万城目学『偉大なる、しゅららぼん』(集英社)を読む
万城目学さんの『偉大なる、しゅららぼん』(集英社)を読みました。この作者の長編は、すでに『鴨川ホルモー』、『鹿男あをによし』、『プリンセス・トヨトミ』をすべて読んでいて、実は、短編も『ホルモー六景』を読んでいたりしますので、私はかなりのファンといえます。ただし、残念ながら『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』は読んでいません。長編の『鴨川ホルモー』と短編の『ホルモー六景』は京大生を主人公に京都を舞台にしており、『鹿男あをによし』は軽く想像される通り奈良ですし、『プリンセス・トヨトミ』は大阪で展開されるストーリーです。そして、次は神戸に行くのかと勝手に想像していたものの、この『偉大なる、しゅららぼん』はタイトルからだけは分かりにくいんですが、琵琶湖湖岸で繰り広げられる物語です。舞台の地図は出版社の特設サイトから引用すると以下の通りです。
次に、同じ出版社の特設サイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
代々琵琶湖から特殊な力を授かってきた日出家。それは生まれてすぐに湖のご神水をいただくことによって宿る他人の心に入りこみ、相手の精神を操れるという、不思議な力だった。
高校入学をきっかけに、本家のある琵琶湖の東側に位置する石走に来た涼介。本家・日出家の跡継ぎとして、お城の本丸御殿に住まう淡十郎の"ナチュラルボーン殿様"な言動にふりまわされる日々が始まった。ある日、淡十郎は校長の娘に恋をするが、その直後、彼女は日出家のライバルで同様に特殊な「力」をもつ棗家の長男・棗広海が好きだと分かる。恋に破れた淡十郎は棗広海ごと棗家をこの街から追い出すと宣言。両家の因縁と三角関係がからみあったとき、力で力を洗う戦いの幕が上がった!
なお、以前のこの作者の長編と違って、この作品は明確な「犯人」がいるミステリ仕立てになっています。つきましては、以下にネタバレを含む可能性がありますので、未読の方は自己責任でご注意ください。
相変わらず、私のような常人にはにわかに理解しがたい万城目ワールドが展開されます。段々と大がかりになるような気がします。というのは、『プリンセス・トヨトミ』がピークなんでしょうが、巻き込む範囲が広がっています。日出本家に下宿する涼介と清子・淡十郎の本家姉弟のやり取りは関西風のまったりした関係がにじみ出て、なかなか味があると私は感じました。棗と校長の娘である速瀬と淡十郎の三角関係も青春まっただ中の高校時代にいかにもありがちで、ほほえましかったんですが、パタ子さんは謎の存在のままに終わった気がします。もう少し謎解きがほしかった気がします。圧倒的な存在感のある日出家と棗家がかなわない相手が速瀬校長であるのは、情趣を先祖に持つとはいえ意外感がありました。さらに、その速瀬校長を操る源爺が「二度付け」された名を持ち、八郎潟からやって来た別の湖の民だったという落ちは、想像も出来ませんでした。しかし、物語は破綻を来たさずに整合性を持って完結しています。万城目作品の極めて優れたところだと受け止めています。しかし、非常にアクの強い作品ですから、決して万人受けするとは思えません。万城目ワールドを好きな読者は大好きでしょうが、まったく好きになれない読書子もいるであろうことは容易に想像できます。私自身はかなり前者に近いです。面白いものは面白いです。荒唐無稽かもしれませんが、ドラえもんの四次元ポケットと同じです。最後に、読後感は微妙です。棗家は歴史から消滅しますが、転校生の正体を明かさずに終わっているところは含みを持たせています。興味深い終わり方です。
一番上に引用した表紙の画像を見て、赤い詰襟とはかくも赤々しいもんだったんだと改めて認識しました。もう少し赤黒い色かと思っていました。制服がなく、自由というよりも勝手気ままな高校生活を送った私の感想です。
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