「社会保障・税一体改革成案」からシルバー民主主義の政治的パワーを考える!
このブログで取り上げるのは少し遅れましたが、いろいろと議論のあった結果、広く報じられた通り、6月30日の政府・与党社会保障改革検討本部において、「社会保障・税一体改革成案」が決定され、翌7月1日に閣議了解されています。すでに、私のこのブログでは6月3日付けのエントリーにおいて「シルバー民主主義の下で社会保障はあくまで高齢者を優遇し続けるのか?」と題して、極めて高齢者に偏った現状の社会保障制度のままで増税しても、穴の開いたバケツに水を入れようとするようなものであり、しかも、バケツの穴からは高齢者に向けて貴重な財政リソースが大量にあふれ出してしまう、という旨の主張をしてあり、基本的に何ら新たに付け加える意見は持ち合わせません。しかし、ここで、簡単に我が国の社会保障の現状について国際比較を示しておくのも悪くないような気がします。以下のグラフは、社会保障・人口問題研究所の「平成20年度 社会保障給付費」から国際比較のデータを引用しています。

見れば分かると思いますが、2007年における各国の社会支出を政策分野別に比較しています。上のパネルは社会支出に占めるシェアを、下のパネルはGDP比を、それぞれ示しています。特に、「高齢」と「家族」に着目し、「障害」や「失業」あるいは「生活保護」などは一括してあり、上のパネルでは「その他」として表示し、下のパネルでは除外してあります。
まず、上のパネルから、我が国の社会支出では「高齢」が突出して高い比率を示している一方で、「家族」が米国にとほぼ同程度と極めて低い比率しか占めていないことが明らかです。下のパネルでは、取り上げられている6国のうち、日本の「高齢」社会支出はフランスに次いでGDP比で高く、北欧の高福祉国として知られているスウェーデンよりもGDP比で見て多くのリソースを割り当てられている一方で、「家族」分類については、これまた、米国とともに最低水準にあることが示されています。要するに、2010年代半ばに消費税率を10%に引き上げて増税しても、圧倒的に財政リソースは高齢者に配分される、と考えるべきです。
少し前に、圧倒的な高齢者の政治的パワーでいわゆる「後期高齢者医療制度」という高齢者に不利な政策変更が葬り去られましたが、現在、「子ども手当」にも大きな修正が加えられようとしています。この帰結としては、より多くの財政リソースが高齢者につぎ込まれる可能性を指摘しておかねばなりません。シルバー民主主義の政治的パワーは止まるところを知らないかのようです。世代間 inter-generation の観点から見て、引退世代に不利、あるいは、勤労世代に有利な政策変更は、ことごとくシルバー民主主義が阻止してしまう可能性すらあるのかもしれません。
私は昨年書いた紀要論文において、デーメニ式の投票制度は、「現行の民主主義のルール変更を迫るものであり疑問が大きい」と結論しましたが、このシルバー民主主義の圧倒的な政治的パワーを目の当たりにして、何らかの対抗手段が必要であると少し考えを変更しつつあります。
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