わずかに下方修正された10-12月期GDP統計2次QEは過去の数字か?
本日、内閣府から昨年10-12月期のGDP統計2次QEが発表されました。先月発表された1次QEから設備投資を中心にわずかに下方修正され、ヘッドラインとなる季節調整済み系列の前期比実質成長率は1次QEと同じ▲0.3%でしたが、前期比年率では1次QEの▲1.1%から2次QEでは▲1.3%にマイナス幅がやや拡大しました。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を、いつもの日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
GDP、年率1.3%減に下方修正 10-12月実質
内閣府が10日に発表した2010年10-12月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で前期比0.3%減、年率換算で1.3%減となった。速報段階と前期比では変わらなかったが、年率換算では1.1%減から小幅の下方修正となった。設備投資の伸びが速報値より低くなったことが背景で、マイナス成長は5四半期ぶり。
ただ足元では企業の生産や輸出が復調。1-3月期はプラス成長に転じ、景気が足踏み状態から脱するとの見方が強まっている。
改定値は、速報値の公表後に明らかになる法人企業統計などのデータを使ってGDPを推計し直した数値。日経グループのQUICKがまとめた民間調査機関の事前予想(年率換算1.3%減)と同じだった。
生活実感に近い名目GDPは前期比で0.7%減。年率換算では2.8%減となり、内閣府は速報値の2.5%減を下方修正した。
項目別にみると、設備投資は実質で前期比0.5%増と、速報値(0.9%増)から下方修正された。ただ5期連続のプラスは維持しており、緩やかな持ち直しの傾向は変わっていない。個人消費も0.8%減と、速報値(0.7%減)からやや下振れした。
内閣府の和田隆志政務官は記者会見で、今回の結果について「10-12月期は足踏みが続いたが、今年に入ってから持ち直していると思う」との認識を示した。
昨夏以降落ちこみが続いた鉱工業生産指数は、自動車の復調で11月から反転し、1月まで3カ月連続上昇。輸出も海外経済の復調で、アジアや米国向けを中心に持ち直し傾向にあり、日本経済が1-3月期に昨年10月から続く足踏み状態を脱するとの見方は強い。
ただ足元では中東・北アフリカの政情不安などを背景に原油や原材料価格が上昇。すでに企業物価や小売価格にも波及している。景気が復調しつつある中、内需は盛り上がりを欠くだけに、市況が企業収益や消費を圧迫すれば景気の持ち直しに水を差すリスクもある。
次に、いつものGDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者所得を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。
需要項目 | 2009/ 10-12 | 2010/ 1-3 | 2010/ 4-6 | 2010/ 7-9 | 2010/10-12 | |
1次QE | 2次QE | |||||
国内総生産(GDP) | +1.8 | +1.5 | +0.5 | +0.8 | ▲0.3 | ▲0.3 |
民間消費 | +1.0 | +0.5 | ▲0.0 | +0.9 | ▲0.7 | ▲0.8 |
民間住宅 | ▲4.0 | +1.6 | ▲0.3 | +1.8 | +3.0 | +2.9 |
民間設備 | +1.6 | +0.7 | +2.9 | +1.4 | +0.9 | +0.5 |
民間在庫 * | +0.0 | +0.7 | ▲0.1 | +0.3 | +0.2 | +0.3 |
公的需要 | +1.2 | ▲0.4 | +0.2 | ▲0.2 | ▲0.7 | ▲0.6 |
内需寄与度 * | +1.0 | +1.0 | +0.3 | +1.0 | ▲0.2 | ▲0.2 |
外需寄与度 * | +0.8 | +0.5 | +0.3 | ▲0.1 | ▲0.1 | ▲0.1 |
輸出 | +6.4 | +6.6 | +5.3 | +1.5 | ▲0.7 | ▲0.8 |
輸入 | +1.0 | +3.0 | +4.0 | +2.9 | ▲0.1 | ▲0.1 |
国内総所得(GDI) | +1.6 | +1.1 | ▲0.0 | +0.8 | ▲0.2 | ▲0.3 |
名目GDP | +0.9 | +1.7 | ▲0.6 | +0.6 | ▲0.6 | ▲0.7 |
雇用者報酬 | +0.3 | +1.4 | +0.5 | +0.5 | ▲0.2 | ▲0.1 |
GDPデフレータ | ▲2.4 | ▲2.8 | ▲1.9 | ▲2.1 | ▲1.6 | ▲1.6 |
内需デフレータ | ▲2.4 | ▲1.4 | ▲0.9 | ▲1.4 | ▲1.0 | ▲1.0 |
さらに、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10-12月期の最新データでは赤い棒グラフの民間消費や黄色の公的需要がマイナスの寄与を示していることが読み取れます。
今日発表の2次QEは1次QEからの修正幅が極めて小幅だったこともあり、完全に過去の数字と受け止められています。最大の根拠は、引用した報道に見られる通り、1-3月期にはプラス成長に転換し、今年の年央以降は再び景気回復軌道に復帰する、と多くのエコノミストが考えているからです。もっとも、私は前段の「1-3月期はプラス成長」というのには疑問を持っていて、輸出や生産に着目するだけでなく、消費に注目すれば1-3月期もまだまだマイナス成長を続ける可能性が十分残されていると受け止めています。もちろん、後段の「年央以降は景気回復軌道に復帰」については私も同感です。昨年10-12月期に続いて今年の1-3月期もマイナス成長だからと言って、いわゆる「2四半期連続のマイナス成長に基づく暫定リセッション認定の可能性」はまったく的外れであると考えるべきです。
先行きのリスクは、下振れ・上振れともに考えられ、下振れの方は第1に商品市況の高騰です。そうでなくても力強さに欠ける消費にさらに冷や水を浴びせるだけでなく、昨夜のエントリーで論じたように、より資源集約度の高い産業構造を有する新興国の景気減速を通じた日本経済へのダメージも決して無視できません。なお、商品市況高騰の原因として注目すべき要因として、中東などにおける地政学的なリスクとともに、新興国における景気過熱も一因となる可能性を見逃すべきではありません。第2に我が国の政情不安です。海外論調を見ている限り、リビアと日本の政権はどちらが先に倒れるか分からない、といった趣旨の報道すら一部に見受けられなくもありません。もちろん、政権がどうこうと私は思いませんが、予算関連法案の中には、もしも可決されないと、経済的なインパクトの小さくないものも含まれています。他方、上振れする可能性もゼロではありません。消費の動向次第です。決してサステイナブルではありませんが、家電エコポイント終了の3月末に向けた駆込み、7月の地デジ完全移行の際の駆込みはいずれも考えられますし、景気ウォッチャー調査に見られる国民マインドはかなり高まっていますから、スマートフォンに続いていくつかヒット商品が現れれば、いわゆる「節約疲れ」の反動が出ないとも限らず、何かのきっかけとともに消費が上向く可能性は決して小さくありません。
上振れ・下振れのいずれの目が出るにせよ、あるいは、基本シナリオ通りになるにせよ、今日発表のGDP統計2次QEは過去の数字と受け止められているように私には見受けられます。アナリストの相場観やエコノミストの景況感には特に影響はないと考えるべきです。
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