要素需要の盛上りに欠ける機械受注と商品市況に押されて上昇する企業物価
本日、内閣府から12月の機械受注統計が、また、日銀から1月の企業物価が、それぞれ発表されました。機械受注のヘッドラインとなる船舶と電力を除く民需、すなわち、GDPベースの設備投資の先行指標となる系列は季節調整済みの前月比で+1.7%増の7353億円と、4か月ぶりの増加を示しました。しかし、市場の事前コンセンサスはここ3か月ほどのマイナスからのリバウンドを期待して、ほぼ+5%増だったものですから、プラスながらもやや低い印象を持ってしまいます。また、企業物価のうちの国内物価は前年同月比で+1.6%の上昇と、4か月連続の上昇で、しかも、海外の商品市況の高騰を受けてジワジワと上げ幅を拡大しています。まず、いつもの日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
機械受注1.7%増 12月、民間設備投資伸びる
内閣府が10日発表した2010年12月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比1.7%増の7353億円で、4カ月ぶりの増加だった。
12月の市場予想の平均は5.3%増(日経QUICKニュース社調べ)だった。
うち製造業は1.9%減、非製造業は3.9%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は1.6%減だった。
内閣府は基調判断を「持ち直し傾向にあるものの、非製造業で弱い動きがみられる」に据え置いた。
1-3月期は前期比2.7%増の見通し。
同時に発表した10年の受注額は前年比4.6%増の8兆8667億円だった。増加は4年ぶり。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
1月の国内企業物価、前年比1.6%上昇 資源価格上昇で
日銀が10日発表した1月の国内企業物価指数(速報値、2005年=100)は103.9で、前年同月に比べ1.6%上昇した。上昇は4カ月連続で、上げ幅は08年11月(2.4%)以来、2年2カ月ぶりの大きさだった。アジアの需要増や世界的な天候不順を背景に資源価格が上昇したことが主因。
企業物価指数は製品の出荷や卸売りの段階で企業同士が取引する製品の価格水準を示す。
項目別にみると、石油・石炭製品が11.3%上昇。鉄鋼が11.6%、非鉄金属が7.6%上がった。一方、電子機器関連は下落が続いており、情報通信機器が5.0%、電子部品・デバイスが4.1%、電気機器が3.4%それぞれ低下した。
調査対象の855品目のうち、価格が下落した品目数の割合は43.2%。上昇した品目数の割合37.5%をなお上回っている。
次に、機械受注のグラフは以下の通りです。一番上のパネルは、船舶と電力を除く民需のコア機械受注とその後方6か月移動平均、加えて、コア機械受注からさらに携帯電話を除いたコアコア機械受注の推移です。折れ線グラフの色分けは凡例の通りです。真ん中のパネルは、外需、製造業、非製造業の需要者別の機械受注です。なお、非製造業から船舶と電力は除いてあります。一番下のパネルはコア機械受注の達成率の推移をプロットしてあります。
機械受注は評価の難しい段階に達したような気がします。プラスであることを前向きに評価し踊り場からの脱却のサインと受け止めるべきなのか、ここ数か月の落ち込みからのリバウンドとしてはまだまだ弱いと見るべきなのか、正直なところ少し迷わないでもありません。私はどちらかというと後者の評価です。雇用も考え合わせて設備などの要素需要が本格的に上向くにはもう少し時間がかかると見込んでいます。逆から見れば、依然として機械受注は踊り場からは脱却していないと考えるべきです。特に、新興国などへの輸出増の恩恵を受ける製造業と違って、国内需要、特に消費が伸び悩む影響をモロに受ける非製造業が足を引っ張っています。
企業物価は上のグラフの通りです。いずれも季節調整していない原系列の前年同月比上昇率です。上のパネルは国内輸出入及びサービス物価、下は需要段階別に素原材料・中間財・最終財のそれぞれの物価上昇率をプロットしています。ヘッドラインとなる国内企業物価がジワジワと上げ足を速めているのは、ひとつには海外における商品市況の高騰ですが、もうひとつには消費者物価と同じように基準年から離れるに従ってプラスの計測誤差が大きくなっている可能性も排除できません。ラスパイレス指数なんですから上方バイアスはあります。どのメディアも、エコノミストの誰も指摘していませんが、一応、頭の片隅には入れておくべきです。消費者物価 (CPI) は基準年から1年遅れで今夏に基準改定される予定ですが、私の記憶が正しければ、企業物価 (CGPI) の改定は基準年から3-4年遅れますし、サービス価格指数 (CSPI) はさらに1年遅れます。久し振りに最終財の前年同月比上昇率がプラスになりましたが、計測誤差の範囲を超えない可能性がありますので注意すべきです。
最後に機械受注に戻って、雇用や設備などの要素需要が本格的に回復するためには、企業家におけるアニマル・スピリットが欠けているのかもしれません。私はアカロフ教授とシラー教授の共著になる同名の本を読んだ記憶がありますが、理解ははかばかしくなかったように記憶しています。いずれにせよ、4月になって法人税率が引き下げられると何が起こるのか、雇用や設備の本格的な回復の時期と重なる可能性がありますから大きな興味を持って観察したいと思います。
| 固定リンク
コメント