範囲で私が見たのは以下の通りです。

5年前の基準改定の際は、日銀筋も含めて基準改定による下方修正の幅は大きくなく、特に2000年基準改定の時の下方修正幅よりも小さく、なぜか、▲0.2%ポイント台ではないかというコンセンサスが出来上がってしまい、結局、基準改定直前の2006年7月にゼロ金利を解除したところ、8月に基準改定したマイナスの消費者物価上昇率が発表されて、いわゆる「CPIショック」を生じてしまった記憶が生々しく残っています。統計局を統括する総務大臣がその時は竹中大臣だったように覚えています。
それでは、消費者物価の基準改定の影響はどこから現れるかというと、第1にリセット効果です。すなわち、特に、価格が安くなった、すなわち、指数水準が下がった品目について、指数の絶対値が100に戻される効果です。例えば、薄型テレビやデスクトップPCなどの指数は2005年基準で2010年12月には20を割る水準になっていますが、これが100に戻るわけですから、例えば、さらに何パーセントか下がった時に全体の指数に与える影響度が増すことになります。逆に、価格が高くなった、すなわち、旧基準で指数水準が膨らんだ品目の影響度は減じます。第2に、ウェイト効果です。経済学では、通常は右上がりの供給曲線が右下がりの場合を考えなくもないんですが、需要曲線は必ず右下がりです。すなわち、他の条件にして同じであれば、価格が低下すると需要量は増加します。逆は逆です。ですから、流行り廃りを含めた消費者の嗜好の変化や品質などの他の条件を別にして価格だけを考えれば、一般的に、基準改定の間の5年間で価格が下がったものはウェイトが増加している場合が多くなります。やっぱり、逆は逆です。この2つの効果とも消費者物価指数上昇率を下方にシフトさせる要因となることは容易に想像できます。もっとも、より正しくいうと、ラスパイレス指数の上方バイアスを修正する、と表現した方が適切かもしれません。このリセット効果とウェイト効果のほかに、品目入替えによる効果やモデル式変更の効果などが加わります。品目入替えの効果はほぼウェイト効果と同様に作用すると考えて差し支えありません。ただし、ウェイトやモデル品目の計算方法などの詳細は7月に公表される予定です。
ですから、消費者物価指数の基準年を改定すると、基本的に、物価上昇率は下方に修正されます。このため、大いに注意しておくべきポイントは、現在の基準のままで4月に消費者物価上昇率がプラスをつけた後、夏の基準改定で再びマイナスに舞い戻る可能性が極めて高くなっている点です。総務省統計局の発表に従えば、昨年4月からの高校授業料の実質無償化は消費者物価上昇率への寄与度▲0.5%を超えますが、これが今年4月にはゼロに戻ります。ですから、4月には消費者物価上昇率は前年同月比でプラスをつける可能性が高くなっています。しかし、今夜取り上げた試算では夏の基準改定による下方修正幅はこれを超えるとの見方が中心です。さらに、昨年10月のたばこ値上げの寄与度+0.3%ほども10月にはゼロに戻り、すなわち、消費者物価上昇率を▲0.3%ほど押し下げる要因として働きます。従って、春先の物価を評価するには足元だけでなく物価を取り巻く夏以降の制度要因を頭に入れておく必要があります。もっといえば、4月から3-4か月ほどの間にプラスの物価上昇を記録しただけで、カギカッコ付きの「デフレ脱却」と考えるエコノミストはいないと私は受け止めています。

GDPギャップの推移

上のグラフは昨日発表された内閣府の今週の指標No.981「国内需要デフレーターのマイナス幅は前期より縮小」の図6から引用したGDPギャップの推移です。決して需給ギャップと物価がドンピシャで連動すると私が考えているわけではありませんし、中東の政情不安に端を発するエネルギー価格の上昇は考慮する必要があるものの、このグラフを見る限り、まだまだデフレ脱却には時間がかかりそうだということを認識すべきです。

最後に、消費者物価指数と直接の関係はありませんが、日経新聞のサイトなどで、Moody's が日本のソブリン格付 Aa2 の見通しを stable から negative に変更したと報道されています。私も Moody's のプレスリリースを確認しました。本格的な格下げの前触れと受け止めるべきでしょう。1月27日に、Standard & Poor's が日本のソブリンを AA から AA- に格下げしたばかりで、1月28日のエントリーで IMF のリポートとともに取り上げましたので、今日のところは事実だけで済ませます。

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2011年2月21日 (月)

労働力調査2010年詳細集計から何が読み取れるか?

本日、総務省統計局から失業率などの労働力調査の2010年平均の詳細集計の発表がありました。特に、2010年中に何かの構造変化が生じたとは私は考えていませんが、雇用を重視するエコノミストとして、簡単に取り上げておきたいと思います。ただし、都道府県別集計は3月1日になるようなので、取りあえず、今日のところは全国集計のみとなります。また、詳細集計は主として正規・非正規に着目されますが、失業期間やミスマッチの理由も集計されており、また、今夜のエントリーでは総務省統計局から発表されている基本集計と詳細集計だけでなく、厚生労働省による職業安定業務統計なども含めて2010年の雇用について論じたいと考えています。

完全失業者数の推移

まず、上のグラフは基本集計から完全失業者数の推移、加えて、詳細集計から1年以上の期間に渡って失業状態にある失業者数です。緑色の棒グラフで示した完全失業者数については、バブル経済末期の1990年に完全失業者134万人をつけた後、急速に失業が増加し、2002年には359万人に達しました。その後、「実感なき」景気拡大なんぞといわれつつも、5年間で100万人の失業者が減少し、2007年には257万人を記録しました。しかし、2009年には軽く300万人を超え、2010年は前年比でわずかに2万人減少しただけでした。また、赤い折れ線は完全失業者のうち、失業期間が1年を超えた失業者数を示しており、失業者の中でも長期に渡って失業状態にある失業者が徐々に多くなっています。特に、昨年2010年は2009年に比べて失業者総数はわずかながら減少しているにもかかわらず、失業期間1年超の失業者数はグンと増えています。グラフは示しませんが、別のデータでは失業が1年を超えてしまえば、そのまま2年に達するケースが多数を占めることが示されています。

正規・非正規比率の推移

続いて、上のグラフは労働力調査の詳細集計でもっとも注目される雇用の正規・非正規の割合です。久し振りに2009年は前年に比較して正規比率が高まったんですが、ひょっとしたら、「雇い止め」や「派遣切り」の影響だったのかもしれません。私は基本的には雇用の流動化を進めるべきとの意見を持っていますが、非正規を増加させるのではなく、正規職員の余りに固定化された雇用の流動化が必要だと考えています。

ミスマッチの理由

さらに、詳細集計から「仕事につけない理由」として集計されている就職の際のミスマッチの要因は上の円グラフの通りです。もっとも比率の高いのが仕事内容に関するミスマッチで30%を超えます。その次の年齢条件は想像しやすいもので、求人側は若い人材を募集しても中高年が応募するという構図なのかもしれません。でも、もっとも深刻なのは「条件ナシ」にもかかわらず就職できない失業者がいることで、しかも、無視できない比率を占めています。

UV曲線とフィリップス曲線

最後に、労働力調査と一般職業紹介統計及び消費者物価を重ね合わせたグラフを2枚示すと上の通りです。上のパネルはいわゆるUV曲線、下はフィリップス曲線です。いずれも1980年から2010年の年データをプロットしており、失業率は雇用失業率、すなわち、自営業者を除外して、失業者数を失業者と雇用者の和で除して求めた比率を用いています。上のUV曲線は赤い上矢印の1980年から下矢印の2010年まで、徐々に外側にシフトして来ていたんですが、2006-07年ころからやや左下にシフトしたような印象もあります。また、フィリップス曲線は左矢印の1980年から右矢印の2010年まで、細かなシフトが観察されないわけではないんですが、ほぼ安定した位置にあると見えなくもありません。虚心坦懐に見る限り、失業率が4%を下回る水準に達しなければ、我が国は安定したプラスのインフレ率を望めないのではないかという気になってしまいます。

菅総理大臣は就任直後に「1に雇用、2に雇用、3に雇用」と雇用重視の姿勢を見せて、私も大いに期待したんですが、今日の朝日新聞や毎日新聞の朝刊に報じられた内閣支持率を見る限り、別の方面でお忙しいのかもしれません。私なりとも雇用を重視するエコノミストとして、細々とデータの解説に努めたいと思います。

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2011年2月20日 (日)

伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川書店) を読む

伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川書店)

昨年9月の発売からかなり時間がたって、ファンとしては遅れ気味なんですが、ようやく、伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』を読みました。伊坂幸太郎さんの3年振りの書下ろし長編とうたわれています。実は、私が買ったのが昨年2010年の10月でしたから、我が家のおにいちゃんが先に読んでいるとはいっても、かなりホッタラカシにしたことは確かです。なお、本書はミステリに分類されるんでしょうが、以下はネタバレを含む可能性があります。本書を未読の方が読み進む場合は自己責任でお願いします。
まず、この『マリアビートル』は『グラスホッパー』の続編です。といっても、伊坂さんの作品の中でいえば、「陽気なギャング」の2作ほどはストーリーの連続性もありませんし、登場人物も一致していません。まあ、『魔王』と『モダンタイムス』くらいの関係と考えておけばいいんではないでしょうか。でも、節の切れ目でハンコが現れるのは『グラスホッパー』と『マリアビートル』に共通しています。まず、登場人物ですが、上の画像にリンクさせた角川書店のサイトにある通り、木村雄一、蜜柑と檸檬の果物、王子慧、天道虫のハンコの七尾です。加えて、『グラスホッパー』の槿もハンコで登場します。七尾の相棒、というか、上司の連絡係が真莉亜ですから、最終的に誰が生き残るかはタイトルから明らかです。なお、理由は分かりませんが、角川書店のサイトでは「真梨亜」となっているんですが、本の中では「真莉亜」です。念のため。それから、その業界の有名人は『グラスホッパー』では寺原だったんですが、『マリアビートル』では峰岸になっています。なお、『グラスホッパー』の鈴木は塾の教師役で登場します。

