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2011年2月25日 (金)

デフレの続く消費者物価から農業保護を考える

本日、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI) が発表されました。全国の1月と東京都区部の2月の統計です。全国と東京都区部の生鮮食品を除くコアCPIはいずれもマイナスを続けていて、ハッキリ言って、変わり映えしません。全国のコアCPIは23か月連続の下落を記録しました。いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、1月は0.2%低下 灯油価格上昇で下げ幅縮小
総務省が25日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2005年=100)は変動の大きい生鮮食品を除くベースで99.0となり前年同月に比べて0.2%低下した。23カ月連続のマイナスだが、下落幅は前月に比べ0.2ポイント縮んだ。新興国での需要拡大などによる原油価格の上昇を受け、ガソリンや灯油の価格が上がった。
生鮮食品を含めた消費者物価の総合指数は前年同月比で横ばい。食料とエネルギー価格を除いた総合指数(欧米型コア)は0.6%のマイナスだった。日銀が発表した1月の国内企業物価指数は資源高により前年同月比1.6%上昇し、2年2カ月ぶりの上げ幅を記録したが、消費者物価にはそこまで大きく影響は及んでいない状況だ。
品目別では、ガソリンが前年同月と比べて8.2%、灯油が18.4%それぞれ上がった。一方で、値下げ競争が続く家電や耐久財の下落傾向は変わっておらず、薄型テレビは26.1%低下した。
物価の先行指数となる東京都区部の2月のCPI(中旬速報値)は、生鮮食品を除く総合指数が0.4%低下、食料とエネルギーを除いた総合指数は0.3%下がった。現時点では中東の政情不安による原油高騰の影響は小さいが、総務省は「流通価格にどの程度転嫁されるか注視していく必要がある」としている。

次に、いつものグラフは以下の通りです。折れ線グラフは青が全国コアCPI、赤が食料とエネルギーを除く全国コアコアCPI、グレーが東京都区部のコアCPIです。棒グラフは全国コアCPI上昇率に対する寄与度の内訳をエネルギー、食料とその他に分けて示しています。

消費者物価上昇率の推移

すでに、このブログの火曜日のエントリーにおいて、夏の基準改定を含めて今年いっぱいくらいの消費者物価の動向を簡単に見通しておきました。4月になれば昨年からの高校実質無償化の影響が一巡することから、中東の政情不安などを無視して、このまま消費者物価が推移すると大胆に仮定すれば、4月統計ではプラスのインフレ率が弾き出されるハズです。そして、夏の基準改定で再びインフレ率はマイナスに舞い戻り、たばこ値上げの影響が10月になって一巡すれば、さらにマイナス幅を拡大する可能性がある、というのが多くのエコノミストのコンセンサスではないかと私は受け止めています。この点は火曜日のエントリーの繰返しになりますので簡単に止めます。

日本と世界の食料価格上昇率

今夜のエントリーで着目するのは日本における食料価格上昇率です。上のグラフは総務省統計局による消費者物価指数のうちの生鮮食品を除く食料と FAO Food Price Index のそれぞれの前年同月比上昇率をプロットしています。いずれも最新データは2011年1月です。世界と日本の食料価格の動向を表しています。凡例にある通り、青が FAO Food Price Index で左軸、赤が日本の食糧物価で右軸に対応しており、どちらも単位はパーセントです。誰でも簡単に観察できる事実は以下の3点です。第1に、世界の食料価格の変動に対して日本は少しラグを伴って動いていることです。第2に、食料価格上昇率の振幅の幅が日本は世界よりも著しく小さいことです。第3に、昨年来の世界的な食料価格上昇の中にあって、日本だけは食料価格が下落を続けていることです。
第1の点のラグは当然あり得ることです。しかし、第2と第3の点から、食料生産産業の基となっている日本の農業はかなりの程度に世界から隔離されている実態が読み取れると私は考えています。今日のエントリーでは食料価格の変動率だけをデータとして取り上げていますが、食料価格の水準が国内と世界で大きく異なっていることは周知の事実です。データを示さずに一般的ないい方だけで申し訳ありませんが、日本国内では食料価格水準が世界よりも高く、価格変動が抑えられている、という二重の意味で日本の農業は保護されているといえます。いうまでもありませんが、その保護は市場ではなく政府が実行しており、もちろん、コストは消費者が負担しています。この4月のコムギ価格引上げのように、時折、消費者に転嫁されますが、基本は広く浅く消費者が負担しています。理論的に、市場にゆだねるよりも政府の介入の方が死荷重のコストがかかる可能性が示唆されていることは広く知られた通りです。

2月4日付けのエントリーで TPP を取り上げた際に、エコノミストも含めて誰も注目していないポイントながら、TPP による「平成の開国」の要諦のひとつは、「平成の開国」により損をする産業や地域から得をする部門へ雇用や資本などの生産要素を最適配置し直すことであると私は主張しています。今夜のエントリーでは、同じく TPP による「平成の開国」を視野に入れつつ、農業の保護の現状について食料価格上昇率から少し考えてみました。

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