青山七恵『わたしの彼氏』(講談社) を読む
青山七恵さんの『わたしの彼氏』を読みました。作者はいうまでもなく芥川賞作家です。受賞作は「ひとり日和」だったと記憶しています。この最新作『わたしの彼氏』は、繊細かつ純情な美男子である中里鮎太郎の恋の物語です。彼は姉3人の下の長男として育ちます。もっとも親しい2番目の姉のゆり子からの影響が強く、しっかり者の姉とのんきな弟の組合せは有川浩さんの『フリーター、家を買う』を思い出させます。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
内容紹介
恋は理不尽。恋は不条理。
鮎太朗(主人公)には気の毒だけど、美男な彼の女難は最高に面白くって、恋愛文学の“型破り”な傑作が生まれました。
大学2年の繊細美男子、鮎太朗。美人で怖い姉3人。女たちはみな彼に恋をする。けれどいつも鮎太朗が振られてしまう。何もしていないのに包丁で刺されたり、貢がされたりする。彼を慕い続ける可愛い同級生には、どうしても心が惹かれない - 。
恋は理不尽。恋は不条理。
だけど、ひなたを走りたくなるくらいあったかい気持ちになるのは、何故なのだ?
純文学の作家の中で私はこの作者は好きな方で、芥川賞を受賞した「ひとり日和」をはじめとして、デビュー作の『窓の灯』のほか、『やさしいため息』、『かけら』、『魔法使いクラブ』、『お別れの音』は読んでいます。というか、これでこの作者の出版された作品はすべてではないかという気もしますので、青山さんの作品は全部読んでいるといっても間違いではありません。段々と本が分厚くなっている気がします。特に、『魔法使いクラブ』とこの『わたしの彼氏』はそうです。ただし、読書感想文をアップしているのは「ひとり日和」を別にすれば『かけら』だけで、2009年11月22日付けのエントリーです。もっとも、『わたしの彼氏』を含めて、すべて図書館で借りて読んでいて作者の印税収入には貢献していない可能性があります。
あらすじの最後の「ひなたを走りたくなる」というのは、小説の最後の表現に拠っています。ラストに時点における鮎太郎の気持です。大学の同級生のリリーに振られたところから始まり、姉のゆり子のゴーストラーターに雇った児鳥さんに刺され、姉の桃子がインストラクターをしているジムに通う高校生のサッちゃんに貢がされ、いろいろと遍歴を重ねていく中で、最後はやっぱり同級生のテンテンに収束している鮎太郎の姿が微笑ましく、同時に、作者のややコミカルな表現力や描写力に感心させられます。
とってもきれいなストーリーと表現力で、スラスラと一気に読めます。読後感もさわやかで、文句なしの5ツ星です。消極的に表現しても、これだけ話題になっている作品ですので、読んでおいて損はありません。多くの方が手に取って読むよう願っています。
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