伊坂幸太郎さんの直筆メッセージ

上の画像の伊坂さんの直筆メッセージにもある通り、舞台は新幹線の中です。京都に生まれ育って東京で暮らす私であれば、「新幹線」といえば文句なく東海道新幹線なんですが、伊坂さんの場合はもちろん東北新幹線です。主として、東京を発って盛岡に着くまでの物語です。新幹線に乗っている木村、果物、王子、天道虫、を中心に、新幹線に乗っていない槿も別の場所で物語に参加し、また、途中から新幹線に乗り込んだ木村雄一の両親も加えて物語が展開します。なぜか、『グラスホッパー』の鈴木も新幹線の中に出て来ます。最後の最後に、実は真莉亜も新幹線に乗っていたことが判明します。

ラストの終わり方は伊坂さんらしい倫理観を表現していると私は受け止めています。「遵法精神あふれる」東野圭吾さん的な終わり方とは違った意味で読後感はさわやかです。多くの方にオススメします。

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2011年2月19日 (土)

世相を映すサラリーマン川柳

一昨日の2月17日、第一生命から第24回サラリーマン川柳の優秀100句が発表されました。応募作品は26,686句に上ったそうです。発表日から3月16日まで1か月の間、投票を受け付けています。合計10,000名にプレゼントが当たるそうなので、早速、私も投票しておきました。
当然ながら、サラリーマン川柳、略して「サラ川」は今の世相を反映しています。エコノミストとしては、景気の状態、深刻なデフレ、上がらないお給料などを読み取っています。他方、出来のいい川柳がなかっただけかもしれませんが、案外とエコカーや家電エコポイントの話題は少ないように感じています。ということで、今日の記事も極めて手抜きで、第一生命のサラリーマン川柳のサイトからそのまま引用して、以下のテーブルの通りです。基本はルビまで含めてそのままなんですが、微細な修正は加えてあります。すなわち、英数字は全角ではなく半角にしましたし、横書きですので漢数字はアラビア数字に直しました。

作品NO雅号
1ボーナスは メガネかけても 飛び出さず3D頼り夫
2父さんの 機密費すでに 底をつくてる坊
3クレームも 社員じゃわからん パート出せサラ川小町
4ノー残業 妻のストレス 増加中イクメン38
5そびえ立つ 妻は我が家の スカイツリーやなぎびと
6コンビニで 整いました 母の味どや顔ママ
7持ってない ととのえられない 我が会社七色とうがらし
8命かけ 税金払う 喫煙人独楽
9体重計 乗るたび「ゲゲゲ」な 我が女房ゲゲゲの亭主
10最近は ケータイ無いと 字が書けず生徒会長
11指舐めて ページをめくる アイパッド化石パパ
12上がらない 給料・職名 右の肩五十肩
13イクメンと 乗せられ今や 家事すべて専業主夫
14老人会 65才は パシリ役徒歩歩
15初孫の 笑顔にまたも 拝観料聖聖(せいせい)
16月給日 「ゲゲゲ」と女房 肩落とす一見(いっけん)
17アルコール カロリー、ボーナス オールゼロ苦汁100パーセント
18何になる? 子供の答えは 正社員氷河期
19おれだって 束ねてみたい 髪と部下老婆の休日
20晩婚化 婚活最後は 髪頼みアガペー
21(かね)かけて 整いました 妻の顔ざらリーマン
22子育てが やっと終わって 次は親孝行息子
23いつかやる きっとやるぞと もう定年やる気びと
24日本海 どこからどこまで 日本かい万歳老人
25おこらすな ママのいかりは パパにくるベスパパ
26ときめきは 四十路(よそじ)過ぎると 不整脈ミセス ハツコ
27夢託し 息子に遼と 名前付けニャン太
28風呂の順 2番じゃダメかと 追い出されまめまろ
29救助まだ? 不況のトンネル 出口なしフェニックス
30見栄で買い 使いこなせぬ 哀フォンだハイテクおじさん
31天職を 求めて転職 今無職虹色詩人
32マイホーム 持ったがないぞ マイルーム夢追い人
33ランチ代 牛丼価格に 値下げされみそ汁付かない
34ご飯いる? 家にいるのに メール来るおふくろの味
35物忘れ 増えて良くなる 夫婦仲シルバーパス
36久しぶりー 名が出ないまま じゃあまたねーシーゲ
37大風呂敷 広げる部長 畳むオレ五十音
38我が家でも 影の総理が 幅利かす湘南鳶
39龍馬より 諭吉に妻は ご執心小野竹裏
40B級も A級知らねば 極上品永久グルメ
41部下からの 遅刻のメール 渋滞なうコバヤ氏
42相撲にも この技無いよね 丸投げは美瑠句堂
43単身で 増える出費に 減る愛情元愛煙家
44また買って しまって忘れて また買って黄味子
45我が人生 付けてあげたい カーナビを先行不明人
46わが額 領土を主張 頭上まで漁船
47居酒屋を パワースポットと 言う課長張り子の(にゃん)
48朝帰り 我が身は戦場 カメラマン飲み会最前線
49「パパ嫌い」 だけどお前は パパ似だよしののん
50「好きにして」 昔肯定 今否定千年愛
51上司より 頼れる使える スマートフォンただの平社員
521000円が 惜しくて渋滞 抜け出せず悟空
53はじめてだ 保険でなれた 株主に説明不要
54リモコンを 向けても下がらぬ 妻の声エコ減声
55アラフォーが “女子会です”と 胸を張る乙女心
56お見合いの 決め手になった 正社員読み人知らず
57小学生 夢見る職は 「正社員」クラーク博士
58妻の愚痴 ブブゼラよりも 耳障り洗濯パパ
59タバコくさっ!! やめても娘が オヤジくさっ!!アカちゃん
60うちの父 ジョギングしながら 医者に行くあい あむ フラッグだ
61家内には 行かせたくない パワースポット濡れ落葉
62日々、会議 必要なのか 日々、懐疑異議者
63エコとケチ 主役で変わる その呼び名セコの達人
64エコエコと たまるポイント へる貯蓄お役人
65あやつれぬ ネット・携帯 妻・子供ダメ亭主
66息子より 妻にかけたい 教育費白玉蜜豆
67立ち呑みの 立つ位置にまで 序列あり愛太鼓
68人員が 「ととのいました」と 解雇されエビ坊
69居酒屋で 開く女子会 ブブゼラ級ノイズマン
70ママゴトで 帰りが早いと ぼやく女児その父
71節約で 裏紙使い 紙つまる西尾 太郎
72小遣いを ()()()と下げる 我が女房目玉おやじ
73言葉より 別れの予感 絵文字なし幸子
74我が家でも 領土問題 「あなた邪魔」阪神大雅ぁーす
75「落ち」がない なぞかけ喜ぶ 受験生いぬっち
76ツイッター 私が言っても ひとりごとフォロワーなし
77我が孫に トイレの神様 聞かす祖母泣き笑い
78ローン組む 200歳まで いいですかご長寿
79ちょっといい? 軽い言葉に 重い罠リーダー
80気を付けよう 夜廻り火廻り 腹廻り八の八
81帰り路 ナビがしゃべって ヨメ寝てるアッシーパパ
82ドラフトで 選んでみたい 我が上司読み人知らず
83脚線美 昔欧米 今韓流中年時代
84これ(うま)い そんなに褒めるな レトルトだぐうたら妻
85リストラで 妻より料理 うまくなる京魚
86怒るなよ 「怒ってない」と 怒る妻花いちもんめ
87誉め言葉 初めて聞いた 送別会蘭々
88ツイッター 本音書くには 文字不足サラ川素人
89ママたのむ 遼や一郎 産んでくれ火消し野郎
90使う人 腹が出てても スマートフォン中間被管理職
91肝心な 話はお願い 日本語で社内公用語
92妻からの 視線にほしい 温暖化南 あきら
93帰れま10(テン) 仕事の終わりが 見えま10事務家ペーパー
94山GIRL? 妻はお腹に 山がある妻はぽっちゃり53歳
95一緒だね 僕は卒園 パパ卒煙嫌煙妻
96デトックス 言う妻体型 デラックスネクタイよれよれ
97命名を 佑樹か遼と 悩む親なでしこ
98あればいい パワースポット 職場にもたかりん山
99クラス会 あのマドンナが デラックスさごじょう
100役員の ブログで知った 社のピンチしーぱっぱ

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2011年2月18日 (金)

春休みからゴールデンウィークにかけての子供向け映画のレビュー

久し振りに、春休みからゴールデンウィークにかけての子供向け映画のレビューをしたいと思います。ほとんどの内容は、順不同で Yahoo!映画の「話題の作品」からの引用です。悪しからず。なお、Yahoo!映画を調べていて気になったので検索をかけてみましたが、「ケロロ軍曹」の劇場版はヒットしませんでした。かなり前からテレビ東京で放映されている土曜日のアニメが15分番組になって、しかも、この3月いっぱいで放送打切りと聞いています。映画の方も、昨年2010年の「超劇場版ケロロ軍曹 誕生! 究極ケロロ 奇跡の時空島であります!!」で終わったみたいです。ちょっぴり残念です。

