鉱工業生産と給与にやや弱めのサプライズ
本日、経済産業省から鉱工業生産統計が、厚生労働省から毎月勤労統計が、それぞれ発表されました。いずれも7月の統計です。生産と給与について、3月の震災後の急ピッチの復旧の時期を終え、部分的ながらやや弱い印象を受ける指標も出始めて来た気がします。まず、統計のヘッドラインについて日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
7月鉱工業生産0.6%上昇 回復ペースは鈍る
経済産業省が31日発表した7月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)は93.2と、前月比で0.6%の上昇となった。東日本大震災で大幅に落ち込んだ後、4カ月連続で前月水準を上回った。サプライチェーン(供給網)がほぼ正常化し、主力の自動車生産は持ち直しが続いているが、回復ペースは鈍っている。
上昇率は民間エコノミストの予測中央値(1.5%)を下回った。経産省は基調判断を「回復しつつある」に据え置いた。
主力の輸送機械工業は部品の供給制約の解消で5%の上昇。国内や米欧向けに小型自動車を2割近く増産した。携帯電話やノート型パソコンの新製品の生産で、情報通信機械工業は16%伸びた。全16業種のうち8業種で生産が増えた。
パソコンなどデジタル家電の世界的な需要低迷で、電子部品・デバイス工業は3%低下した。地上デジタル放送移行後をにらみ、液晶テレビ用の大型パネルの生産が落ち込んだ。夏場の電力使用制限が企業の生産活動を抑えた面もある。
部品の供給制約の解消で、7月の生産は震災直前の2月の95%まで回復した。供給面の制約はなくなったが、今度は需要落ち込みを懸念する声が強まっている。
経産省が31日発表した製造工業生産予測調査によると、生産指数は8月は前月比2.8%上昇するが、9月は2.4%の低下に転じる見通し。モルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕チーフエコノミストは「秋以降は世界経済の減速で、生産は頭打ち傾向をたどる」とみている。
7月の給与総額0.1%減 2カ月連続マイナス
厚生労働省が31日発表した7月の毎月勤労統計調査の速報によると、現金給与総額は前年同月比0.1%減の36万7738円となった。2カ月連続のマイナス。所定内給与が0.1%減と7カ月連続で落ち込んだほか、ボーナスなどの特別に支払われた給与が0.1%減少した。東日本大震災直後の雇用情勢の悪化や賃金減少は改善しつつあるが、力強さに欠ける。
総労働時間は前年同月比1.1%減の149時間。残業時間を示す所定外労働時間が1.0%減と2カ月ぶりに落ち込んだ。
景気動向を敏感に反映する製造業の所定外労働時間(季節調整済み)は前月比0.2%増となり、3カ月連続のプラスとなった。ただ6月の6.7%増に比べて伸び率は鈍化した。
まず、鉱工業生産統計の推移は以下のグラフの通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数の水準そのもので、下のパネルは出荷統計のうちの輸送機械を除く資本財と耐久消費財です。いずれも季節調整済みの指数で、影を付けた部分は景気後退期です。
基本的には、3月の震災に伴う供給制約からの復旧局面を終えて、いきなり、我が国を含む世界経済の需要の停滞局面に入った、と私は理解しています。通常の経済学では短期の経済活動は需要に従って変動し、長期は供給に基づいて拡大・縮小する、と考えられていますが、3月の震災後の日本経済においては、6月統計くらいまでは供給面が生産を決定していた一方で、今日発表の7月統計あたりから供給制約を脱して、通常通り、需要が生産を決定する局面に移行したと受け止めています。そして、その需要が世界的に弱い局面に入っているということです。7月統計が市場の事前コンセンサスを下回り、生産予測指数で見て9月は減産するとの見込みですから、震災前の2月水準から少し下回るくらいというカンジだろうと思います。資本財と耐久消費財に分けて考えると、下のパネルを見て明らかな通り、普及需要が中心になれば資本財が耐久消費財を上回る出荷を示すことになります。GDPの需要項目でいえば消費よりも設備投資ということになるのかもしれません。
上のグラフの毎月勤労統計に示された雇用や賃金もほぼ生産統計に整合的です。上のパネルの賃金は季節調整する前の原系列の前年同月比上昇率、下のパネルの所定外労働時間は季節調整した指数そのものです。賃金は前年比ほぼ横ばいで、所定外労働時間は震災前の平均的な水準に回帰しつつあります。昨夜のブログで書いた通り、消費はほぼ震災前の水準を取り戻したと私は考えていますが、エコカー減税やテレビのエコポイントの反動減は別にしても、今後の賃金の動向次第で消費がどこまで伸びるかはやや不透明です。先月の毎勤では賞与が6月から7月に後ズレしたと説明されていましたが、この統計を見る限りでは事実と異なります。
生産とともに消費も震災前の水準に回帰した後、この先、停滞する局面に入る可能性は排除できません。国民のマインドはかなり回復したんですが、新たな総理大臣の下で財務省主導の増税路線が固まるとマインドにどのような影響を及ぼすのか、エコノミストとして新政権への興味のひとつです。
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