磯崎憲一郎『赤の他人の瓜二つ』(講談社) を読む
磯崎憲一郎さんの『赤の他人の瓜二つ』(講談社) を読みました。作者は『終の住処』で第141回芥川賞を受賞しており、受賞後第1作ということになります。私がこの作者の本を読んだのは3冊目になります。最初が『肝心の子供』、次が芥川受賞作の『終の住処』です。どの作品も物語が対象とする期間が長いと感じています。例えば、村上春樹さんの『1Q84』は1冊ごとに3か月になっていますが、私が読んだ磯崎さんの3冊の本は、この『赤の他人の瓜二つ』も含めて、ほとんど人間の生涯を短い文章で一気に取り上げている印象があります。
物語は、無理を承知でザックリと取りまとめると、主人公に瓜二つな男の一家に瓜二つな一家の物語ですが、この主人公一家が勤務するのがチョコレート工場ですので、新大陸から欧州にカカオがもたらされるあたりから始まって、日本でバレンタインデーが普及するような話題まで、いろいろとチョコレートの歴史が随所に織り込まれます。この作者の小説らしく、ひとつひとつの筋は極めて明確に語られるんですが、そう簡単に全体像を把握させてくれません。もっとも、私のような読解力のない読者の要約ですから、かなり割り引いて受け止めて下さい。いずれにせよ、とっても不思議な味わいがあります。時空に囚われずに自由気ままにストーリーが展開し、そのまま終わります。でも、途中の略奪婚や最後の血のつながりに関する作者の確固たる態度は感嘆すべきものがあり、特に、最後の主人公の妹の言葉は、私が読んだ限りで血のつながりを扱った伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』や三浦しをんさんの『まほろ駅前 多田便利軒』に通ずるものがあります。
まだたったの3冊なんですが、私が読んだ限りで誠に生意気ながら、磯崎さんの作品の完成度が段々と上がって来ていると受け止めています。多くの方が手に取って読むことを願っています。
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