  • 映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 - はばたけ 天使たち -
    1986年に公開された、ドラえもんの映画シリーズの中でも人気の高い作品の一つ『ドラえもん のび太と鉄人兵団』をリメイクしたアニメーション作品。オリジナル作品にさらに新しいキャラクターが加わり、地球人を奴隷にしようとやって来たロボットたちに対し、ドラえもんやのび太たちが力を合わせて戦いを繰り広げます。新シリーズの声優陣に加えて、メカトピア星の鉄人兵団を指揮する総司令官の声でタレントの加藤浩次が参加。テレビアニメでは観られない壮大で感動的な物語を目に焼き付けたいところです。
    ストーリーは、北極からロボットの足と謎の青い球体を持ち帰ったのび太。すると、のび太の家の庭に空からロボットの部品が降ってきました。「鏡面世界」を使って巨大ロボット "ザンダクロス" を完成させたドラえもんとのび太でしたが、ロボットの持ち主の少女リルルが登場。何と、ザンダクロスとリルルはロボットの星メカトピアからやって来たのだった、というものです。
  • クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦
    子どものみならず大人にも評判の大人気アニメ「クレヨンしんちゃん」シリーズの、劇場版第19弾。スパイになった野原しんのすけが変装や潜入捜査に挑戦し、前代未聞のミッションで繰り広げる活躍をギャグ満載で描きます。監督は、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』などで絵コンテを担当し、本作で長編映画デビューを飾る増井壮一。謎に包まれたミッションと共に、秘密が生まれてしまった野原一家の行方にも注目。
    ストーリーは、国籍不明の少女レモンが届けたアクション仮面からのメッセージによって、アクションスパイとなったしんのすけ。レモンの指導のもと、スパイとしての特訓を積むことに。変装や潜入、秘密道具といったスパイの訓練に夢中になる中、しんのすけに前代未聞のミッションが下される、というものです。
  • 少年マイロの火星冒険記 3D
    文明が発達した火星を舞台に、母親を連れ去られてしまった少年マイロが体験する冒険を最新のVFXでダイナミックに描き出すSFアニメ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのロバート・ゼメキスが製作にあたり、監督は『タイムマシン』のサイモン・ウェルズが務めます。少年マイロの声を『オースティン・パワーズ』シリーズのセス・グリーンが担当。まるで本当に宇宙旅行をしているかのような奥行きを感じさせるリアルな3D映像に引き込まれます。
    ストーリーは、母親とケンカばかりの9歳の少年マイロ。ところがある日、その母親が何者かにさらわれる事件が発生。マイロは母親を夢中で追い掛けるうちに、ロケットに飛び乗ってしまいます。ロケットが到着したのは、高度な文明と技術の発展を遂げた火星。マイロは母親を救うため、火星の地に一歩を踏み出す、というものです。
  • 名探偵コナン 沈黙の15分 (クォーター)
    コミック版とテレビアニメ版共に、無類の人気を誇る青山剛昌原作の「名探偵コナン」シリーズ劇場版15周年記念作品。地下鉄トンネル爆破事件と雪原での死体発見事件とのつながりを究明するため、コナンが巧みな推理を展開する。『名探偵コナン 銀翼の奇術師 (マジシャン)』から劇場版シリーズの監督を務めた山本泰一郎が総監督となり、『真救世主伝説 北斗の拳 トキ伝』の静野孔文が監督を務めます。劇場版ならではのスケールのアクションと謎解きサスペンス、さらには悲しい人間ドラマを絡めたエンターテインメント作品から片時も目が離せません。
    ストーリーは、都知事あてに脅迫状が届き、都営新地下鉄のトンネル爆破事故が起こる。コナンの推理で奇跡的に被害者を出すことは免れました。都知事が国土交通大臣時代に建設したダムの関係者が怪しいとにらんだコナンは、一路新潟県へと向かいます。すると、ダム移設5周年の記念式典でにぎわう村の雪原で、死因不明の遺体が発見され……、というものです。
  • ナルニア国物語/第3章: アスラン王と魔法の島
    C.S.ルイスの児童文学を映画化したファンタジー・アドベンチャー、『ナルニア国物語』シリーズの第3章。親せきの家に預けられたペべンシー兄妹が帆船の絵の中に吸い込まれ、再びナルニア国へと冒険に出ます。『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』のマイケル・アプテッドが監督を務め、前作に登場したカスピアン王子役のベン・バーンズが続投。魔法使いやクリーチャーたちと遭遇しながら、運命に立ち向かう兄妹の成長劇が見ものです。
    ストーリーは、ペべンシー兄妹は大嫌いな従兄のユースチスの家に預けられるが、壁に掛かった帆船ドーン・トレダー号の絵の中に吸い込まれ、再びナルニアの国へ。兄妹は、親友のカスピアン王子(ベン・バーンズ)とネズミ戦士のリープチープと再会を果たし、ナルニアの東の果てへと再び冒険の旅に出ることになるが、行く手にはさまざまな困難が待ち受けていた、というものです。

名探偵コナン 沈黙の15分 (クォーター) ポスター

我が家では子供達の意向に沿ってゴールデンウィークに「名探偵コナン」の映画を見るんではないかと私は想像しています。上の画像はそのポスターです。週末前の金曜日らしい手抜きの記事でした。

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2011年2月17日 (木)

食料価格の上昇の経済的帰結やいかに?

昨日の読売新聞夕刊の1面トップ記事を占めた世銀ゼーリック総裁へのインタビューの中で食料価格が大きくクローズアップされていましたが、今夜のエントリーでは世界的な商品市況の高騰に伴う、というか、その主要なコンポーネントをなしている食料価格の上昇に焦点を当てたいと思います。もっとも、その原因については日本の猛暑をはじめとする世界的な天候不順と資金の商品市況への流入ということで軽く済ませておいて、世銀が開設した Food Crisis というサイトからの情報を引きつつ、この食料価格上昇の経済的な帰結について重点的に取り上げたいと思います。昨夜の労働者送金に比べて、この食料価格のトピックよりはかなり世間的に注目を集めているものの、我が国ではまだまだ危機感は高くないと私は受け止めています。まず、世銀が出した Food Price Watch というリポートから、世界の食料品価格の推移を示すグラフを引用すると以下の通りです。食料価格指数というと FAO Food Price Index が有名なんですが、世銀でも算出しているようです。

World Bank Food Price Index

2003-04年ころからジワジワと上昇を始めた食料価格は、2008年夏にかけて、原油価格がWTIでバレル当たり140ドルを超えたことに象徴される商品市況の高騰の中で大きく上昇した後、2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券の破綻と世界経済の Great Recession 入りのために他のコモディティとともに急速に下げましたが、昨年年央から再び上げ足を速めています。穀物はまだ2008年年央の水準に達していませんが、食料全体としての価格水準はほぼこの水準に達しました。この食料価格上昇を途上国への影響と新興国への影響に大雑把に分けて考えると、以下の通りです。
まず、この食料価格高騰は途上国の国民生活を直撃しています。世銀のリポートによれば、昨年2010年後半6月から12月の間にコムギの国際価格が75パーセント、コメが同じく17パーセント値上がりしました。国内価格は基本的に国際価格の変化率に為替の変化率を乗じた比率で上下すると考えられますが、もちろん、関税などを含めて各種の国境措置もあって単純ではありません。しかし、例えば、コメを主食とするアジアではカロリー摂取量でコメに大きく依存する国が少なくありません。カンボディアでは65パーセント、ベトナムでは59パーセント、インドネシアでも50パーセントのカロリー摂取をコメに頼っています。アゼルバイジャン、タジキスタンなどは同様に過半のカロリー摂取をコムギに依存しています。途上国では先進国と比較していわゆるエンゲル係数が高く、消費に占める食料支出の割合が高いわけですから、このまま食料価格が高騰を続ければ、実質購買力が大きく引き下げられる可能性が高まっています。また、経済的な購買力の問題に止まらず、食料摂取の面から国民生活が危機に瀕する途上国が出る可能性も無視できません。

Food Inflation in China

続いて、いわゆる途上国から一歩なりとも経済開発の進んだ新興国では、食料価格の高騰が別の経済的な問題を引き起こしつつあります。すなわち、インフレです。上のグラフも同じく世銀のリポートから引用していますが、中国の食料価格上昇が2ケタに達しているのが見て取れます。景気回復がや遅れている先進国と違って、新興国では活発な経済活動により完全雇用に近い状態にある国も少なくなく、この食料価格の高騰が賃金上昇につながれば、単なる相対価格の変化に止まらず、我が国の1970年代前半の第1次石油危機の時のようなホームメード・インフレーションに転化する可能性が高まります。また、これを防止するために強力な引締め政策を実行すれば、景気回復・拡大が終了・反転して、景気後退局面に陥る可能性も無視できません。ご参考までですが、食料価格の上昇に対する金融政策の対応について、DSGE モデルを使ったシミュレーションを行って分析したペーパーが昨年12月にNBERワーキングペーパーとして出ています。食料価格の上昇により、輸入国で交易条件が悪化して実質為替レートが増価するなど、にわかには理解しがたい結果も含めて、詳しくは以下のリファレンスをどうぞ。

いずれにせよ、エネルギー価格の上昇は工学的な技術の進歩によって、いわゆる省エネが進んで需要が減少、あるいは増加を抑制できる可能性が大いにありますが、食料については人間が食用に供する限り、需要を抑制・減少させるには限界があります。供給側で増産を図る必要があるわけです。私は食料問題についてはなはだ専門外ながら、長期的にはそんなに根拠のない楽観論に立っているものの、短期的には世界経済に何らかの混乱をもたらす可能性を忘れるべきではありません。

昨日今日と私の興味分野で途上国や新興国に関する経済問題について、国際機関のリポートや学術的なペーパーなどを引用しつつ取り上げてみました。まだまだ日本国内での認知度や危機意識は高くありませんが、今年の世界経済を考える場合には重要なポイントとなる可能性を指摘しておきたいと思います。

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2011年2月16日 (水)

途上国への本国送金 remittances は経済発展に役立つか?

