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2011年3月12日 (土)

貴志祐介『悪の教典』上下 (講談社) を読む

貴志祐介『悪の教典』(講談社)

昨日の地震の余震を警戒して、ほぼ1日中家にこもって、貴志祐介さんの『悪の教典』上下 (講談社) を読みました。英語タイトルは Lessons of the evil とされています。町田にある私立高校を舞台とするホラー小説です。怪物教師が同僚の教師や教え子である生徒を殺害しまくります。まず、講談社の特設サイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

物語について
生徒に絶大な人気を誇り、
PTAや職員の間でも抜群に評判のいい教師が
反社会性人格障害(サイコパス)だったとき、
惨劇へのカウントダウンが始まった。

英語科教諭・蓮実聖司、32歳。

暴力生徒や問題父兄、淫行教師など、現代の学校が抱える病理に
骨まで蝕まれた私立高校で、彼は何を行ったのか。
高いIQをもつ殺人鬼は、"モリタート"の旋律とともに
犯行を重ねていく。

まったくどうでもいいことですが、作者の貴志祐介さんは京都大学経済学部のご出身で、私の後輩に当たる年代だとお見受けしました。年齢に大きな違いはありませんから、同じ教室で授業を受けていた可能性もあります。それは別にして、この作品を「ミステリ」と受け止める向きもあるかもしれませんが、私は「ホラー小説」であると勝手にカテゴリ分けしています。でももちろん、ミステリの要素もありますから、以下、ネタバレの可能性がありますので、未読の方が読み進む場合は自己責任で十分ご注意ください。
主人公の高校の英語教師である蓮見は、トマス・ハリスの生み出したハンニバル・レクター博士のような怪物です。私もホラー小説は詳しくなくて、トマス・ハリスの作品は『羊たちの沈黙』しか読んでいないので詳しくは分かりませんが、少なくとも何らかのインスピレーションを得ているような印象があります。また、中学生のころから殺人に手を染めた蓮見ですが、高校生のころの殺人の方法は、明らかにスティーヴン・キングの『It』冒頭のジョージ・デンブロウの死に方とまったく同じですし、他にもいくつかの典拠がありそうな気がします。ホラー小説に詳しい読者であれば、読書量の不足している私などよりももっと楽しめるのかもしれません。
1-3章は淡々と明るい学園生活が描かれ、その後、4-5章から蓮見の小学生のころにまでさかのぼって、蓮見のパーソナル・ヒストリーを解き明かすことにより、怪物性が明らかにされます。中学2年生の時には両親を殺害して、京都の親戚に引き取られます。京都大学に進学したものの物足りなく感じて1か月で退学し、米国のアイビーリーグ名門大学に進学して、米国の投資銀行に職を得ます。その投資銀行で蓮見の上を行く悪辣さを目の当たりにして、2度と米国には渡航できなくなり、東京で高校教員の職を得ます。前任都立高校での事件が蓮見の犯行であると示唆され、最後の方の10章で蓮見の担当である2年4組全員の殺害に走ります。この10章が最大のハイライトです。しかし、最後は生き延びた生徒や都立高校の事件に不審を抱く刑事により真実が明らかにされます。
連続殺人犯(シリアルキラー)のひとつの類型として、過去の犯行を隠ぺいするために次々と殺人に走ると言うのがあり、蓮見はこの典型だったりします。ある意味で、ウソツキと同じです。事実がウソと齟齬を来たして、次々とウソの上にウソを重ねて行かなければつじつまが合わなくなってしまいます。極めて metaphorical な意味では、経済のバブルも同じ傾きがあるのかもしれません。そして、「蓮実は矯正可能だったのか」と言う観点については、興味深い作者のインタビューが特設サイトにあることを紹介しておきたいと思います。これ以上の考察は私にはムリです。

最後に、こういった連続殺人モノのホラー小説が流行ると「青少年に対する影響」がやかましく言い立てられたりします。実は、我が家ではもうすぐ小学校を卒業する下の子がホラー小説のファンで、この『悪の教典』を読んでいたりします。私は父親として何の心配もしていないことを申し添えます。それよりも怖いのはテレビで繰り返し報じている原子炉溶融です。スリーマイル島からならチャイナ・シンドロームかもしれませんが、日本からなら「ブラジル・シンドローム」だったりするんでしょうか?

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