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2011年5月 5日 (木)

伊藤計劃『ハーモニー』(ハヤカワ文庫) を読む

伊藤計劃『ハーモニー』(ハヤカワ文庫)

故・伊藤計劃さんの『ハーモニー』(ハヤカワ文庫) を読みました。多くの国内メディアで報じられた通り、日本で初めてフィリップ K. ディック賞の特別賞を受賞したSF小説です。私が知る限り、こういった分野での文学賞としては、2006年に世界幻想文学大賞 World Fantasy Award が授賞された村上春樹さんの『海辺のカフカ』以来の大きなワールド・クラスの賞ではないかという気がします。なお、以下にはネタバレを含む可能性があります。未読の方が読み進む場合は自己責任でご注意ください。
この小説は、etml すなわち emotional text markup language で書かれています。でも、タグを無視しても読みこなせることは確かです。私も etml ブラウザを持っていませんし、プリントアウトされた本というデッド・メディアですので、ブラウザがあったとしても見られない可能性もあります。というのは冗談としても、この作品は21世紀の初頭に「大災禍」 Maelstrom なる核戦争を経験した世界が、生命の尊重や健康の維持、あるいは、共同体的な調和を重視する社会に変貌し、「生府」 Vigorment がその合意員 agreements に WatchMe をインストールして健康を管理しているような社会です。個人情報を広く開示し、空気を読み合って「個人」ではなく社会的なリソースとして振る舞うことを要求され、もちろん、喫煙や飲酒は忌み嫌われています。また、個人のレベルの「プライバシー」という言葉が少しネガティブな意味に変化していたりします。
主人公である霧慧トァンは WHO の螺旋監察官をしています。この場合の「螺旋」は DNA の螺旋の寓意となっています。いろいろと経緯はありますが、最後は、高校時代の同級生である御冷ミァハと主人公のトァンがチェチェンで再会します。ミァハの生まれは日本人ではなく養子縁組で日本に来ており、チェチェンはミァハの生まれ故郷という設定です。トァンがミァハを倒して、「大災禍」後の最終目的ともいえる究極の人間社会の建設が着手されることが示唆されてお話は終わります。実は、これはミァハの目的だったりします。どのような社会かはネタバレありとはいえ伏せておきますが、最後に「望みうる最高に天国に近い状態」とか、「社会と自己が完全に一致した存在への階梯を登る」と表現されています。もちろん、婉曲に表現されているだけで、作者がこの究極の社会を否定的に捉えていることは明らかです。1か月ほど前の高野和明『ジェノサイド』でも扱われていた「人類の進化」の問題について、またまた考えさせられるSF作品でした。

設定やストーリーや表現力など、いろんな意味で00年代日本のSF小説を代表する作品です。まだまだ話題になっているところですし、読んでおいて損はありません。でも、昨年暮れに酒の席で「日本最高のSFはドラえもんである」と喝破してしまった私のことですので、ある程度は割り引いてお考え下さい。

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