とってもマイナーなトピックなんですが、2月14-15日に国際連合貿易開発会議 UNCTAD 主催で Maximizing the Development Impact of Remittances なる専門家会合が開催されていて、同名のリポートが発表されています。おそらく、世間的には2月16-18日に同じく UNCTAD 主催で開催されている Contribution of Foreign Direct Investment to the Transfer and Diffusion of Technology and Know-how for Sustainable Development in Developing Countries, Especially Least Developed Countries と題する直接投資に関する専門家会合の方が注目されるんではないかと思いますが、昨年の今ごろ、長崎大学経済学部の『東南アジア研究所年報』という紀要に "An Essay on Remittances Effects to Economic Development: A Survey" なるサーベイ・ペーパーを私は書いており、本国送金 remittances が発展途上国の経済開発に役立つかどうかは興味あるところでしたので、余りに専門的にならない範囲で簡単に取り上げておきたいと思います。

本国送金の推移

どうして本国送金 remittances に着目するかというと、特に今世紀に入ってから爆発的に増加していることが一因です。上のグラフの通りで、リーマン・ショック直後の2009年こそ前年比で減少しましたが、その後は増加基調を取り戻しています。なお、出典は2009年までは世銀の World Development Indicators から、また、2010年は推定 estimate で、2011-12年は予測 forecast ですが、2010-12年のいずれも世銀が発行しているMigration and Development Brief No.13 の p.14 Table 1 から、それぞれ引用して私の方で勝手につなぎ合わせています。また、今夜のエントリーで remittances を「本国送金」とか、場合によっては、workers' remittances で「労働者送金」と訳すこともありますが、これら remittances の定義は国際通貨基金 (IMF) が国際収支統計のマニュアルとして各国に示している Sixth Edition of the IMF's Balance of Payments and International Investment Position ManualAppendix 5 や IMF から2009年に出ている International Transactions in Remittances Guide for Compilers and Users に詳しいので割愛します。でも、要するに、外国に働きに行った労働者がその所得からいくばくかを本国に残した家族や親戚縁者などに仕送りとして送金するというものですから、経済学的に何らかの難しい定義があるわけではなく、国際化の進んだ現代社会の普通の感覚で受け止めても大きな問題はありません。

Top 10 recipients of remittances during 2008

UNCTAD のリポートに戻って、上の表は p.11 Table 4 を引用しています。2008年中の送金を受けた国々の中で、左側が額で多い国トップテン、右側はGDP比が高い国のトップテンです。経済規模の小さい途上国ではGDP比で20パーセントを上回る額の送金を受けている例もめずらしくないことが見て取れます。
この本国送金の経済開発へのインパクト、特に貧困削減への効果について、UNCTAD のリポートは肯定的に評価していて、送金には貧困削減を促進する効果があったとする実証分析結果を引用したり、送金をより安定的で予知可能性を高いものとするための政策的な提言などもしていたりします。しかし、同時に、本国送金は消費的支出に用いられやすく、資本蓄積に大きな貢献はない、との結論も導いています。
私自身が最近の論文をサーベイした結果では、送金が途上国の経済発展や成長に寄与するかどうかは微妙だと結論しています。一般的には、外国から使途の自由なキャッシュが入ってくるわけですから、例えば、GDPの拡大に直接的につながると考えることは自然に見えます。しかし、考慮すべきポイントが2つほどあって、第1に、いわゆる「頭脳流出」の問題、第2に、「オランダ病」の問題が避けて通れません。まず、「頭脳流出」については、たとえ本国に送金してくれるとしても、その裏側では海外に出て働く人材がいるわけで、しかも、これらの海外に出る人材は語学力はもとより生産性全般が高い場合が多く、本国送金を受け取る、すなわち、労働者を海外に送り出す国の経済にはマイナスの効果がある可能性が指摘されています。直観的には、優秀な人材を送り出した国でマイナスの経済効果、迎え入れた国でプラスとなり、世界経済全体ではプラスとなると考えるのが自然なんでしょうが、いずれにせよ、送金を受ける、逆から見れば、人材を送り出した国の単独の経済効果はマイナスになる可能性があります。次に、「オランダ病」については、あらゆる意味で巨額の外貨が流入するわけですから通貨の増価が生じ外資の受入れと輸出にダメージをもたらすことは容易に理解できます。昔のラテン・アメリカにおけるプレビッシュ流の経済開発モデルが否定されてから久しく、国際化の進んだ現在ではアジア流の外資を受け入れて海外の需要を輸出という形で取り込む経済発展モデルが理論的にも経験的にも優位を示していることは明白です。この観点から、外資の流入と輸出を阻害しかねない通貨の増価をもたらす本国送金はどこまで歓迎すべきであるかは疑問が残ります。結果として、最近の実証研究では本国送金と経済成長の間に有意な関係を見出せないとの結論が多くなっているように私には見受けられます。実は、私自身も共同研究者といっしょにパネルデータを使って実証してみましたが、本国送金は必ずしも投資の促進に対して統計的に有意な効果を示しませんでした。また、そのためにペーパーをボツにされたりしています。

メディアも含めて、世間的には何の注目もされていない会議であり、リポートなんですが、ヨソさまのフラッシュに直リンすることともに、国際機関のリポートに着目するのは、私のこのブログのひとつの特徴です。管理人自身の興味に引き付けて簡単に取り上げておきました。最後に、送金の裏側には、短期一時的なものであって、永住ではないとしても、「移民」受入れ immigration の問題があります。私はそれなりに「移民」に関する政策について考えないでもないんですが、今夜のところは長くなったこともありパスしておきます。

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2011年2月15日 (火)

OECD 先行指標に見る日米の踊り場脱出と中印の景気停滞

昨日、経済協力開発機構 (OECD) から昨年2010年12月の先行指標 (OECD/CLI) が発表されました。まず、リポートの最初の3パラを引用すると以下の通りです。

OECD composite leading indicators point to continued expansion
Composite leading indicators (CLIs) for December 2010, designed to anticipate turning points in economic activity relative to trend, continue to point to expansion in most major OECD countries.
The CLIs for Germany, Japan and the United States point to relatively robust expansion relative to trend, while in Canada, France and the United Kingdom the CLIs point to continued moderate expansion. There are nevertheless signs of a downturn emerging in Italy.
New data for China point to a downturn, reversing the tentative signs of regained growth momentum reported in last month’s assessment. With three of its seven components pointing upward the outlook remains volatile. The CLI for India is pointing towards a slowdown. In Russia, the CLI continues to point to an expansion, while Brazil is expected to continue to perform close to its long-term trend.

次に、最近の国別の OECD/CLI の推移を主要国についてプロットしたのが以下のグラフです。なお、影を付けた期間は景気後退期なんですが、景気転換点は各国政府や米国でいえば NBER に当たる機関が同定したものではなく、OECD の同定によります。OECD の同定による景気転換点に関する詳細な情報は OECD Composite Leading Indicators: Reference Turning Points and Component Series のサイトにあります。

OECD 先行指標の推移

リポートの引用やグラフを見ても一目瞭然なんですが、日米は "Expansion"、ユーロ圏16か国ベースの欧州は "Stable" と基調判断されています。日米が踊り場を脱却しつつある一方で、欧州はまだ本格的な景気回復局面には復帰しておらず、逆に、中印は景気下降局面にあるんではないかとすら見えます。OECD では中国は "Downturn"、インドは "Slowdown" と評価しています。報道によれば、中国では本日発表の1月の消費者物価上昇率が4.9%に一段と跳ね上がり、引き締め基調の政策運営によりさらに景気は鈍化する可能性が高まっています。インドも基本的に景気過熱から引締め政策を取り、いわばインフレから景気の鈍化を招いている構図は共通しています。もちろん、中印だけでなく多くの新興国にも同じことがいえます。

昨年の新興国に依存した世界景気の回復から、徐々に先進国に主役が交代しつつあるのかもしれません。世界経済をより以上に注意深くウォッチする必要がありそうです。

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2011年2月14日 (月)

マイナス成長を記録した2010年10-12月期GDP統計1次QEは過去の数字か?

本日、内閣府から昨年2010年10-12月期のGDP速報、エコノミストの業界で1次QEと呼ばれている重要な経済指標が公表されました。季節調整済みの実質GDPで見て前期比成長率は▲0.3%減、前期比年率で▲1.1%のマイナス成長を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP1.1%減 10-12月実質、個人消費がマイナス
内閣府が14日発表した2010年10-12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.3%減、年率換算で1.1%減となった。5四半期ぶりにマイナス成長に転じた。エコカー補助金の終了やたばこ増税を前にした駆け込み需要の反動で、個人消費が2期ぶりに減少。輸出も落ち込んだ。ただ、足元では設備投資や輸出が上向いており、1-3月期はプラス成長に転じる公算が大きい。
前期比年率でみた昨年10-12月期の実質成長率は、日経グループのQUICKがまとめた民間予測の中央値(2.1%減)を上回った。生活実感に近い名目成長率は0.6%減、年率換算では2.5%減で、2期ぶりにマイナスに転じた。
マイナス成長の主因は内需の落ち込みだ。前期比0.3%の減少率のうち、内需が0.2ポイント分を占めた。
GDPの6割近くを占める個人消費は前期比0.7%減と7-9月期の0.9%増からマイナスに転じた。たばこ増税前の駆け込み需要の反動減で非耐久財が実質ベースで3.6%減った。耐久財では、エコカー補助金終了の影響で自動車が落ち込んだが、12月の家電エコポイント制度の特典縮小を前にした薄型テレビの駆け込み需要の押し上げ効果でほぼ相殺された。
設備投資は前期比0.9%増と、5期連続のプラス。住宅投資は前期の1.8%増から3.0%増に拡大した。石油化学製品や飲料などの在庫が増え、民間在庫も実質成長率を0.2ポイント押し上げた。一方、公共投資は、民主党政権の公共事業削減が響き、5.8%減となった。
リーマン・ショック以降の景気回復を支えてきた外需は成長率を0.1ポイント押し下げ、2期連続でマイナスの寄与となった。輸出は自動車の販売不振や半導体関連の世界的な在庫調整の遅れが響き、前期比0.7%減。8期ぶりにマイナスとなった。輸入は0.1%減だった。
総合的な物価の動向を示すGDPデフレーターは前年同期を1.6%下回り、5期連続でマイナスとなった。物価が持続的に下落するデフレがなお続いている。

