貴志祐介『ダークゾーン』(祥伝社) を読む
貴志祐介さんの『ダークゾーン』(祥伝社) を読みました。春休み向けに買った「親子で回し読み4冊」のうちの3冊目の読書感想文です。作者は3月12日付けのエントリーで取り上げた『悪の教典』と同じ貴志祐介さんです。ですから、というわけでもないですが、私はこの作品もホラーだと受け止めています。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
この本の内容
神の仕掛けか、悪魔の所業か。
地獄のバトルが今、始まる!
戦え。戦い続けろ。
各賞撃破!
1997年日本ホラー小説大賞、2005年日本推理作家協会賞長編賞
2008年日本SF大賞、2010年第1回山田風太朗賞
エンターテインメント界の鬼才が贈る最新長編!
「覚えてないの? ここ、端島(はしま)じゃない」
その名前に触発されて、いくつかの情景が意識に現れようとした。しかし、その映像はぐにゃりと歪(ゆが)み、闇の中に溶け去ってしまう。まるで、この島に関する記憶は、絶対に思い出してはいけない禁忌(きんき)であるかのように。
「そうか……そうだった。
俺も、たしかに、ここへ来たことがある」
長崎(ながさき)市の沖合にある、遺棄(いき)された海底炭坑の島 - 端島。コンクリートの護岸に囲まれて、建物が密集した独特の外観から、軍艦島(ぐんかんじま)という通称で知られている。だが、何のために、こんな島へ来たのかは、思い出せない。まして、なぜ、ここで戦わされているのかは、見当もつかなかった。(本文より)
奨励会三段の塚田が仲間とともに不条理な異世界に取り込まれて軍艦島でゲームを戦います。ゲームといっても人間将棋のバトルロワイヤルで、要するに殺し合いなんですが、将棋と同じように取られると敵駒になります。また、王将などの例外を除いて昇格(プロモーション)もあったりします。歩がと金に、飛車が龍に、角が馬になるようなものです。陣営は赤と青で、塚田が赤の王将、青は同じように奨励会三段のライバルです。人間関係と実際に起こっている事件とも複雑にゲームが絡まり合って進行します。先日始まった将棋の名人戦と同じで4戦先勝で勝ちとなります。
軍艦島でのゲームの各局が章を構成するんですが、局の間に断章というのが挟まれていて、これは異世界でのゲームではなく実際の人間世界での出来事が記述されます。その中で、ホラーですから、人が死んだり、事件が起こったりして、しかも、これらが下敷きとなってゲームの参加者や進行に複雑に関係します。どうして、このようなゲームが始まったのか、このゲームは何なのか、ゲームの結果で何が起こるのか、等々は、ゲームの駒になっている登場人物をはじめとして、私のような読者も含めて誰にも分かりません。何とも不可解な小説と受け止める人がいるかもしれません。
各駒の役割や能力について昇格(プロモーション)とともに従前に理解するのはタイヘンです。もちろん、ルールも複雑極まりないもので、各局で整合性が取れていることは私も確認しましたが、合理的な背景理由は皆無です。どこかに「神」的な存在を前提しないと、合理的な近代人の精神で理解しようとするには無理があります。ようするに、「こういうもんだ」という精神で読み進むしかありません。私がそれほどホラーに詳しくないこともあって、ホラー小説としての評価は難しいと言わざるを得ませんが、ラストの終わり方についてはミステリ小説として、少し物足りないと受け止めています。
我が家ではホラー小説は下の子の専門分野となっています。私も下の子の後に読みましたが、おにいちゃんは今のところパスしています。
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