ムーディーズの日本国債格下げは何を意味するのか?
米国の格付け会社ムーディーズが日本国債を Aa3 に1ノッチ引き下げ、見通しは安定的 outlook stable とのプレス・リリースを発表しています。引用元は以下の通りですが、念のため、ムーディーズは日本の金融商品取引法上の登録を受けた信用格付け業者ではありません。何らご参考まで。
取りあえず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
ムーディーズ、日本国債を格下げ 1段階低い「Aa3」
9年ぶり、見通しは「安定的」
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは24日、日本国債の格付けを「Aa2」から「Aa3」(ダブルAマイナスに相当)へ1段階引き下げたと発表した。同社による日本国債の格下げは約9年ぶり。今後の見通しは安定的とした。格下げの理由は「多額の財政赤字と、2009年の世界的な景気後退以降の政府債務の増加を受けたものだ」と指摘した。
同社は日本国債について5月末に格下げ方向で見直すと発表していた。発表文では「過去5年にわたり首相が頻繁に交代したことが、長期的経済・財政戦略を効果的で一貫した政策として実行に移す上での妨げとなってきた」と指摘。東日本大震災と原子力発電所事故が「世界的景気後退からの回復を遅らせ、デフレを悪化させた」として、社会保障と税の一体改革などの実現に疑問を呈している。
すでに、5月31日付けで日本のソブリンについては格下げ方向で見直しと発表されていましたから、市場は平静で織込み済みの感がありますが、財務省などは大臣が記者会見を開いて為替について発言する中で、財政再建に関しても発言するなど、かなり敏感に反応しているようです。なお、ムーディーズのリポートの p.5 に従えば、日本のソブリンの格付け変更につながる要因は以下の通りとされています。プラス要因がほとんど実現しそうにない一方で、マイナス要因がかなり実現しそうに見えるのは私だけでしょうか。
- 格上げにつながるプラス要因
- 財政再建目標達成に向けた着実な進展。
- 景気低迷からの力強く持続的な回復
- 格下げにつながるマイナス要因
- 社会保障と税の一体改革の実施の遅れ。
- 世界的景気後退の長引く影響と、3月の地震、津波および原発事故の継続的な影響から、経済が回復できない場合。
- 国債市場の国内投資指向の弱まり、あるいは日本の対外ポジションの大幅な悪化。
また、Moody's Sovereign Ratings Summary によれば、シングルA以上の自国通貨建ての長期ソブリン格付けは以下の通りです。私がピックアップしましたのでタイプミスがあり得ます。ご容赦下さい。
ratings | countries |
Aaa | Australia, Austria, Canada, Canada, Denmark, Finland, France, Germany, Luxembourg, Netherlands, New Zealand, Norway, Singapore, Sweden, Switzerland, U.K., U.S.A. |
Aa1 | Belgium, Hong Kong, |
Aa2 | Bermuda, Italy, Kuwai, Qatart, Slovenia, Spain, U.A.E. |
Aa3 | Chile, China, Japan, Macao, Saudi Arabia, Taiwan |
A1 | Czech, Estonia, Israel, Korea, Malta, Oman, Slovakia |
A2 | Botswana, Poland |
A3 | Bahamas, Malaysia, South Africa |
なお、一部に誤解があるようなんですが、日本国債 JGB のムーディーズによる格付けは2002年から2007年まで数年間にわたって A1 を付けられていた時期があり、その後、Aa2 まで回復してから Aa3 に今回引き下げられたわけであり、1998年にムーディーズの Aaa を失い、2001年に S&P の AAAから引き下げられて以来、トップ・レーティングに復帰したことはありません。経済規模に比較してかなり低いレーティングに甘んじていることは確かです。すべては財政事情に起因します。以下の表はムーディーズと S&P による日本国債の格付けの推移を私が取りまとめたものです。これも、タイプミスはご容赦ください。その下のグラフは分かりづらいかもしれませんが、表をビジュアライズしたもののつもりです。ムーディーズは2002年5月に Aa3 から一気に2ノッチ格付けを引き下げたことがあります。
年月 | Moody's | S&P |
1998年11月以前 | Aaa | AAA |
1998年11月 | Aa1 | AAA |
2000年9月 | Aa2 | AAA |
2001年2月 | Aa2 | AA+ |
2001年11月 | Aa2 | AA |
2001年12月 | Aa3 | AA |
2002年4月 | Aa3 | AA- |
2002年5月 | A2 | AA- |
2007年4月 | A2 | AA |
2007年10月 | A1 | AA |
2008年6月 | Aa3 | AA |
2009年5月 | Aa2 | AA |
2011年1月 | Aa2 | AA- |
2011年8月 | Aa3 | AA- |
短期的な市場の動揺はともかく、中長期的にもっとも警戒すべきなのは、我が国の高齢化の進展に伴って、国内貯蓄の余力がなくなることです。政府債務や国債の調達を国内資金ではまかない切れずに海外に頼るようになれば、市場からの財政規律の順守への圧力がさらに強く加わります。私以外のエコノミストはほとんど誰も主張しませんが、財政に関する市場の圧力がシルバー・パワーの意向に沿った政治圧力と正面から対立する時、日本経済は大きな困難に直面する可能性があります。
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