次に、いつものGDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者所得を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2009/
10-12
2010/
1-3
2010/
4-6
2010/
7-9
2010/
10-12
国内総生産GDP+1.8+1.5+0.5+0.8▲0.3
民間消費+1.0+0.5▲0.0+0.9▲0.7
民間住宅▲4.0+1.6▲0.3+1.3-8+3.0
民間設備+1.4+0.7+2.9+1.5+0.9
民間在庫 *+0.0+0.6▲0.1+0.3+0.2
公的需要+1.2▲0.5+0.1▲0.2▲0.7
内需寄与度 *+1.0+1.0+0.3+1.0▲0.2
外需寄与度 *+0.8+0.5+0.3▲0.1▲0.1
輸出+6.4+6.6+5.3+1.5▲0.7
輸入+1.0+3.0+4.0+2.9▲0.1
国内総所得GDI+1.6+1.1▲0.0+0.8▲0.2
名目GDP+0.9+1.7▲0.6+0.6▲0.6
雇用者報酬+0.4+1.4+0.5+0.4▲0.2
GDPデフレータ▲2.4▲2.8▲1.9▲2.1▲1.6
内需デフレータ▲2.4▲1.4▲0.9▲1.4▲1.0

さらに、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10-12月期の最新データでは赤い棒グラフの民間消費や黄色の公的需要がマイナスの寄与を示していることが読み取れます。

GDP

2010年10-12月期がマイナス成長となった要因は報道の通り、個人消費の落ち込みと世界景気に起因する輸出の不振、さらに、公的需要が「コンクリートから人へ」の政権交代により着実に減少しているためです。住宅投資や設備投資は上向いて来ています。また、市場の事前コンセンサスほどマイナス幅が大きくなかった原因は、第1に在庫投資、第2に過去の系列が下方修正されたことです。しかしながら、在庫投資がプラスに寄与したのは決して肯定的に評価すべきではなく、むしろ、売残りが積み上がった結果と受け取るべきでしょう。そして、この10-12月期のGDP統計は過去の数字と受け止められています。どうしてかというと、多くのエコノミストが今年1-3月期にはプラス成長に復帰すると見込んでいるからです。私は少数派であり、控え目に言っても、1-3月期もマイナス成長が2四半期連続で続いても驚かない、と見通しています。先行きの成長率を考えるためのグラフを2枚書きました。以下の通りです。上のパネルは経済企画協会が2月10日に発表したESPフォーキャストの成長率に関する結果です。青の折れ線が今日発表分を含めた成長率の実績で、赤はエコノミスト各氏の2012年度いっぱいまでの成長率見通しの平均値です。下のパネルは名目と実質の公的固定資本形成の最近の四半期パターンです。季節調整していない原系列の計数で単位は兆円です。

GDP

先行きを考えると、エコノミストのコンセンサスとして1-3月期はリバウンドしてプラス成長を記録し、その後、着実に2%前後の実質成長率を続ける、というのがメイン・シナリオとなっているように見受けられます。それに対して、少数派の私は1-3月期もマイナス成長の可能性が十分あると見込んでいます。理由は第1に消費のマイナス寄与が大きくて輸出を上回る可能性が高いこと、第2に公的固定資本形成、すなわち、公共投資が1-3月期に拡大するというパターンは政権交代の後は崩れている可能性があること、第3に在庫投資がマイナスになる可能性が高いこと、を想定しています。第1に、消費と輸出の綱引きについては、私が現時点で消費を主として見ているエコノミストであることに起因しているかもしれません。輸出に注目しているエコノミストであれば逆の予想をしそうな気もします。第2に、公共投資については、上のグラフから読み取れるように、10-12月期に大きく増加して1-3月期もやや縮小しながらも高い水準を続けるというパターンが従来から見受けられます。典型的な公共投資の契約と執行の四半期パターンであるという気がします。しかし、政権交代の後はこのパターンが崩れて来ている可能性があると私は受け止めています。もしそうだと仮定すれば、1-3月期に公共投資の執行が従来より少なくて成長率にマイナスの寄与をする可能性も忘れるべきではありません。第3に、10-12月期に売残りの在庫投資がプラスの寄与をしたと私は考えていますので、1-3月期にこの在庫が調整される可能性を無視すべきではありません。1-3月期の在庫はマイナス寄与となる可能性が高いと考えるべきです。しかし、もう少し考えを進めて、1-3月期がたとえマイナス成長になったとしても、その主たる要因が在庫であり、逆から見れば、最終需要でプラスの寄与があれば、決して悲観する必要はありません。少なくとも、2四半期連続のマイナス成長により暫定的に景気後退と考える必要はまったくありません。年央には本格的な景気回復経路に復帰する可能性が高いことについては、私も多くのエコノミストと同様にメイン・シナリオと考えています。

最後に、デフレータはマイナス幅を縮小しながらもデフレが続いています。まだまだ需給ギャップは2%を超えるマイナスだという気がしますから当然といえば当然です。デフレギャップ解消までまだ時間がかかりそうです。最後の最後に、2010年の年次GDPで測って、中国と日本のどちらがより経済的な規模が大きいかについて、私はまったく興味がありません。

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バレンタインデーの成果

バレンタインデーの成果

今日は久し振りの平日のバレンタインデーです。下の子が小学校でチョコレートを大量にもらって来ました。写真の通りです。おにいちゃんは男子ばっかりの中学校ですが、下の子は普通の区立の小学校なので女子もいっぱいいます。担任の先生も女性ではなかったかと記憶しています。

どうでもいいことなんですが、「記念日の日記」に分類しておきます。

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2011年2月13日 (日)

SNS は国産 mixi か、国際標準 Facebook か?

Facebook と mixi のロゴ

ソーシャル・メディア・ネットワーク、いわゆる SNS については、昨年の Time 今年の人に Facebook のザッカーバーグ CEO が選ばれて、また、ご本人の半生が映画化されたりして、世界標準では Facebook 一色になった気がします。かつては、MySpace なんてのもあったりしましたが、どうなってしまったんでしょうか。音楽やエンタメに特化したんでしょうか。もちろん、Facebook は日本でも大いに注目されており、ネット調査大手のマクロミルから「Facebook ユーザ500人 利用実態調査」などのアンケート調査結果も出たりしています。

SNS 利用者内訳

他方、上の画像は少し前の東京新聞のサイトで見かけて引用しているんですが、日本国内ではまだまだ国産の mixi の方が Facebook よりも利用実績が高い実態がうかがえます。Facebook は Gree をようやく追い抜いたところだったりします。なお、東京新聞のコラムでは「実名のリスク」に重点を置いているような気がしないでもないんですが、ハッキリいって的外れです。mixi も原則は実名です。我が国のメディアのレベルの低さ、アサッテの方向を向いた感覚を垣間見た気がします。

私は Facebook と mixi のどちらも、ついでに、Gree も登録してあるんですが、サイトを訪れるのは週に1回くらいです。特に、Facebook は去年の暮くらいまでログインするごとに長崎大学経済学部で計量経済学を担当している准教授の見慣れた顔写真が「知り合いかも?」のところに出て来ていたりしました。どうでもいいことですが、今年度下期はサバティカルでカリフォルニアにご滞在のような記憶があります。

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2011年2月12日 (土)

新宿ピカデリーに「白夜行」を見に行く

「白夜行」ポスター

東京では昨日の雪が朝まで残り、午後からは別のみぞれ混じりの雨が降り出しました。3連休中日の今日は少しお出かけして、新宿ピカデリーに「白夜行」を見に行きました。東野圭吾さんの原作は代表作のひとつといえましょう。『白夜行』と『幻夜』は連作と考えられなくもありません。しかし、私の理論からいうと、有楽町マリオンで上映されないのはまだ一流と認められていないことにつながります。
「白夜行」の映画の感想はかなり原作に忠実の一言に尽きます。いい点も悪い点もこれに尽きます。ですから、まずいい点としては原作にかなり忠実で原作を読んで映画を見ようと考えた私のような読者には東野ワールドが見事に展開されていると映ります。文字で読んだのが映像になっているわけです。他方、悪い点としては、大部な小説を2時間半の映画にするために部分的に端折ってあります。ですから、原作もTBSのドラマも見ていない人にはツラい可能性があります。なお、以下はネタバレの可能性がありますので自己責任で読み進むようご注意ください。
2点だけ原作と異同があって失敗だったと私が見なしているのは、第1に、舞台の地域性です。原作は大阪だったんですが、映画では埼玉に設定してあります。関東でも雪穂のようなタイプの女性がいないとは思いませんが、京都とは言わずとも関西の方に分があるような気がします。第2に、雪穂は篠塚一成と結婚してしまいます。ですから、雪穂の正体を見抜く人間が笹塚刑事1人になってしまい、その意味でのいわば「負担」が大きくなって登場が頻繁になるとともに、篠塚一成のキャラがどうしようもなくヘンに見えるような気がしました。最後に、原作との異同ではないんですが、私が違和感を感じたのはラストの笹塚刑事の謎解きを回想する子供時代のシーンで、亮司が父親を殺した際には泣きわめきながら現場から逃げて、血で染まった両手を洗う場面があった一方で、雪穂の母親を殺す場面では2人の子供が完全に計画的な殺人を実行しているような雰囲気を醸し出していました。原作でどう書いてあったか忘れましたが、両方がここまで違うと違和感がありますし、私はどちらも計画的な犯行だったとした方が迫力があるように感じてしまいました。

私が『白夜行』のシリーズ第2作と見なしている『幻夜』は、深田恭子さん主演により WOWOW でドラマ化されたらしいんですが、この『幻夜』の映画化とともに、『白夜行』の雪穂と『幻夜』の美冬に続く3部作の完結編を東野圭吾ファンとして心待ちにしています。

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2011年2月11日 (金)

