福島原発事故を海外メディアはどう報じているか?
東北大震災のひとつの帰結として世界が注目するのは福島原発の事故であることは内外の衆目の一致するところだと思いますが、ここ数日の海外の報道を見ている限り、国内メディアよりも危機感が大きいように見受けられます。あえて誇張して書けば、国内メディアには緊張感がやや欠ける一方で、海外メディアの方に危機感があふれています。今夜のエントリーはこの点に着目します。なお、いくつかのメディアのサイトにリンクを張っていますが、中には何らかの登録を要求されるサイトがあるかもしれません。悪しからず。
まず、正しい現状認識ですが、経済産業省の原子力保安院は国際原子力機関 (IAEA) の The International Nuclear and Radiological Event Scale (INES) 基準で評価すると、 基準2でレベル5に相当することを明らかにしています。暫定的な総合評価でもレベル5です。詳細は原子力保安院の3月18日の記者発表「東北太平洋沖地震による福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故・トラブルに対するINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)の適用について」をご覧ください。暫定評価ながら基準2でレベル5というのは米国スリーマイル島の事故に匹敵します。ですから、National Geographic のサイトでは、"For decades, Three Mile Island and Chernobyl have served as shorthand for the nightmare of nuclear power generation gone awry. In the wake of Japan's deadly earthquake and tsunami last week, the still-unfolding disaster of Fukushima Daiichi has come closer than any nuclear crisis in history to making it a fearsome trio." と福島第1原発の事故をスリーマイル島やチェルノブイリに匹敵する3大原発事故として歴史に残るだろうと指摘しています。国内メディアでここまで緊張感ある記事は少なく、福島原発が大事故である認識に欠けているのではないかと誤解するほどのんびりした報道になっています。
なお、INES Scale を図示したものとして、以下の通り原子力安全基盤機構のサイトから引用します。
私が海外メディアを見ている限りにおいて、批判は2点あり、コトの重要性にかんがみて、第1に、事故からの復旧が遅い、ということであり、第2に、政府や東電の情報提供が十分でない、という点です。前者の批判を端的に表したのが Wall Street Journal の記事であり、私が見た最初には "Progress at Nuclear Plant Is Slow" なる、そのものズバリのタイトルだったんですが、今では "At Plant, Repair Is Painstaking Task" とマイルドな表現に改められています。確かに、放水する以外に何か手段がないのかと、シロートながら思わないでもないんですが、残念ながら、私は原発に関する技術的な専門知識を持ち合わせていませんので、第1の点は簡単にこれで済ませておきます。後者の第2の点の情報提供でも同じようなタイトル変更の事例があり、New York Times の記事では、当初 "Flaws in Japan's leadership deepen sense of crisis" としていたところ "Dearth of Candor From Japan's Leadership" に差し替えられました。でも、情報提供についてもっとも端的に表現したのは、来日した国際原子力機関 (IAEA) の天野事務局長の発言で、朝日新聞の記事を引用すると、海江田経済産業大臣との会談後に記者団に対し、日本政府などからの情報提供について、「もっと早く、もっと数多く、もっと正確な情報がほしい」と訴えた旨が報じられています。逆に言えば、それまでの政府や東電などからの情報提供は「遅くて、少なくて、不正確」だったと言うことになります。海外メディアでは Wall Street Journal の記事で "Critics Focus on Accuracy of Nuclear-Plant Information" と批判していますが、かつての「大本営発表」は別の話としても、記者クラブなどを通じた官庁からのニュースソースに頼りがちな国内メディアでは、ここで取り上げたような海外メディアの視点が少し希薄ではないかと私は受け止めています。
この結果、内外メディアの論調の差が大きくなっています。例えば、Wall Street Journal の記事では "Japanese, Foreign Media Diverge" とのタイトルで、日本記者クラブの石川洋総務部長への取材に基づき、日本のメディアは "the Japanese media has a view the situation will be resolved" であるのに対して、海外メディアは "The foreign media is focusing on the other side - that this is getting out of control" であると結論し、内外メディアの見方が大きく異なることに着目しています。どちらの見方が正しいのかは早晩決着がつくことでしょうし、ホントのところは歴史的に判断するしかありませんが、情報提供に関する批判には真摯に耳を傾けるべき点が含まれているように感じています。
March 11, 2011 northeast earthquake and tsunami estimates | The 1995 Kobe earthquake | |
Damage | Estimates range from $122 to 235 billion (2.5 to 4 percent of GDP) | $100 billion (around 2 percent of GDP) |
Death toll | 15,214 (dead and missing) | 6,434 |
Cost to private insurance | $14–33 billion | $783 million |
National budget for reconstruction | $12 billion from current budget. Much more in FY2011. | $38 billion over 2 fiscal years |
最後に、誠についでながら、昨日、世銀のシンガポール事務所から日本の地震と津波の経済的な被害推計が発表されました。もっとも、世銀スタッフが独自に試算したものではなく、日本政府など諸機関の推計を取りまとめただけで、しかも、主眼は東アジアへの経済的な影響だったりします。出典は The recent earthquake and tsunami in Japan: Implications for East Asia と題するリポートです。何らご参考まで。
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