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2011年2月 4日 (金)

TPP 参加による「平成の開国」は何を目指すのか?

一昨日、いくつのメディアから TPP (Trans-Pacific Partner) 協定について政府が情報収集報告書を取りまとめたというニュースが流れました。私はこれらで言及されている報告書そのものを読んだわけではありませんが、分かる範囲で今夜のテーマに取り上げたいと思います。取りあえず、私が見た範囲で最も詳細だった共同通信のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

TPP、コメ関税は段階的撤廃か 政府が情報収集報告書
菅直人首相が6月をめどに交渉参加を判断する環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、すでに交渉を始めた米国など関係6カ国から日本政府が収集した情報をまとめた報告書が2日、明らかになった。日本が参加した場合、農家保護のためコメや牛肉、乳製品など重要品目に課している関税を、段階的に撤廃するよう迫られる公算が大きいことを示す内容だ。
関係国が例外を認める可能性も示唆しているが、実際に認められるかどうかは今後の交渉次第で、菅首相は難しい判断を迫られそうだ。
政府は昨年12月から今年1月にかけて、TPP交渉に参加している9カ国のうち米国、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ペルーの6カ国と個別に協議し、報告書をまとめた。
重要品目について「原則として除外や再協議は認めず、長期の段階的な関税撤廃が基本」などと報告。同時に「各国の状況によって、個別の対応を考える必要性は認めるとの考え方を示す国もある」と指摘している。
9カ国の交渉は24作業部会に分かれ、協定に盛り込むルール作りが進んでいる。このうち関税撤廃を話し合う部会は「今まで締結した2国間の自由貿易協定(FTA)より高い水準の貿易自由化を目指している」。

TPP 協定については政府各府省でも賛否が分かれていて、当然ながら、経済産業省が賛成する一方で、農林水産省は反対しています。例えば、昨年2010年10月27日付けで国家戦略室から包括的経済連携に関する資料がいくつか発表されていますが、その中から TPP の経済効果について、資料2「EPAに関する各種試算」の p.8 を見ると、内閣府と経済産業省が国内経済にプラスの効果があるとの結果を示しているのに対して、農林水産省は農業にダメージがあるとの試算を公表しています。私が主要と考える範囲でこの結果表をサマライズすると以下の通りです。

  • 内閣府
    TPP参加(100%自由化)により、実質GDP0.48-0.65% 増 (2.4-3.2兆円増)
  • 農林水産省
    農業の生産減が毎年▲4兆1000億円程度
  • 経済産業省
    日本がTPP、日EUEPA、日中EPAいずれも締結せず、韓国が米韓FTA、中韓FTA、EU韓FTAを締結した場、「自動車」「電気電子」「機械産業」の3業種について、2020年に日本産品が米国・EU・中国において市場シェアを失うことによる関連産業を含めた影響は、実質GDP▲1.53%相当の減(▲10.5兆円)、雇用▲81.2万人減少

これらの資産は相矛盾しているように見えなくもありません。で、結局、TPP 参加で日本は損をするのか、得をするのか、明瞭ではないような気がしないでもありません。しかし、自由貿易、あるいは、貿易自由化の要諦は一国経済で厚生が増加するということであって、すべての国民1人1人が等しく利益を受けるわけではありません。平たく言えば、損をする人もいれば得をする人もいるわけです。それらを一国経済にアグリゲートすればプラスであろう、というのはほぼすべてのエコノミストが、あるいは、エコノミストでなくてもモノの分かった人であれば合意すると私は考えています。
別の観点からすれば、貿易の自由化によって得をする人から損をする人に何らかの補償を行う余地があるわけです。もっとも、エコノミストの目から見れば、上に引用した試算が正しいとすれば、損をする農業から得をする自動車・電気電子・機械産業へ資本と労働と資金が市場を通じてダイナミックに移動すれば、政府が補償する必要もなく万事オッケーなんですが、資金は別にして、短期に資本と労働の移動がスムーズでなければ、何らかの政府の対策が必要になる可能性があります。その対策には2通りあって、資本と労働を現状通りの産業や地域に張り付けておくことを目指したカギカッコ付きの「補償」政策と、資本と労働を産業や地域を超えて移動させることを目指した「流動化」政策です。前者が現状維持を目指し、後者がダイナミックな変化を目指していることは言うまでもありません。そして、このブログではずいぶんと前から資本と労働の最適配置を目指したダイナミックな流動化が必要であると訴え続けています。現内閣が提唱する「平成の開国」とは我が国経済を対外的に開放し、世界経済における日本の比較優位を明確に認識した上で、資本と労働の生産要素を比較優位のある産業やその産業が集積している地域にダイナミックに振り向ける障害をなくす政策を模索すべきであると私は考えています。なお、誠に蛇足ながら、何の政策なしでも資金は勝手にソチラに向かうと私は期待していますので省略してあります。さらに、私の使う「ダイナミック」とは動学的にというか、ここでは、「時間を通じて」くらいの意味であり、一般に解釈されているような「大幅に」とか「活発に」という意味ではありません。念のため。

しかしながら、報道を見る限り、このブログで従来から主張しているように、「平成の開国」に伴って、いかにして比較優位のある産業に資本と労働をスムーズに移動させるか、といった観点は微塵も見られません。エコノミストでもこの点を主張している人は少ないように感じています。政府の目指す方向が暗示されているのか、国民やメディアの見識を反映しているのか、私にはまったく理解できません。

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