芥川賞受賞作品を読む

昨日発売の「文藝春秋」3月号を買いました。もちろん、第144回芥川賞を授賞された朝吹真理子さんの「きことわ」と西村賢太さんの「苦役列車」を選評とともに読むためです。久し振りに買った気がします。というのも、前回の143回芥川賞の赤染晶子さんの「乙女の密告」は「文藝春秋」に掲載される前に「新潮」で読んでしまいましたし、さらにその前の第142回は該当者なしでしたから、「文藝春秋」を買うのは1年半振りということになります。今日の東京は雪の舞う1日で気温も上がらず、この受賞作品を一気に読むにはとっても好都合な天候だった気がします。
今回は芥川賞だけでなく、直木賞も2人に授賞されたんですが、芥川賞については対照的な作者であるような報道がなされています。すなわち、朝吹さんの父は詩人で仏文学者の朝吹亮二さん、大叔母はフランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」などの翻訳で知られる朝吹登水子さんで、いわばカギカッコ付きの「サラブレッド」である一方で、「文藝春秋」のインタビューでも「『中卒・逮捕歴あり』こそわが財産」とうそぶく西村さんは定職についたことのない私小説作家、という感じです。私は希少性と比較優位を分析するエコノミストですから、芸術家として売り物になるのは何でも売ればいいと思っていますので、特にお二人が対照的というわけでもなく、他人と違う面をお持ちで経済社会の中で特異な分業を担当しているのは当然と受け止めています。
しかも、私が読んだ感想として、2作品ともに最近数年間の芥川賞の中でも優れた作品であろうと感じています。「きことわ」は2人の女性の時間をテーマにし、プロットという意味での構成力はともかく、描写力や表現力に秀でた純文学らしい作品です。「苦役列車」もありがちな私小説のストーリーを、嫌味になるわけでもなく卑下するでもなく淡々と描き切っています。いずれも作家として優れた力量を示したといえます。しかも、もちろん、偶然なんでしょうが、両作品に共通して、1980年代半ばを重要な舞台のひとつに選んでいるのを興味深く感じました。もうひとつ共通しているのは、私の目から見てタイトルをもっと何とか出来なかったのか、という気がします。選者の池沢夏樹さんなんかは2人の女性の名前を並べた「きことわ」というタイトルを「巧妙で、耳に心地よく響く」と絶賛していますが、私は同意できません。もう少し内容をうかがわせるタイトルにして欲しい気がします。「苦役列車」も同様で、なぜタイトルに「列車」が入るのか、私にはまったく理解できません。私の専門分野の経済学の論文を査読に出せば、タイトルが論文の内容をよく反映しているかどうかも審査されます。文学作品ですから、こういった視点は欠如しているのかもしれませんが、何とかならないのかという気がします。

選ばれた2作とも文学的にとっても高水準で、芥川賞受賞作品という期待を裏切りません。今回は選評の方はイマイチだった気がしないでもありませんが、教養ある読書人を自称するのであれば、これらの作品は読んでおきたいところではないでしょうか。

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2011年2月10日 (木)

要素需要の盛上りに欠ける機械受注と商品市況に押されて上昇する企業物価

本日、内閣府から12月の機械受注統計が、また、日銀から1月の企業物価が、それぞれ発表されました。機械受注のヘッドラインとなる船舶と電力を除く民需、すなわち、GDPベースの設備投資の先行指標となる系列は季節調整済みの前月比で+1.7%増の7353億円と、4か月ぶりの増加を示しました。しかし、市場の事前コンセンサスはここ3か月ほどのマイナスからのリバウンドを期待して、ほぼ+5%増だったものですから、プラスながらもやや低い印象を持ってしまいます。また、企業物価のうちの国内物価は前年同月比で+1.6%の上昇と、4か月連続の上昇で、しかも、海外の商品市況の高騰を受けてジワジワと上げ幅を拡大しています。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注1.7%増 12月、民間設備投資伸びる
内閣府が10日発表した2010年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比1.7%増の7353億円で、4カ月ぶりの増加だった。
12月の市場予想の平均は5.3%増(日経QUICKニュース社調べ)だった。
うち製造業は1.9%減、非製造業は3.9%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は1.6%減だった。
内閣府は基調判断を「持ち直し傾向にあるものの、非製造業で弱い動きがみられる」に据え置いた。
1-3月期は前期比2.7%増の見通し。
同時に発表した10年の受注額は前年比4.6%増の8兆8667億円だった。増加は4年ぶり。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
1月の国内企業物価、前年比1.6%上昇 資源価格上昇で
日銀が10日発表した1月の国内企業物価指数(速報値、2005年=100)は103.9で、前年同月に比べ1.6%上昇した。上昇は4カ月連続で、上げ幅は08年11月(2.4%)以来、2年2カ月ぶりの大きさだった。アジアの需要増や世界的な天候不順を背景に資源価格が上昇したことが主因。
企業物価指数は製品の出荷や卸売りの段階で企業同士が取引する製品の価格水準を示す。
項目別にみると、石油・石炭製品が11.3%上昇。鉄鋼が11.6%、非鉄金属が7.6%上がった。一方、電子機器関連は下落が続いており、情報通信機器が5.0%、電子部品・デバイスが4.1%、電気機器が3.4%それぞれ低下した。
調査対象の855品目のうち、価格が下落した品目数の割合は43.2%。上昇した品目数の割合37.5%をなお上回っている。

次に、機械受注のグラフは以下の通りです。一番上のパネルは、船舶と電力を除く民需のコア機械受注とその後方6か月移動平均、加えて、コア機械受注からさらに携帯電話を除いたコアコア機械受注の推移です。折れ線グラフの色分けは凡例の通りです。真ん中のパネルは、外需、製造業、非製造業の需要者別の機械受注です。なお、非製造業から船舶と電力は除いてあります。一番下のパネルはコア機械受注の達成率の推移をプロットしてあります。

機械受注の推移

機械受注は評価の難しい段階に達したような気がします。プラスであることを前向きに評価し踊り場からの脱却のサインと受け止めるべきなのか、ここ数か月の落ち込みからのリバウンドとしてはまだまだ弱いと見るべきなのか、正直なところ少し迷わないでもありません。私はどちらかというと後者の評価です。雇用も考え合わせて設備などの要素需要が本格的に上向くにはもう少し時間がかかると見込んでいます。逆から見れば、依然として機械受注は踊り場からは脱却していないと考えるべきです。特に、新興国などへの輸出増の恩恵を受ける製造業と違って、国内需要、特に消費が伸び悩む影響をモロに受ける非製造業が足を引っ張っています。

企業物価の推移

企業物価は上のグラフの通りです。いずれも季節調整していない原系列の前年同月比上昇率です。上のパネルは国内輸出入及びサービス物価、下は需要段階別に素原材料・中間財・最終財のそれぞれの物価上昇率をプロットしています。ヘッドラインとなる国内企業物価がジワジワと上げ足を速めているのは、ひとつには海外における商品市況の高騰ですが、もうひとつには消費者物価と同じように基準年から離れるに従ってプラスの計測誤差が大きくなっている可能性も排除できません。ラスパイレス指数なんですから上方バイアスはあります。どのメディアも、エコノミストの誰も指摘していませんが、一応、頭の片隅には入れておくべきです。消費者物価 (CPI) は基準年から1年遅れで今夏に基準改定される予定ですが、私の記憶が正しければ、企業物価 (CGPI) の改定は基準年から3-4年遅れますし、サービス価格指数 (CSPI) はさらに1年遅れます。久し振りに最終財の前年同月比上昇率がプラスになりましたが、計測誤差の範囲を超えない可能性がありますので注意すべきです。

最後に機械受注に戻って、雇用や設備などの要素需要が本格的に回復するためには、企業家におけるアニマル・スピリットが欠けているのかもしれません。私はアカロフ教授とシラー教授の共著になる同名の本を読んだ記憶がありますが、理解ははかばかしくなかったように記憶しています。いずれにせよ、4月になって法人税率が引き下げられると何が起こるのか、雇用や設備の本格的な回復の時期と重なる可能性がありますから大きな興味を持って観察したいと思います。

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2011年2月 9日 (水)

来週発表される2010年10-12月期GDPのマイナス成長の後はどうなるのか?

内閣府による来週月曜日2月14日の発表を前に、GDP統計1次速報に必要な経済指標がほぼ出尽くし、各シンクタンクや金融機関などから2010年10-12月期の1次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。可能な範囲で今年1-3月期以降に関する見方を取ったつもりです。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面か別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.2%
(▲0.8%)
①エコカー補助金終了に伴う自動車の押し下げ影響の弱まり、②新興国需要の堅調、などの点を踏まえれば、1-3月期は再びプラス成長となる見込み
みずほ総研▲0.7%
(▲2.6%)
11-3月期は、自動車販売減の影響が薄れる個人消費がプラスに転じるほか、米中経済の堅調やIT関連財の在庫調整進展を背景に輸出も持ち直し、小幅のプラス成長に戻るとみられる
ニッセイ基礎研▲0.4%
(▲1.7%)
2011年1-3月期は、海外経済の回復を背景とした輸出の増加や、自動車、たばこの反動減一巡に伴う民間消費の持ち直しなどから、再びプラス成長となることが予想される
第一生命経済研▲0.6%
(▲2.5%)
2010年10-12月期の大幅マイナス成長は、あくまで過去の統計として認識されるとみられ、マイナス幅の大きさの割には悪材料視されない可能性が高そう
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+▲0.5%
(▲1.9%)
乗用車販売や輸出は持ち直しており、11年1-3月期はプラス成長の公算大
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.8%
(▲3.1%)
5四半期ぶりにマイナス成長
三菱総研▲0.4%
(▲1.4%)
5四半期ぶりのマイナス成長であるが、政策効果等に引き上げられた高成長の反動という面が大きく、景気の「後退」を意味するものではない
みずほ証券リサーチ&コンサルティング▲0.8%
(▲3.0%)
1-3月期には再びプラス成長に転じる可能性が高い
伊藤忠商事▲0.5%
(▲2.1%)
輸出反転のプラス寄与を個人消費の落ち込みが上回り、日本経済は1-3月期もマイナス成長を余儀なくされる可能性が高い。良くてゼロ成長だろう

