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2011年6月20日 (月)

貿易赤字はいつまで続くのか?

本日、財務省から5月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる貿易収支は8537億円の赤字となり、4月の4648億円から赤字幅が拡大しました。なお、輸出額は前年同月比で▲10.3%減の4兆7608億円を記録し、3か月連続で前年同月比で減少しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の貿易収支、過去2番目の赤字 輸出10%減と低迷
震災で車や半導体落ち込む

財務省が20日発表した5月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出は4兆7608億円となり、前年同月比10.3%減少した。4月(12.4%減)より落ち込み幅は縮小したが、東日本大震災の影響で自動車や半導体などの低迷が続いている。火力発電用の燃料の輸入増もあり、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は8537億円の赤字と、過去2番目の赤字を記録した。
輸出の減少は3カ月連続。震災によるサプライチェーン(供給網)の寸断で減産に追い込まれた自動車は38.9%減。米国向けの大型車や中国向けの中型車などが減少した。自動車部品も18.5%減り、自動車と同部品で輸出全体の減少の半分以上を占めた。
半導体など電子部品も18.5%減。パソコンなどに使う半導体メモリーのDRAMがシンガポール向けを中心に落ち込んだほか、台湾向け集積回路が減少した。
地域別では米国向けが14.6%減少。欧州連合(EU)向けも8.8%、アジア向けも8.7%それぞれ減った。
供給網の復旧前倒しで生産は最悪期を脱しつつある。これを受け、5月の輸出は季節調整済みの前月比では2.5%増と3カ月ぶりに増加に転じた。先行きは夏の電力制約や海外経済の減速などリスクもあるが、「供給網が想定通りに復旧すれば、輸出は10-12月期に震災前の水準に回復する」(農林中金総合研究所の南武志主任研究員)との見方もある。
一方、輸入は5兆6145億円で、前年同月比12.3%増加した。増加は17カ月連続。原子力発電所の事故を受けて火力発電へのシフトが進んだ結果、石油など化石燃料の需要が増加。原粗油は30.7%、液化天然ガス(LNG)は33.0%それぞれ増えた。原油相場などの上昇に加え、数量面での増加も輸入金額を押し上げた。
輸出から輸入を差し引いた貿易収支は、リーマン・ショックを受けて世界的に需要が落ち込んだ2009年1月(9679億円)以来の赤字幅となった。貿易収支の2カ月連続の赤字は、08年10月-09年1月の4カ月連続以来となる。

次に輸出入とその差額たる貿易収支のグラフは以下の通りです。水色の折れ線グラフが輸出、赤が輸入、緑色の棒グラフが貿易収支となっています。上のパネルは季節調整していない原系列の統計、下は季節調整済みの系列です。

貿易統計の推移

報道などでは震災の影響により供給サイドがダメージを受けて輸出できなかった、ということになっています。従って、サライ・チェーンの回復とともに輸出は増加し、貿易赤字が縮小ないし黒字化すると考えられています。例えば、下のグラフは上のパネルが輸出金額指数の前年同月比を数量と価格に寄与度分解したもの、下が輸出数量指数の前年同月比と3か月のリードを取ったOECD先行指標の前年同月比をプロットしています。OECD先行指標で代理した世界需要が下げ止まりつつあるにもかかわらず、我が国の輸出は盛り続けていることが読み取れます。もちろん、OECD加盟国ではないながら我が国の輸出先として重要なシェアを占めている中国の景気が大きく減速していることも、グラフが乖離を示しているひとつの要因ではありますが、併せて、サプライサイドの中長期的な要因も考えるべきです。

輸出の推移

もちろん、短期的にはサプライ・チェーンの立直しや生産の回復とともに輸出が持ち直す可能性が高いものの、中長期的に日本の貿易収支が引き続き黒字を維持するかどうかは疑問が残ります。私が考えるに、先日の日経センターの中期見通しと同じ観点から、いずれも原発停止の影響です。第1に、輸出への影響であり、節電により比較優位の構造が変化するため、産業構造の対応が遅れれば輸出が減少する可能性があります。電力供給の影響で産業構造が大きく変化した歴史的な実例としては、アルミ精錬が思い起こされます。すなわち、ボーキサイトからアルミを精錬する場合のコスト構造は電力価格が非常に大きな割合を占めることから、電力料金が高い我が国ではほぼすべての企業が1980年代にアルミ精錬事業から撤退しています。今回の中期的な節電の影響は比較優位に影響を及ぼし、電力集約的な産業に不利な方向で働くわけですが、生産設備などがこの比較優位構造の変化に追いつかない場合、輸出が中期的に伸び悩んだり、減少したりする可能性は否定できません。第2に、輸入への影響としては、原発が停止されるとすれば石油輸入が増加します。単に量的に輸入が増加するだけでなく、我が国は決して経済学的にいうところの小国ではありませんから、我が国が石油輸入を増加させればその価格は上昇します。すなわち、量的にも価格的にも鉱物性燃料輸入は増加します。もちろん、石油だけではなく天然ガスであっても価格には基本的に同じことが起こると私は考えています。日本では先週号の週刊「エコノミスト」で「ガス復権」と題して取り上げられましたし、国際的にも、国際エネルギー機関の今年の「世界エネルギー見通し」 World Energy outlook 2011 の特別リポートは "Are We Entering a Golden Age of Gas?" と題されていますが、エコノミストから見て中長期的には石油と天然ガスの価格は裁定の範囲内にあり、輸送手段や埋蔵量とかの技術的な側面はいざ知らず、経済的な価格は同等・代替のエネルギーとして同じ動きをすると考えるべきです。加えて、もしも原発の稼働がかなりの程度に止まれば石油であれ天然ガスであれ、日経センターの中期見通しが示すように、温室効果ガスは増加するに決まっています。

繰返しになりますが、これらの動向は短期的、あるいは、循環的な動きではなく、中長期的、あるいは、構造的な変化であると認識すべきです。しかも、必ずしもエコノミスト的な観点だけでなく、安全なエネルギーの確保は原発の安全性の徹底とともに、国家安全保障につながる重要な問題です。少なくとも、経済的な比較優位の観点はまだ誰も主張していないので、このブログでしつこく取り上げておきます。

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