要するに、各機関とも昨年2010年10-12月期はマイナス成長であったと断じています。ほとんどのエコノミストのコンセンサスであろうと私は受け止めています。そして、これまた多くのエコノミストに共通して、今年2011年1-3月期は輸出増などに支えられたプラス成長を見込んでいます。しかし、私と同じで唯一マイナス成長を見込むのが伊藤忠商事です。1-3月期は現時点で半分も過ぎておらず、決定的な判断はつきかねますが、私は2四半期連続でマイナス成長の確率の方が高いと予想しています。理由は個人消費のマイナス寄与が輸出を上回るからですが、私はこれに加えて公共投資がこの1-3月期の時期にその昔ほど出ない構造に変化してしまったこともマイナス成長の根拠のひとつとして上げられると考えています。

いずれにせよ、第一生命経済研究所のヘッドラインにある通り、10-12月期はマイナス成長ですが、発表された瞬間に「過去の数字」の扱いとなります。ホントに今年1-3月期の成長率がプラスなのかどうかは興味あるところです。私は直観的にマイナスと踏んでいますが、今後の推移を見守りたいと思います。

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2011年2月 8日 (火)

海外で稼ぐ姿を象徴する経常収支と先行き強気を示す景気ウォッチャー調査

今日は、午前中に財務省から経常収支などを含む12月の国際収支が、また、午後には内閣府から1月の景気ウォッチャー調査結果が、それぞれ発表されました。まず、統計のヘッドラインを短く報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

12月の経常黒字、前年同月比30.5%増の1兆1953億円
財務省が8日発表した2010年12月の経常黒字(速報)は、前年同月比30.5%増の1兆1953億円だった。
貿易・サービス収支は6817億円の黒字で、32.1%増加。うち貿易収支は7688億円の黒字で23.2%増加。サービス収支は871億円の赤字(前年同月は1079億円の赤字)だった。所得収支は5817億円の黒字で、21.6%増加した。
同時に発表した10年の経常黒字は前年に比べ28.5%増の17兆801億円で、3年ぶりに前年の水準を上回った。
1月の街角景気、3カ月ぶり悪化
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景気実感を示す現状判断指数は44.3となり、前月比0.8ポイント低下(悪化)した。悪化は3カ月ぶり。
基調判断は「景気は、このところ持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。

続いて、経常収支の推移は以下のグラフの通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移で、積み上げられた棒グラフはこの内訳となっています。色分けは凡例の通りです。左軸の単位は兆円です。国内需要が伸び悩む中で日本企業が海外で稼ぐ姿が貿易収支や投資収益収支などに象徴的に現れています。

経常収支の推移

次に、景気ウォッチャー調査の結果は以下のグラフの通りです。赤い折れ線グラフが現状判断DI、水色が先行き判断DIです。引用した記事では現状判断DIが3か月ぶりに悪化したことが強調されていますが、実は、先行き判断DIは大きく改善していたりします。当然ながら、直近の実績を見ても先行き判断DIが現状判断DIに先行していますので、国民一般のマインドは年央かその少し前くらいからの本格的な景気回復軌道への復帰を見据えているような気がします。

景気ウォッチャー調査の推移

私は初売りがよかった印象があったので、1月の景気ウォッチャー調査は改善すると予想していたんですが、やや意外な結果となりました。でも、先行きがまだまだ強気なので安心しています。ジワジワと東証株価が上げているのも本格的な景気回復を示唆しているのかもしれません。

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2011年2月 7日 (月)

踊り場の脱却を示唆する景気動向指数

本日午後、内閣府から12月の景気動向指数が発表されました。ヘッドラインとなるDI一致指数は前月比+0.7ポイント上昇して103.1と2か月連続で改善しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、2カ月連続上昇 基調判断は据え置き
内閣府が7日発表した2010年12月の景気動向指数(CI、2005年=100、速報)によると、景気の現状を示す一致指数は前月比0.7ポイント上昇の103.1と2カ月連続で改善した。
鉱工業の生産財出荷指数や生産指数、製造業の残業時間が増加するなど生産関連指数が改善したことが寄与した。一方で、小売業の商業販売額は家電エコポイント制度の変更が響き低下した。基調判断は3カ月連続で「足踏みを示している」とした。
数カ月後の景気の先行きを示す先行指数は0.8ポイント上昇の101.4と2カ月連続で改善。中小企業の売上見通しが改善し、生産の増加で鉱工業の生産財在庫率が低下した。景気に数カ月遅れる遅行指数は、1.3ポイント上昇の89.1だった。
3指数とも上昇したのは10年6月以来6カ月ぶり。ただ、消費関連の指数は家電エコポイントの駆け込み需要の反動減が響き、先行・一致・遅行指数いずれでも低下した。生産がプラスに寄与した動きも含め「今後続くのかどうか見極めたい」(内閣府)としている。

続いて、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数、下はDI一致指数です。いずれも影を付けた部分は景気後退期です。

景気動向指数の推移

2か月連続で上昇し、個別系列である鉱工業生産指数なども含めて、日本経済が踊り場を脱した可能性が示唆されていると私は受け止めています。もっとも、景気動向指数による景気判断はしっかりした基準があり、過去7か月の後方移動平均で符号が変化するかどうかが判断基準ですから、何となくの雰囲気で基調判断を変更するわけにはいきません。しかし、方向性は踊り場から大いに変化したと考えるべきです。少なくとも、年央かその少し前くらいに景気回復局面に復帰する経路に乗っかったような気がしているエコノミストは私だけではないと思います。

基調判断定義基準
改善景気拡張の可能性が高いことを示す。原則として3か月以上連続して、3か月後方移動平均が上昇した場合。
足踏み景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す。3か月後方移動平均の符号が変化し、1か月、2か月、または3か月の累積で1標準偏差分以上逆方向に振れた場合。
局面変化事後的に判定される景気の山・谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す。7か月後方移動平均の符号が変化し、1か月、2か月、または3か月の累積で1標準偏差分以上逆方向に振れた場合。
悪化景気後退の可能性が高いことを示す。原則として3か月以上連続して、3か月後方移動平均が下降した場合。
下げ止まり景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高いことを示す。3か月後方移動平均の符号が変化し、1か月、2か月、または3か月の累積で1標準偏差分以上逆方向に振れた場合。

上の表は景気判断の定義と基準です。内閣府のサイトから引用しています。

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2011年2月 6日 (日)

東京に戻ってからの6か月におけるダイエットの推移

日付月間累積
2010年8月1日start
2010年9月1日▲0.6kg▲0.6kg
2010年10月1日+0.3kg▲0.3kg
2010年11月1日▲2.6kg▲2.9kg
2010年12月1日▲1.4kg▲4.3kg
2011年1月1日▲2.4kg▲6.7kg
2011年2月1日▲1.6kg▲8.3kg

このブログのサイドに体重計を復活させたのは昨年2010年11月7日でしたが、その後も順調にダイエットが進んでいます。長崎の単身赴任生活で大幅に体重が増加してしまったためです。毎日3回食事をとるとして週に21回食事をしますが、東京にいる時にはこの21回のうち平日の昼食5回のみが自分の裁量下にありますが、単身赴任だと一気に4倍に増えて21回とも自分の好き放題に食事をすることになります。2年間も単身赴任すると一気に体重が増加しました。

東京に戻ってからの6か月間、区役所の中の教育委員会やその天下り団体が運営しているジムや室内プールに週末通いまくって体重管理に努めています。食事とともに運動もダイエットには重要です。

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2011年2月 5日 (土)

米国の失業率低下は何を意味するのか?

昨日、米国の労働省から1月の米国雇用統計が発表されました。ヘッドラインとなる季節調整済みの非農業部門雇用者数の前月差増減は、市場の事前コンセンサスでは+150千人程の増加を見込んでいたところ、政府部門を含めてわずか+36千人、民間部門に限っても+50千人の増加にとどまった一方で、同じく季節調整済みの失業率は12月の9.4%から9.0%に低下しました。さらにその前の昨年11月が9.8%でしたから、急ピッチで失業率が低下しているように見えます。まず、New York Times のサイトから記事を最初の6パラだけ引用すると以下の通りです。

In a Snowy January, Job Numbers Fail to Take Off
The United States labor market is still having trouble achieving liftoff.
Payrolls expanded by 36,000 jobs in January, a sharp decline from recent months and well below consensus forecasts.
But the picture painted by the Department of Labor's monthly snapshot of the job market was confounded by a drop in the unemployment rate to 9 percent, the lowest it has been since April 2009. That was mainly because that rate is calculated using a different survey than the payroll data.
January's snowstorms probably had some effect on the anemic numbers, given that sectors like construction and transportation and warehousing shed jobs. The private sector added 50,000 jobs, so government layoffs, particularly at the state and local level, also restrained growth. Analysts had forecast an increase of about 145,000.
The mixed employment report came in a week when a mosaic of other indicators suggested a more upbeat outlook for the recovery. A closely watched survey of purchasing managers rose to its highest level since May 2004, and chain store sales increased at a faster pace than expected in January. On average, jobless claims have also been trending downward.
As a result, some economists said they would largely disregard January's data because of the snowstorms. Others, however, cautioned that underlying job growth was still not robust.

続いて、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減、下は失業率です。いずれも季節調整済みの系列で、影をつけた部分は景気後退期です。

米国雇用統計の推移

雇用者数の増加が物足りない一方で、ここ2カ月で大幅に失業率が低下したカラクリは、要するに、就業を諦めて労働市場を退出した人が多いためです。下のグラフは労働力人口、雇用者数、失業者数をプロットしています。上のグラフの雇用者数が事業所に対する調査結果であるのに対して、下のグラフは家計に対する調査結果ですので、少し違いが生じていたりします。2010年12月、2011年1月と雇用者数の増加が小幅にとどまる一方で、失業者数が大幅に減少しているのが失業率の低下につながっています。実は、その背景で労働力人口も大幅に減少しています。繰返しになりますが、就業を諦めて労働市場を退出した人が多いために失業率が低下したと私は受け止めています。

労働力人口、雇用者数、失業者数の推移

最後に、いつものグラフを New York Times の blog サイトである Economix から引用しておきます。いずこも同じ jobless recovery です。

jobless recovery

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2011年2月 4日 (金)

TPP 参加による「平成の開国」は何を目指すのか?

一昨日、いくつのメディアから TPP (Trans-Pacific Partner) 協定について政府が情報収集報告書を取りまとめたというニュースが流れました。私はこれらで言及されている報告書そのものを読んだわけではありませんが、分かる範囲で今夜のテーマに取り上げたいと思います。取りあえず、私が見た範囲で最も詳細だった共同通信のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

TPP、コメ関税は段階的撤廃か 政府が情報収集報告書
菅直人首相が6月をめどに交渉参加を判断する環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、すでに交渉を始めた米国など関係6カ国から日本政府が収集した情報をまとめた報告書が2日、明らかになった。日本が参加した場合、農家保護のためコメや牛肉、乳製品など重要品目に課している関税を、段階的に撤廃するよう迫られる公算が大きいことを示す内容だ。
関係国が例外を認める可能性も示唆しているが、実際に認められるかどうかは今後の交渉次第で、菅首相は難しい判断を迫られそうだ。
政府は昨年12月から今年1月にかけて、TPP交渉に参加している9カ国のうち米国、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ペルーの6カ国と個別に協議し、報告書をまとめた。
重要品目について「原則として除外や再協議は認めず、長期の段階的な関税撤廃が基本」などと報告。同時に「各国の状況によって、個別の対応を考える必要性は認めるとの考え方を示す国もある」と指摘している。
9カ国の交渉は24作業部会に分かれ、協定に盛り込むルール作りが進んでいる。このうち関税撤廃を話し合う部会は「今まで締結した2国間の自由貿易協定(FTA)より高い水準の貿易自由化を目指している」。

TPP 協定については政府各府省でも賛否が分かれていて、当然ながら、経済産業省が賛成する一方で、農林水産省は反対しています。例えば、昨年2010年10月27日付けで国家戦略室から包括的経済連携に関する資料がいくつか発表されていますが、その中から TPP の経済効果について、資料2「EPAに関する各種試算」の p.8 を見ると、内閣府と経済産業省が国内経済にプラスの効果があるとの結果を示しているのに対して、農林水産省は農業にダメージがあるとの試算を公表しています。私が主要と考える範囲でこの結果表をサマライズすると以下の通りです。

  • 内閣府
    TPP参加(100%自由化)により、実質GDP0.48-0.65% 増 (2.4-3.2兆円増)
  • 農林水産省
    農業の生産減が毎年▲4兆1000億円程度
  • 経済産業省
    日本がTPP、日EUEPA、日中EPAいずれも締結せず、韓国が米韓FTA、中韓FTA、EU韓FTAを締結した場、「自動車」「電気電子」「機械産業」の3業種について、2020年に日本産品が米国・EU・中国において市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響は、実質GDP▲1.53%相当の減(▲10.5兆円)、雇用▲81.2万人減少

これらの資産は相矛盾しているように見えなくもありません。で、結局、TPP 参加で日本は損をするのか、得をするのか、明瞭ではないような気がしないでもありません。しかし、自由貿易、あるいは、貿易自由化の要諦は一国経済で厚生が増加するということであって、すべての国民1人1人が等しく利益を受けるわけではありません。平たく言えば、損をする人もいれば得をする人もいるわけです。それらを一国経済にアグリゲートすればプラスであろう、というのはほぼすべてのエコノミストが、あるいは、エコノミストでなくてもモノの分かった人であれば合意すると私は考えています。
別の観点からすれば、貿易の自由化によって得をする人から損をする人に何らかの補償を行う余地があるわけです。もっとも、エコノミストの目から見れば、上に引用した試算が正しいとすれば、損をする農業から得をする自動車・電気電子・機械産業へ資本と労働と資金が市場を通じてダイナミックに移動すれば、政府が補償する必要もなく万事オッケーなんですが、資金は別にして、短期に資本と労働の移動がスムーズでなければ、何らかの政府の対策が必要になる可能性があります。その対策には2通りあって、資本と労働を現状通りの産業や地域に張り付けておくことを目指したカギカッコ付きの「補償」政策と、資本と労働を産業や地域を超えて移動させることを目指した「流動化」政策です。前者が現状維持を目指し、後者がダイナミックな変化を目指していることは言うまでもありません。そして、このブログではずいぶんと前から資本と労働の最適配置を目指したダイナミックな流動化が必要であると訴え続けています。現内閣が提唱する「平成の開国」とは我が国経済を対外的に開放し、世界経済における日本の比較優位を明確に認識した上で、資本と労働の生産要素を比較優位のある産業やその産業が集積している地域にダイナミックに振り向ける障害をなくす政策を模索すべきであると私は考えています。なお、誠に蛇足ながら、何の政策なしでも資金は勝手にソチラに向かうと私は期待していますので省略してあります。さらに、私の使う「ダイナミック」とは動学的にというか、ここでは、「時間を通じて」くらいの意味であり、一般に解釈されているような「大幅に」とか「活発に」という意味ではありません。念のため。

しかしながら、報道を見る限り、このブログで従来から主張しているように、「平成の開国」に伴って、いかにして比較優位のある産業に資本と労働をスムーズに移動させるか、といった観点は微塵も見られません。エコノミストでもこの点を主張している人は少ないように感じています。政府の目指す方向が暗示されているのか、国民やメディアの見識を反映しているのか、私にはまったく理解できません。

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2011年2月 3日 (木)

下の子の中学入試でサクラサク

東京・神奈川では一昨日の2月1日からいっせいに中学入試が始まりました。我が家の下の子は小学6年生で、この春から通う中学校を目指して入試に挑戦していました。今日で3日連続の入試も終わり、無事に一昨日の2月1日に受験した6年制一貫の男子校に合格しました。2年前に、私が長崎に単身赴任している際、おにいちゃんの中学受験があり、やっぱり、6年制一貫の男子校に進学していますが、結果的に、下の子はおにいちゃんとは違う中学に通うことになりました。兄弟で互いに「出来れば違う学校に」と考えていたようなフシがあるんですが、いずれにせよ、下の子がずっと前からあこがれていた第1志望校でした。めでたい限りです。
我が家は私が薄給の公務員ですから、金銀財宝を子供に残してやることはとても出来ず、しっかりした教育を身につけさせるのが親の役目と考えています。もちろん、親バカの観点からもめでたい限りです。下の写真はやらせで自分の受験番号を指さしているところを撮りました。

中学入試で合格した下の子

先日、気象協会からサクラの開花予想が発表され、ホンモノの桜は東京ではもう少し先のようですが、我が家の下の子は一足早くサクラサクです。とってもめでたいので、記念日の日記に分類しておきます。

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2011年2月 2日 (水)

1日遅れの毎月勤労統計など最近の経済指標の結果について

昨日、厚生労働省から昨年12月の毎月勤労統計調査の結果が発表されています。いくつかの新聞などのメディアに2010年通年の給与や労働時間指数などの統計に着目した記事があったんですが、12月の統計は無視されたように受け止めています。ということで、まず、私が注目する所定外労働時間指数と賃金は以下のグラフの通りです。

毎月勤労統計の推移

少分かりづらいんですが、上のパネルは季節調整した所定外労働時間指数のレベルの推移、下のパネルは季節調整していない賃金指数の前年同月比増減率の推移です。上のパネルの影をつけた期間は景気後退期です。昨年4-6月期くらいから生産が踊り場入りして残業が減少していることが所定外労働時間指数の低迷の背景にあります。他方、賃金は、201尾年中はまずまずの動向を示しましたが、逆から見て、リーマン・ブラザース証券の破綻後の2009年に大きく賃金が下落した反動が表れたともいえます。最後に、昨年2010年12月がマイナスに入ったのは、ベースとして所定外労働時間が減少して残業代が減ったことが上げられますが、これに加えて、公務員の賞与が大きく削減されたこともマイナス幅を大きくしています。

一般政府正味資産の推移

もうひとつ、1月31日に内閣府から「国民経済計算確報」ストック編が発表され、2009年末時点で政府が債務超過に陥ったことが注目されました。上のグラフの通りです。正しくは「正味資産」という概念ですが、これがマイナスになれば民間企業の債務超過に相当することは確かです。2007年10月を山とする2004-05年くらいからの景気拡大期で正味資産は横ばいから増加に転じたんですが、2008-09年と大きく正味資産を減じて、とうとう2009年にはマイナスに転じました。もちろん、一般政府の場合、最大の資産は徴税力ですが、もう何代にもわたって「消費税率は引き上げない」と公言する総理大臣の下、徴税力が低下している恐れは十分あります。引退世代が逃げ切って、選挙権を持たない将来世代にツケを回す政治がいつまで続くんでしょうか。

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2011年2月 1日 (火)

プロ野球12球団が今日からキャンプイン

12球団キャンプ地

いよいよ今日からプロ野球12球団がいっせいにキャンプインしました。各球団のキャンプ地は上の地図の通りです。Yahoo Sports Navi から引用しています。我が阪神タイガースは今日から沖縄の宜野座村でキャンプを開始し、2月19日からは高知の安芸市に移ります。古い人間ですので、球春という言葉を思い出します。
城島捕手が左ひざを手術して開幕に間に合うか微妙だとか、高校球界ナンバーワンの一二三投手をドラフトで取ったとか、ロッテから小林投手が新加入したとか、断片的な情報は得ているんですが、実はまだよく分かっていません。これからキャッチアップしたいと考えています。昨年はマートン外野手をはじめとして、スタンリッジ投手やブラゼル内野手など、久々に外国人選手が当たりの年でしたが、結局、リーグ戦は優勝を逃して2位に終わり、クライマックスシリーズはいつもの通りの尻切れトンボの2連敗ですから、フラストレーションは残っています。今年はがんばっていただきたいものです。

阪神タイガース2011年球団ロゴ

リーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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